184.くぼみ
西の方にある住宅街と公園の区画に向かった、風属性のアレット達のグループはそこで奇妙な痕跡を見つけていた。
「あら、何かしらこれ……?」
大きな公園があると言うのは本当だったのだが、その公園の草地に変なくぼみが出来ているのだ。
自然に出来た様なものとは到底思えず、何か強い力で上から押さえ付けられて出来た様な、そんなくぼみが公園の土の部分や草地の至る所に見受けられる。
(レウスが確か言ってたっけ、この町の中に人間や獣人の気配を感じるって)
探査魔術だったら自分も使えない事は無いのだが、この町の全体をいっぺんに探知出来るなんて、あの男はもう人間と言う枠からはみ出てしまっているのではないかと考えてしまうアレット。
あのドラゴンを討伐した勇者ともなれば、これだけのレベルの差があるのか……と何だか悲しくなって来る。
しかし、今はそんな事よりもこのくぼみが多数ついている原因を探る方が優先だ。
(人間の足跡では無いわよね。でも獣人の足跡でも無い……何かもっとこう……柱でも立てたかの様な穴の開き方よね?)
元々ここに何か大きな建物でも建っていたのだろうか? と思える位に地面にくぼみが出来ているのだが、良く考えてみれば建物を建てるにはもっと深く柱を埋めなければならないだろう、と思い直した。
ならこの公園にこうしてこんなに大量のくぼみが出来たのだろうか?
謎は深まるばかりだが、自分一人だけでなく一緒にここまでやって来たイーディクト帝国の騎士団員達や魔術師達も一緒にここに居る。
なのでそのメンバー達にこのくぼみの原因を考えて貰った結果、幾つかの仮説が浮かび上がった。
「みんなの話を整理すると……私と同じ様にここに何かの建物を建てようとしていたからここにくぼみが出来たって節、それから子供達のいたずらだって言う説、もしくは人間や獣人の足跡が長い年月を掛けて変形して残っていると言う説、単純に土地が荒れていただけっていう説、公園に元々あった設備を撤去した跡が残ったままって説……こうやってみんなで考えてみると結構出て来るものねえ」
自分では思いつかなかったこのくぼみの理由も出て来て、やっぱりみんなで考えると捗るなーと感心するアレット。
だが、今の段階ではどれもこれも推測にしか過ぎないのでもしかしたらもっと別の理由があるかも分からない。
ひとまずこのくぼみの事は置いておき、住宅街の中を見回ってみて何か色々なものが見つからないかどうか見て回る事にする。
(住宅街って言っても、随分と前にこの地中に埋められたってだけで家とかはリーフォセリアの王都カルヴィスとあんまり変わらないわね)
ただ単に年月が経過しているだけで、別に生活スタイルはこの埋められた町ウェイスも自分が暮らしているカルヴィスも同じ様なものだと分かった。
実際に住宅街を手分けして探索してみても、人が住んでいた形跡がある家ばかりで特に目新しさは無い。
……筈だったのだが、その住宅街の一角にある空き地でまたあの「くぼみ」が多数存在している場所が発見されたのだ。
「ええっ、こんな所にもくぼみが?」
騎士団員の一人から報告を受けたアレットは、その現場に行ってみて実際にくぼみがあるのを確認する。
「本当ね……確かにこのくぼみって、さっきあの公園で無数につけられていたくぼみと同じね。でもここは空き地らしいし、何か家でも建てようとした線が濃厚かも知れないわ」
空地を買い取ってそこに家を建てるのは割とある話なので、その線でアレットが納得しかけた……のだが、よーく見てみるとそのくぼみは空き地から外に向かって続いている。
何故なら、空き地の目の前の道は石畳で舗装されている所が大きく剥がれてしまっており、そこにまたくぼみがついているのだ。
それを見て、アレットはふと気になる点を見つけた。
「あれ、でもちょっと待って? このくぼみって見た感じ、まだまだ出来て新しい様な気がするわね?」
年月が経過していたらくぼみ自体が埋められて無くなっているかも知れないし、逆に放置されっ放しでくぼみの中に草が生えているかも知れない。
しかし、この沢山ついているくぼみはつけられてからまだそんなに日数が経過していないみたいである。
レウスが言っていた通り、この町の何処かに人間や獣人の気配を感じたのならその連中がこうしてくぼみをつけた可能性も十分に考えられる。
(でも、そうだとしたらこんなに沢山のくぼみをつける理由が全然分からないわね。等間隔につけられている訳でも無ければ、何か目的があってつけられたって気もしない。まるでこう……つけようとして付けたんじゃなくて、自然についてしまったって言うのであれば……)
もしかしたらここ以外にもまだまだくぼみがついている場所がある可能性が高いので、アレット達は住宅街の隅から隅までを調べ回ってくぼみがついていないかを探索し始めた。
後にこのくぼみの原因が判明するのだが、それはここに居る誰もがイメージ出来ないレベルのものだったと言う結果が待っていた……。