181.古代都市ウェイス
「じゃーレウス、案内よろしくな。この国の魔術師達は興味津々だぞ」
「……って言われても、俺が最後にここに立ち寄ったのは五百年以上前だから、多分色々変わっているんじゃないのかな」
正直な話、アークトゥルス時代だってここに来たのはそれこそ二回か三回位しか無いので、レウスもほぼ初めて来る場所と言って良い。
だが、あのトリストラムに繋がるヒントが何かあるかも知れない以上はこうしてここに落ちて来たのもラッキーなのだろうか?。
とにかく探索を進めて行けば何か分かるかも知れないと考えたのだが、これだけ広い町だし自分も初めて来た様なもんだし……と探索方法を変える。
「やっぱりこうしよう。こんなに広いと移動するだけで疲れるから、それぞれが分担して調査しよう。どうも、ここにはまだ生き物の気配があるみたいだからな……」
「分かるの?」
「……ああ、分かるさアレット。探査魔術でこの町全体の生体反応を調べてみたんだが、どうやらここには人間や獣人の気配があるんだよ」
そのレウスの探査結果報告に、アレットだけでなく他のメンバーからもどよめきの声が上がる。
「おいちょっと待て。貴様の言っているそれってスケルトンとかの類じゃないのか?」
「いや……それは無い。スケルトンだったら魔力の質が違う筈だからな。この魔力だったら生きている人間か獣人か……とにかく、何かしらの生物が居るのは間違いない。町の至る所から感じるからな。だから固まって行動するよりも幾つかのグループに分かれて、そのグループの人員で纏まって行動した方が良いだろうな」
「それじゃあよ、さっきのドラゴンぶっ倒した時のチームの分け方で良いんじゃねえか?」
「ああ、そうしよう。俺が昔来た時にはここの広場を中心に北に貴族街があって、南に行けばスラム街が広がっていて、西の方は大きな公園と住宅街があってさ。そして東側には大きな研究所があって、町長の家もそこにあった筈だ。ただし五百年前の情報だから合っているかどうかは分からないからな」
ギルベルトの案を採用し、再びそれぞれの属性ごとに分かれて行動を開始する。
レウスが生物の魔力を感じると伝えた事で、否が応でも緊張感が高まるそれぞれのメンバー達。
まず、ファイヤードラゴンを討伐したサイカとギルベルトのチームは北に向かって進み始める。
「レウスが言うには確か、こっちには貴族街があったらしいけど……」
「そうらしいな。俺も貴族だからある程度の生活様式とかは分かるかも知れねえけど、貴族っつってもピンキリだから何とも言えねえんだよなあ」
「えっ?」
かなり驚いた表情のサイカを見て、ギルベルトが訝しげな顔つきになった。
「何だよ、もしかして俺が貴族の出身だって聞いて驚いてんのか?」
「うん……それもかなりね。だって出会ってから今までの言動を見ていて、どう考えてもそれっぽく無かったし。口調だってその辺りの荒くれ者みたいだし、制服だってそんなダラダラ着崩して騎士団員の品位のカケラも無いし、いかにもガサツそうだし」
「そ、そこまで言いにくい事をズバッと言うもんか……普通……」
ギルベルトのトラ頭の耳がシューンと力無く垂れてしまったのを見て、ちょっと言い過ぎたかなと反省するサイカ。
「ま、まあ私もちょっとキツイ事言い過ぎちゃったわね……ごめんなさい。それで、貴方が貴族の出身だって言うのなら例えば家の中を見ただけでどんな暮らしをしていたかって分かるのかしら?」
「それもピンキリだな。男爵でも貴族だし、俺みたいに伯爵でも貴族だし、公爵なら貴族のトップだし。とりあえず何処か適当な家に入ってみりゃー、どれ位のレベルの生活をしてたかってのが分かるかも知れねえからな」
しかし、その適当な家に入ってみる以前に貴族街に足を踏み入れたのがまさかの展開を呼ぶ事になる。
どれもこれもかなり高そうな屋敷ばかりで、調べるにはかなりの人員と時間が必要になりそうだ。
とりあえずどの家に入ってみるかと品定めを開始した一行の目の前に、バラバラと武装した集団が現れたのはその時だった。
「……え?」
「おいおい、こいつ等は一体何なんだ?」
自分達と一緒に来ている魔物討伐部隊のメンバーとまた違う格好をしているこの連中は、もしかしたらスケルトンの類か? と考える二人だが、どうやら違うらしい。
「おい、こいつ等は何なんだ?」
「さあな。だがここに無断で侵入して来たみたいだし、息の根を止めちまうぞ!」
どうやら友好的な存在では無いらしく、武装した集団が一斉にサイカとギルベルト率いる魔物討伐部隊へと襲い掛かって来た。
当然サイカはシャムシールを構え、ギルベルトはハルバードを構えて迎撃を開始。
この古代穴の中に埋められていた筈の古代都市ウェイスの中に、生きている人間や獣人が居ると言うだけでもかなりの驚きなのに、その連中が何かをしようと企んでいるらしい。
一体この連中は何者なのだろうか? 何故武装しているのだろうか?
これは何が何でも事情を聴き出さなければ納得出来ない二人は、殺さない程度にこの連中を迎え撃ち始めた。