177.爆裂! ファイヤードラゴン
水属性で強化したサイカと助っ人のギルベルトが向かった先は、四属性のドラゴン達の中で一番の暴れん坊だと名高い、真っ赤な身体が特徴的なファイヤードラゴンの前である。
「ちっ……流石にこいつはやべぇなあ……」
「そうね、油断したらすぐにでもやられちゃいそう!」
冒険者としてそこそこの実績があるサイカはともかく、他国リーフォセリアの騎士団長として魔物に対しての知識も経験も実績も豊富なギルベルトですら、このファイヤードラゴンには苦戦するのは当たり前と言えば当たり前である。
彼の様な獣人でも、真正面からまともにドラゴンと戦うのは危険過ぎる。特にこのファイヤードラゴンは気性が荒い事で知られている魔物の一つで、牙も爪も四属性のドラゴンの中でぶっちぎりに鋭く長い。
『ギャウウウウッ、ガアアアアッ!!』
「くっそ、大人しくしろってんだよ!!」
「危ないギルベルト!!」
「うおおっ!?」
前足を振り回して縦横無尽に暴れ回り、目に入る敵を全てぶっ殺してやると意気込んでいるのもファイヤードラゴンの特徴だ。
自分の視界に入る者は全て敵でエサになると思い込んでおり、良く言えば単純、悪く言えばお山の大将である。
自分のテリトリーを荒らす者は絶対に許さないが、自分が他者のテリトリーを荒らすのは良いと言う自己中心的で自分勝手な性格なのも手伝って、ドラゴン達の中でもファイヤードラゴンとそれ以外で派閥が出来ているらしいのだ。
しかし、今回に限っては他の属性のドラゴンと一緒に戦っているファイヤードラゴン。
古代穴を調べられる訳にはいかない、と思っているらしくサイカとギルベルトを始めとする討伐部隊のメンバー達を牽制して穴に近づけさせてくれない。
「うおっ、あっちーじゃねえかこのやろお!!」
「落ち着いて下さい団長……でも、この炎は厄介ですね」
飛び掛かって行こうとするギルベルトをサイカがなだめながらも、ファイヤードラゴンの吐き出す灼熱の炎のブレスは彼女が言う通り非常に厄介である。
ひとたびまともにこの炎を受けてしまえば、それだけで自分達が消し炭にされてしまうだろう。
しかもタチの悪い事に、このファイヤードラゴンは火属性の魔術を詠唱して発動するのでなかなか隙が見えない。
目標地点に大型の炎を生み出す「エクスプロージョン」や、竜巻型の炎を生み出して飛ばして来る「ファイヤーサイクロン」等の強力な魔術を使えるので、攻撃力が高いのも手伝って防御と回復に徹しつつ反撃のチャンスを伺うしか無い。
そこでギルベルトは一旦素早く深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、この凶暴なドラゴン相手に何とか隙を見出せそうな方法を思いついた。
「しゃーねえ……俺があいつの気をそらすから、その間に集中攻撃をしてブチのめせ!!」
「ええっ、本気ですか!?」
「ああ。まともに正面からやり合ったって勝てねえバケモンだ。ここは俺が囮になってあいつの気を引くしか無え。防御力は低い筈だから、集中攻撃で一気に倒しちまうぞ!!」
そう言ったギルベルトはハルバード片手に走り出す。
トラ獣人の彼は元々人間のサイカやレウスよりも基本的な身体能力に優れており、大きな図体で動きの鈍いドラゴン相手であればすぐにその後ろに回り込む事も可能である。
だが囮になる以上は相手がどんな攻撃をして来るか分からないので、最大限に注意を払う事は忘れない。
そのままドラゴンの左前足の横を走り抜けつつ、ハルバードで思いっ切り斬り付ける。
『グウウッ、ガアアッ!!』
「良し、私達も行くわよ!!」
ドラゴンの注意がギルベルトに向いたのを見て、サイカ達はドラゴンの真後ろへと回り込んで集中攻撃を始める……筈だったのだが。
「え……うわあっ!?」
『ギャウウウウッ!!』
バシンと言う音と共に、いきなり振り回されたファイヤードラゴンの尻尾がその尻尾側に回り込んだ一団を直撃する。
更にファイヤードラゴンはその場でグルリと一回転しながら、自分の周囲を完全に炎で遮ってしまった。
運悪くその内部に取り残されたのはサイカとギルベルトだけである。
だが、その状況に置かれたギルベルトの怒りが爆発した。
「……っの野郎っ、ざっけんじゃねえぞ!!」
『グギャアアアッ!?』
炎を背中にして一気にジャンプした彼は、ファイヤードラゴンの左目目掛けてハルバードを一気に突き刺したのだ。
これには首を大きく仰け反らせて暴れるしか無いファイヤードラゴンに向けて、今度はサイカの攻撃が炸裂した。
「これでも喰らいなさい、アイスショック!!」
自分のシャムシールに魔力を纏わせ、水属性のダメージを与える付与魔術の一種である。
それによって無防備な腹を連続で突き刺されたファイヤードラゴンは、目と腹の痛みに暴れ回る。
「大人しくしろってんだよ、ハイパーエクスプロージョンっ!!」
『グギャアアアッ!!』
自分の目に突き刺さったままのハルバードに持ち主のギルベルトから魔力を流し込まれ、そして目を中心に頭部を魔力の爆発によって吹き飛ばされたファイヤードラゴンは、無言でそのまま地面に倒れこんで行った。