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15.闇夜のバトル

 ぬかるんだ地面からようやく抜け出した助手の女に、先に行けと伝えてレウスの足止めを始める赤い髪の男。

 レウスもその女を逃すまいと追いかけようとしたが、男がその前に立ち塞がって行かせてくれない。


「お前の相手はこの俺だ」

「くそ……」


 ガキン、ガキンと金属同士が激しくぶつかり合い、火花が飛び散る。

 レウスが鋭い突きを繰り出せば、男は身体を捻って回避しながら回転斬りに繋げる。

 向かって来るロングソードの刃をレウスは男の手を蹴って止めて、お返しとばかりに地面を蹴って空中から槍を突き下ろす。

 しかし、男は素早く地面を転がって回避に成功。

 こうした一進一退の攻防が続けられる中で、レウスはこの男の実力に驚いていた。


(この男、かなりやる……一体何者なんだ!?)


 学生の誰かなのか、もしくはセバクターと同じ卒業生なのか。

 いずれにせよ、ここまで自分とタメを張る事の出来る人物は前世ではそうそう居なかった。

 いや、もしかしたら自分が衰えただけなのかも知れない。

 そう考えていた矢先、レウスの側頭部に大きな衝撃がやって来た。


「ぐおあっ!?」


 予告も無しに大きな衝撃を受けたレウスはそのまま吹っ飛び、頭の痛みに悶絶する。


「今の内です、師匠!!」

「ああ、助かったぞ」


 自分の師匠である赤毛の男に逃がして貰った女が戻って来て、レウスの死角からこっそりと忍び寄りつつ思いっ切り飛び蹴りを決めたのである。

 ズキズキする頭の痛みに耐えつつ、自分の身体に回復魔術をかけ始めたレウスを尻目に、赤毛の男女のコンビはそのまま闇の中に消えて同化して行った。



 ◇



「全く、無茶しやがって……」


 医務室のベッドに横たわるレウスを見て、学院長のエドガーは呆れ半分の嬉しさ半分、と言う表情を浮かべた。


「それで、あいつ等は捕まったのか……?」

「いいや、ダメだった。逃げられてしまったよ」


 安静にしていろと言われたレウスが、自分が戦ったあの男女の行方を見舞いに来てくれた一同に尋ねると、その中から悔しそうな表情を顔に滲ませたエルザが歩み出て来た。


「あの二人組……特に男の方は冠絶する程の剣術と、火属性の魔術の使い手だった。なかなかお目に掛かれない上級魔術を幾つも繰り出して来た上に、武器の扱いでも私はまるで歯が立たなかった。そして中庭の至る所に火をつけながら逃げられてしまったよ……」


 そのエルザの話を筆頭に、次々とあの男女の逃走劇が見舞いに来た一同から語られた。

 レウスと戦った時には見せなかった様な強力な範囲攻撃を男の方が繰り出して生徒達をなぎ倒せば、女の方は視界を遮る為の激しい光を生み出す球を地面に投げつけて追っ手を撹乱し、見張り台の上に居た職員に的確に投げナイフを当てて封じ込め、まんまと逃げおおせてしまったらしい。


「……大体事情は分かった。そいつ等はこの学院の生徒じゃないのか?」


 それを聞いていたゴーシュが、エドガーやエルザ等の学院関係者に尋ねる。

 騎士学院と言う、未来の騎士団員を育てる為の学校にわざわざ乗り込もうとする様な人物は余程の考え無しの盗賊か、あるいは学院の関係者かのどちらかしか思い浮かばない。

 だからもしかすると……と言う期待を込めての質問だったが、エドガーもエルザも、それからアレットもセバクターも一斉に首を横に振った。


「追跡していたエルザ達からの報告を受ける限り、俺の学院ではそんな生徒は見た事無えな」

「ああ。エドガー叔父さんの言う通りだ。私は殆どの学院の人間を覚えているつもりだが、あんな二人組は初めて見たな」

「私も女の方の追跡に参加したけど、見た事無い顔と格好だったわね。もしかしたらセバクターさんと同じ卒業生かもって思ったんだけど、全然知らない人だったって言うし」

「ああ。少なくとも俺の知り合いにあんな奴等は居ない。ただ……あの二人はどっちも何処かで見た記憶があるんだが、それが思い出せない」

「えっ、そうなのか!?」


 セバクターの一言に反応するゴーシュだが、反応された側の彼は前置きをしてから答える。


「もしかしたら勘違いかも知れないけどな。ただ、何処かで出会った様な気がする。それが分かればあいつ等の足取りも追えるとは思うんだが……すまない、今の所は力になれそうに無い」

「いや、ある程度の予想はつくぞ」

「父さん?」


 自分が必死にあの二人組を追い掛けていた時にようやく目を覚ましたゴーシュがそう口走ったので、レウスはその予想とやらを聞いてみる。


「そいつ等はもしかしたら傭兵か何かの類だろう。レウスが言うにはその二人は武装していたって話だし、追跡に参加していた人間や獣人からも同じ事を聞いている。それにセバクターは世界中の戦場で活躍しているって傭兵だろう? だったら世界中の戦場をそれこそしらみ潰しに当たってみれば、いずれ何処かでその逃げた二人組の情報が手に入るかも知れない。戦場に来る奴は仕事で来ている奴か、戦い好きな奴か、巻き込まれた奴しか居ない筈だ。だったらセバクターがここを卒業してから今まで渡り歩いて来た戦場をこっちも渡り歩いて、情報収集をすればその二人の行方や正体も分かる時が来ると思う」

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