176.討伐! ウォータードラゴン
土属性で強化した武具を持って、他のメンバーと共にエルザが向かうはその土属性が弱点のウォータードラゴンの方である。
四属性のドラゴン達の中で一番大人しい性格のウォータードラゴンは、その名前の通り水の中を自分の棲み処として行動している。
故に他のドラゴンと違って水中を泳ぐ事が出来る特殊な一面があり、海の生物達を自分のエサにして暮らしているので地上では余りお目にかかる事が無いドラゴンとしても有名だ。
どちらかと言えば天敵は水中の生物達であり、魚系統の魔物だったりサメやシャチ等の大型の生物と抗争を繰り広げていたりと、主戦場が水中なので空を飛ぶ事も滅多に無い。
背中から生えている翼も空を飛ぶ為と言うより、泳ぎ疲れて地上に出る為に羽ばたいて浮かび上がる為のものとして使われている。
今回襲い掛かって来たウォータードラゴンもその例に漏れずに、余り向こうから攻撃をしようとして来ないのは本来の大人しい性格だからこそだろう。
四匹のドラゴンの中では水中の生物が主食なので身体も小さめで、もしかしたら戦わずに済むかも知れないと考えていたエルザだったが、向こうはそうは考えていないらしい。
『ギャウウッ!!』
「うわっ、危ないな!!」
近づいて来る討伐部隊のメンバー達の方をウォータードラゴンが向いたかと思うと、突然その口にエネルギーを溜めて鉄砲水を吐き出して来たのだ。
間一髪でそれを回避したエルザだったが、彼女の後ろに続いていたメンバー達の何人かは鉄砲水に直撃してしまい戦闘不能に。
死ななかったのが幸いだったものの、これで少し戦闘可能な人数が減ってしまった。
本来の大人しい性格は何処へ行ったのか分からないこのウォータードラゴン相手に、エルザはどうしたものかと考える。
(私達もウォータードラゴンに関しては殆ど知らないから、あいつがどんな攻撃を使って来るのかが分からないのが怖いな)
地上で見かける事が少ないドラゴンなのでデータが少ないのも災いし、相手の出方が分からないのでここは慎重に行きたい所である。
しかし、ウォータードラゴンにはなかなかの攻撃手段がある事をこの後エルザ達は思い知らされる事になった。
ウォータードラゴンが身を屈めて大地に息を吹きかけたかと思うと、何とその吹き掛けた所の地面が凍り出したのだ!!
『ガアアッ!!』
「なっ……」
間一髪で全員が飛び退いたので大事には至らなかったが、もし逃げ遅れていたら足元から凍らされて氷漬けにされていたか、身動きが取れなくなっていたか。
どちらにせよ、ウォータードラゴンの攻撃は水だけで無く氷系統もあるらしいのでエルザは舌打ちをして悪態をつく。
「これじゃウォータードラゴンって言うよりもアイスドラゴンじゃないか、あいつは……」
確かに水が凍ったら氷になるけども……と納得するがその名前には納得出来ないエルザは、この厄介な攻撃をまたされない内に仕留めてしまおうと考える。
とりあえず地面の凍っている部分を避けてウォータードラゴンに近づき、エルザが敵の気を引きながら他のメンバーが集中攻撃を始める。
地上で余り活動していないので、他の属性のドラゴンと比べると翼も小さく爪もそこまで鋭くないのだが、それでも人間や獣人にとってはどちらも脅威なのは変わらない。
幸いなのはウォータードラゴン自体が地上での戦いに慣れていないせいなのか、ほぼワンパターンの攻撃しかして来ない事だろう。
(そのでかい身体を使って敵を潰そうとしたり、足の爪で引っ掻いたり、鋭い牙で噛みつこうとして来たり体当たりしようとして来たり……氷の魔術を使って地面を凍らせたのは私も驚いたが、それ以外の貴様の攻撃は既にお見通しだ!!)
エルザの心の声なんて分かる筈も無いまま、群がる人間や獣人達を蹴散らすべく暴れ回るウォータードラゴンだが、既にそのワンパターンな攻撃はエルザだけで無く他のメンバー達の殆ども気が付いていた。
しかも取り囲んでいるメンバー達の属性は土。
自分に不利な属性を持っている討伐部隊のメンバー達に攻撃を繰り返されているウォータードラゴンは、既に息も絶え絶えである。
『グルゥゥゥゥウウウッ!!』
喉を鳴らしながら再び鉄砲水の準備をするウォータードラゴンだが、また発射される前にエルザは先制攻撃で自分のバトルアックス二本の内の一本を投げつける。
投げられた先はウォータードラゴンの頭であり、ブーメランの様に回転しながら左の耳をスパッと切断した。
『ギャアアアアアッ!?』
「ふんっ!!」
耳を一つ失って絶叫するウォータードラゴンが身を捩じらせたが、エルザはお構い無しにバトルアックスで左の前足を切り付けて更にダメージを与える。
左半身ばかりにダメージを負ったウォータードラゴンはそのままバランスを崩して横倒しになり、そこに土属性の魔術を使える者が全員で突撃。
ロックコメットやロックブレイク等の岩を使った魔術で集中砲火を浴びせれば、もはや虫の息となっていたウォータードラゴンが息絶えるのにそこまで時間は掛からなかった。