173.古代穴の秘密
「ここがその目的の穴って訳ね……」
「ああ。これは確かに、町全体が埋められたって言える大きさだな」
サイカもエルザも、イメージしていた大きさよりも遥かに大きかったその古代穴に開いた口が塞がらない状態だ。
さっきのカシュラーゼ絡みの話もこれは本当だと納得せざるを得ない位に、その穴は大きくそして深い。
広さは穴の向こう側が見えないので見当がつかないが、恐らく小さな町の一つがスッポリと埋まってしまうだろうと簡単にイメージ出来てしまうのが怖い。
だが、この二人の会話の内容とはまた別の事でアレットとソランジュが驚いていた。
「これってさ……魔法陣を作っていたんじゃ無いかしら?」
「ん……ああ、どうもそれっぽいな。お主は魔術師だから、この魔法陣がどうなっていたのか分かるんじゃないのか?」
だが、ソランジュの質問にアレットは首を横に振った。
「ううん、こんなに大きな魔法陣は見た事が無いわ。見た所、この魔法陣は穴全体を包む様にして何かをする為に作っていたのかも知れないけど、町全体が魔法陣の中に入ってしまうなんて考えられないし、やろうとも思わないわよ」
「そうか……確かにこんなに大きなものは私も初めて見たぞ」
しかもこれだけ大きな魔法陣を動かすのであれば、魔力もそれなりに入れなければ起動してくれないだろう。
それ程までの規模の魔法陣で一体カシュラーゼは何をしようとしていたのか、かなり興味があるアレットの近くではレウスとギルベルトが別の点に注目していた。
「おいレウス、これってもしかすると……」
「もしかしなくても、これは確実にドラゴンの足跡だな」
土の地面にドッシリと付けられている大きな足跡。
爪が鋭くかなり特徴的な形をしているので、これはどう考えてもドラゴンの足跡だと見て分かる。
しかし、それ以上に気になるのはそのドラゴンの足跡が一匹だけで無く、何匹分も広範囲に渡って付けられている事だ。
良く見ないと分からないのだが、足跡の大きさも爪の長さもそれぞれが微妙に異なっているので、ドラゴンと関係が深いと言われているのはどうやら本当みてえだなとギルベルトは実感している。
そんな彼の横で、レウスは空を見上げて呟いた。
「生物兵器に引き寄せられる形で、野生のドラゴンまでやって来たのかも……」
「かも知れねえな。こんなに多くのドラゴンが闊歩しているなんて危なくってしょーがねえし。俺達獣人でもドラゴンってなあ厄介な存在なんだが、それが何匹も集まるってなると俺等も集められるだけの兵隊を総動員しなきゃ厳しーんじゃねえのか?」
「ああ。俺の魔術でも流石に限界あるだろうし。俺の昔の仲間だったら何匹ものドラゴンを一撃で倒した、まさに化け物クラスの魔術を使っていた奴が居たんだがなぁ」
レウス曰く、正直今の戦力だとかなり厳しい。
昔の仲間達だったら「一撃で頼むぜ」とお願いすればその通りにやってくれたのだが、今回は仲間のレベルが違えば相手のレベルが分からない状況。
なので、ここは一旦新しい方のウェイスの町に戻って体勢を立て直したり色々とリサーチを掛けるべきだとレウスはギルベルトに提案する。
しかし、魔物の方はそれを許してくれそうに無かったらしい。
「……ん?」
「何だ、この地鳴りは……」
ズシン、ズシンと重たい足音が幾つも聞こえて来る。
その足音の主が地面に振動を伝え、地鳴りとなって魔物討伐部隊のメンバーを惑わせている。
その正体についていち早く反応を見せたのは、人間よりもあらゆる感覚が鋭い獣人のギルベルトだった。
それに、討伐部隊のメンバーの中の獣人達も彼と同じく足音の主の正体に感づいた。
「まずい……もう来やがったか」
「ああ。俺達の身体に染み付いた魔物の体液や血の匂いを嗅いで、それで集まって来たみたいだな」
レウスも魔力を使って感覚を研ぎ澄ましてみると、全部で四匹の敵がここに迫っている事に気がついた。
なので、息を吸い込んで大声でメンバー達に注意を呼び掛ける。
「全員戦闘準備だ、ドラゴンが全部で四匹近づいて来ている!」
「よ、四匹だと!?」
「ちょっと、幾ら何でも多すぎじゃない!?」
「慌てんじゃねえ。それぞれが分散して戦うんだよ。四匹纏めて相手すんじゃなくて、一匹を分散して撃破するんだ!!」
「四つの属性それぞれを感じるから、こっちもそれぞれの魔力や武具の属性で固まって、自分の属性に弱いドラゴンを集中攻撃するんだ!!」
レウスとギルベルトの指示に従って、討伐部隊のメンバーがそれぞれ動き出す。
そうしている内に、まずは一匹目の切り込み隊長として火属性のファイヤードラゴンが一行の目の前に姿を現わした。
対する討伐部隊からは水属性のメンバーが集結し、ファイヤードラゴンに対して攻撃を開始する。
だが、ドラゴン達の現れる場所は四方八方御構い無し。
空から姿を見せたドラゴンは、緑の身体に白い腹が特徴のウィンドドラゴン。名前の通り風属性である。
この属性に強い火属性のメンバーが迎撃を始める一方で、雄叫びを上げながら森の中から襲い掛かって来たのが土属性のアースドラゴン。
これは風属性が有利なので、スピードを活かして手早く仕留めたい所だ。
そして一番スローモーな動きで姿を見せたのは、水色の鮮やかな身体が特徴的なウォータードラゴン。
土属性の魔術で水を吸収してしまえばかなり弱いので、こちらも一気に仕留めて終わらせたい。
レウスとギルベルトはそれぞれ、人手の足りないファイヤードラゴン迎撃部隊とウィンドドラゴン迎撃部隊のメンバーに加勢し始め、四属性のドラゴンの討伐作業が幕を開けた。