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172.「旧」ウェイスの町

 セバクターとの遭遇から一夜明けて、一行は地形の問題から馬を使わずに徒歩で北の方にある古代穴へと向かって進軍していた。

 五百年前、この穴があった場所にはウェイスと言う町があったのを今でもレウスは覚えている。

 セバクターの部下達と戦いを繰り広げていたあのウェイスの町は、この穴の場所にあった「旧」ウェイスの町を参考にして造られた町なのだと皇帝のシャロットは語っていた。

 そして帝都グラディシラでシャロットと背中の流し合いをした時に自分が話していた通り、ここはかなり雪深かったのを思い出して、今が冬じゃなくて本当に良かったと安堵する。

 ここまで来る途中にレウスがギルベルトや女達にその「旧」ウェイスの町の事を説明しながら、周囲の状況にも気を配っていた。


「この辺りはドラゴンとそれなりに関係があった場所なんだ。五百年前はかなり野生のドラゴンが多くて、人間や獣人達を始めとした他の生物達と抗争を繰り広げていたんだ」

「うへー、かなり物騒な場所なのね」

「まぁ、それも雪が降らない季節の話だけだよ。冬になって雪が積もる様になったら、人間だって獣人だってドラゴンだって外に余り出なくなるからな。トラ獣人のあんたなら分かるだろ、ギルベルト?」

「まあな。俺達は人間と動物のハーフだから、冬になったら冬眠したくなっちまうよ」


 騎士団長だからそうもいかねえんだけどな、と苦笑いするギルベルトに対して頷いたレウスは更に話を続ける。


「特にこの辺りは雪深いから除雪だって大変だし、冬が一番平和な場所だって言われてるからさ。だからもしかしたら、冬にエネルギーを蓄えておいて雪の降らない今の季節に発散したがる魔物達が多くなるんじゃないかって思ってな」


 実際の話、五百年前にこっちに来た時は丁度冬だった。

 なので魔物達による被害は全く出ずに進軍する事が出来たのだが、五百年の時を超えて再びやって来た同じ場所は雪の積もっていない季節。

 ここに来るまでの間にも大型の魔物を遠目に見てしまったし、あの山の上でワイバーンに襲われた時の事を思い出すと警戒心が強くなるのは当たり前だった。

 しかし、それよりも気になるのは何でそのウェイスの町があった場所に大きな穴が出来たのか? と言う事である。

 それについては、ここイーディクトの出身であるソランジュが話してくれた。


「私を含める地元の住人なら殆どが知っているんだが、ここは百五十年前だかに何らかの大きな実験をしていたらしい。で、それが失敗してしまって町ごと壊滅する切っ掛けになって、地中に町全体が埋まってしまったんだ」

「それって、俺があの皇帝に無理やり行かされてサンドワームを討伐しようとしていたバランカ遺跡と似た様なもんじゃないか?」

「そう言えばそうだな。ただ、バランカ遺跡は長年の放置によって自然にああやって砂漠の中の遺跡になったのに対して、こっちの「旧」ウェイスの町は人工的に埋められたんだよ」

「埋められた……?」

「ああ。実験の失敗を隠す為に……とか何とかって良く分からない理屈で埋められたそうだ」


 埋まってしまった、と言っていた最初の口振りだとこっちも自然と地中に埋まってしまったのかと思っていたが、どうやら実態は違うらしいとレウスは悟った。

 その点に対してもう少し詳しく教えて欲しい、とギルベルトが突っ込む。


「実験って何の実験をしていたんだ?」

「さぁ? 私はそこまで詳しくは知らん。ただ、大がかりな実験に失敗したから町全体を埋めて、周辺住民の安全を確保しようとしたってのは聞いている。それ以上の事はさっぱり分からないんだ。一説によればカシュラーゼ絡みの実験をしようとしていて、それが失敗したからカシュラーゼの指示が出て町を埋めたって言われているのだが……」

「またカシュラーゼ? 本当、勘弁してほしいわよね」


 ソランジュの隣を歩いているサイカがうんざりとした表情になる。

 考えてみれば、生物兵器としてドラゴンを開発してそれを世の中に十匹も解き放ったのがカシュラーゼだし、あの赤毛の二人も最終的にカシュラーゼで待っていると言っていたので何かカシュラーゼ絡みの話で自分達を招き入れているのが見え見えだし、今回のこのウェイスの町もカシュラーゼ絡みと来れば更にカシュラーゼへの嫌な気持ちが大きくなる。

 この気持ちはサイカだけでは無く、他のメンバーにしても同じだった。


「実験の失敗を隠す為に町ごと埋めるなんて、やる事が大掛かり過ぎるわね」

「そうだな。そもそも町一つを埋めなければならないってレベルで失敗した実験って何をしたのか気になるが……調べを進めていけば分かるだろうな」


 余程知られたくない実験の内容だった為か、その実験に関する資料は全て破棄されてしまっており、それに関わっていた人間や獣人達も「不慮の事故」として行方知れずになっているのがカシュラーゼの怖い所なんだ、とソランジュはかなり複雑そうな表情をしながら説明していた。

 そして、そんな会話を繰り広げる一行の視界が開けて目的の古代穴が姿を見せたのは、その数分後だったのである……。

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