171.セバクターの思惑
「せっかく色々と準備をしていたのに、こんなにされてしまったらまた準備し直しだろう。派手にやってくれたもんだ」
「ああ。しっかりやっていたのは凄く良く分かる。これだけの人員を用意して、これだけの物資を用意して、本当に用意周到だったんだなって分かるよ。だが俺達が聞きたいのはそんな事じゃねえんだ」
レウスはそこまで言って、前に話題になった入団試験時の偽造問題も絡めて問い詰める。
「お前は騎士団の入団の時にも……いや、騎士学院への入学時にも出身地を偽造していたらしいな。わざわざそんな事をして騎士学院に入学し、そして騎士団の入団試験を受けて突破したのに辞退する。これも今回の事と何も関係がないとは思えない。だからここでお前が一体何をしようとしているのかって事を、俺達はしっかりと問い詰めなきゃならないんだよ」
「ああ、こいつの言う通りだぜ。事と次第によっちゃーこっちも容赦は出来ねえぞ?」
バキボキと指の骨を鳴らして牽制するギルベルトを左手で制しつつ、レウスはセバクターを見据える。
しかし、それでもセバクターは口を割ろうとはしない。
「それは言えない。その時が来たら話す」
「今がその時だっつってんだろおがああああ!! てめえ良い加減にしろよこの野郎!? てめえがこうして仲間集めて何かしようとしてるって事は、絶対また何かを企んでるにちげーねえんだよ、おお!?」
「落ち着けギルベルト。……こっちだって、ここまで派手にやる予定じゃなかったんだ。素直に話すと言うのであれば、俺の魔術でこのメンバーを全員回復させる。だが素直に話せないと言うのであれば、お前もこの倒れて呻いている部下達と同じ目に遭って貰う。二つに一つだ。どっちかを選べ」
暴走しそうになっているギルベルトをまた手で制しつつ、セバクターを見据えるレウスのその目つきはさらに鋭くなる。
それを見て、セバクターは後ろ手に組んでいた手を説いた。
「何度も同じ事を言わせるな。その時が来たら話すと言った筈だ。ほら……お前達の仲間が迎えに来たみたいだしな」
「え?」
「何だと?」
そう言うと同時に、セバクターは左手でレウスとギルベルトの後ろを指差した。
そのセリフに対し、もしかして女達の誰かが自分達を迎えに来たのか? とレウスとギルベルトは自分達が入って来た路地の方向を向いてしまう。
それが命取りとなってしまった。
セバクターは二人が路地の出入り口の方に目を向けた隙を見計らい、解いた手から何かを彼等に向かって思いっ切り投げつける。
これには流石のレウスもギルベルトも反応出来ずにモロにそれを受けてしまった。
「おい、誰も居ねえじゃねえかうおっぷ!?」
「ぶほっ!?」
二人の周囲を、夜の闇の中でも分かる程に真っ白な煙が包み込む。
しかもその煙を吸い込んでしまった二人の呼吸がどんどん苦しくなって、喉の痛みと鼻の奥に感じるツーンとした痛み、更に目に入った煙が痛みと痒みを併発して抵抗力を大幅にダウンさせたのである。
レウスとギルベルトが悶え苦しんでいるその隙に、セバクターは自分の部下達を全員起こして広場からそそくさと退散して行った。
「ぐほ、げほ、がは……っ、ま、待ちやがれげほげほげほっ!!」
「うぐふぅ……な。何だこれ……煙幕と催涙……げへ、げへへっ!! こんな物を用意……ぐへえ!」
歴戦の猛者である騎士団長ギルベルトでも、五百年前の勇者アークトゥルスでもこうして完全な不意打ちを食らってしまったら悶絶するしか無い。
結局その場で追い詰めたセバクターを、彼からの思わぬ反撃によって部下全員ごと逃がしてしまうと言う悔しい結果で終わってしまったのだった。
「はーっ、はーっ、はぁ……あ、ああ……」
「ふう……何とか落ち着いたか?」
「ああ、何とかな……」
むせかえりながらも何とか魔術を使ってレウスが自分に回復魔術をかけて、その後にギルベルトに回復魔術をかけてあの謎の煙幕攻撃からようやく回復した。
防壁魔術を展開する前に不意打ちを食らってしまっただけで無く、全員逃がしてしまって物凄く悔しいレウスとギルベルト。
あのセバクターが何をしようとしていたのか、せめてこの広場に散乱している物品から何か手掛かりが無いかを探してみようと提案するレウス。
ギルベルトもそれに賛成し、月明かりしか無い状態で手掛かりを見つけ出そうと頑張ってみる。
が……。
「うーん、駄目だな。さっきの戦いで色々壊してしまった上に、特に目ぼしい物は何も無さそうだ。そっちはどうだアークトゥルス?」
「こっちも駄目だよおっさん。何かの木材とか金属とか、何かを作ろうとしてたっぽいのは分かるんだけど、何をしようとしてたのかまではさっぱり分からないな」
「金属とか木材……何だろうなあ、何かの設備でも作ろうとしてたのか?」
あれだけの人員を集めて、これだけの物資を用意して、何かを作って何をしようとしていたのまでは分かった。
だがそれ以上の答えを得る事が出来ず、とりあえず散らかった物品を広場の隅に寄せ集めて掃除してこの日は終わってしまった。