170.路地奥の激闘
登場人物紹介にドゥドゥカス・マッツ・フォーゲル、ソランジュ・ジョージ・グランを追加。
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「……あ」
セバクターを追い掛けて入って行った路地の奥が暗くなっていたので、良く見えなかったのが災いした。
そのままズンズンと進んで行った先にあったものは、四方を家の裏の壁に囲まれている正方形の大きな広場。
そして、そこに集結している多数の人間や獣人達の姿だった。
その内の一人である、路地の見張りの女がレウスとギルベルトのコンビに気が付いて声を上げる。
「何? こんな所に部外者が何の用?」
「俺達はこの先に進んで行った、ピンクの髪の人間に用があるんだ。そいつと話をさせてくれねえか?」
「セバクターに用があるですって? あんた達、一体何なのよ?」
なるべく事を荒立てない様にギルベルトがお願いしてみるものの、訝しげな態度を変えないまま女が聞いて来る。
なので、ここは事実だけを話す事にした。
「俺達はセバクターの知り合いなんだよ。俺も、それからこのトラのおっさんもな」
「おっさん……」
「良いからここは俺に任せろ。で、この町でセバクターを見かけてつい後を追い掛けて来たんだけど、良かったら会わせてくれないかな?」
おっさん呼ばわりされて若干ムッとするギルベルトを手で制しつつ、レウスは何とか見張りの女に許可を貰えないか頼み込んでみる。
しかし、セバクターはセバクターの方で色々と事情があるらしいのがこの後の女のセリフで分かった。
「残念だけどそれは出来ないわね。貴方達がセバクターの知り合いだか何だか知らないけど、あの人は今忙しいのよ。だからさっさと立ち去って。立ち去らないなら力尽くででも立ち去って貰わなければならないわよ?」
「え? そんなに部外者を入れたくない事をしてるのか?」
「そうよ。悪いけど知り合いかどうかも分からない人に見せる訳にはいかないの。だから帰って頂戴」
「……だってさ。どうするオッサン?」
「オッサン呼ばわりは止めろ。だが、そう来るならこちらにも考えがあるんだよな」
「何……ってうわあ!?」
こうなれば先にやっちまえと言う精神で、レウスは全力で女の顔面にハイキック。
怯んだ彼女に対して今度は股間を蹴り上げてやり、力が入らなくなった女の身体を一気に持ち上げて奥に見える広場に向かって全力で突進。
「らあああああああ!!」
「おい、こいつ等はあんまり殺すなよ。セバクターの野郎を引っ張り出さなきゃならねえんだからな」
そのまま見張りを広場に向かってブン投げるレウスと、彼にそう忠告しながら後から続くギルベルト。
投げられた見張りは、広場の中に置いてあった色々な用具や材料が整理整頓されて並べられている場所を派手に破壊してノックアウト。
当然、その衝撃音で広場に居た人間や獣人達がレウスとギルベルトの存在に気が付く。
「なっ、何だあいつ等は!?」
「侵入者だ!! 迎え撃て!!」
バタバタと真夜中の広場が慌ただしくなる。
前にソルイール帝国のベルフォルテの町でバトルを繰り広げたカフェ「サンマリア」の店内の様にスペースは制限されていないので、今回は思いっ切り戦える。
ただし、殺すなとギルベルトから釘を刺されている以上は槍を使わずに徒手格闘だけで何とかするしか無い。
それは言い出したギルベルトも同じだ。
なので大人数相手にガンガン臆する事無く攻めて行く。ここは怯んだら負けだ。
(何かの準備をしているのか? 色々と物が散乱しているな……)
見張りの女をノックアウトし、続いて右足で蹴り掛かって来た女のその右足を掴んでジャイアントスイングで遠くへと投げ飛ばす。
次にロングソードを振り被って向かって来た男に先に抱き付き、男が向かって来たその勢いを利用して近くの壁目掛けて突き飛ばす。
「ふっ!」
「っ!?」
後ろを向けば魔術師の女が杖を構えて向かって来たので、グルッと足首をスナップさせてしゃがみながら横に一回転し、低い体勢から相手の膝を崩してアゴ目掛けて左アッパー。
追い打ちで、アッパーをかました頭部を右手で地面に叩き付けてフィニッシュ。
が、まだ敵は居る。
ナイフを突き出して来た男の右腕の外側に回って、肩からその腕を逆方向にへし折りつつ膝蹴りを腹にかまして地面に叩き付ける。
続けて小振りのバトルアックスを手に向かって来る女の腹を前蹴りで蹴って、前屈みになったその女の頭に間髪入れずに再び前蹴り。
彼女が倒れた後ろからレウスに飛び掛かって来た男には、スッと横にかわしながら彼の身体をキャッチして、そのまま後ろの壁目掛けて投げ飛ばした。
「おいレウス、油断すんじゃねえぞ!!」
「分かってるよ!」
ギルベルトもトラ獣人である事のパワーと俊敏性を活かして、パワー戦法で向かって来る敵を潰して行く。
落ちている物を投げつけたり、人間を投げ飛ばして別の人間にぶつけたり、タックルをかましたりして倒し続ける事でトータル三十人撃破。
レウスも油断する事無く最後まで戦い、気が付けば二人の足元には呻き声を上げて地面に転がっている人間や獣人がおよそ五十人。
残るは……。
「……何だお前等、何故こんな所に居るんだ?」
「セバクター……てめぇこそこんな所で何していやがる?」
この騒ぎが収まるのを待っていたかの様に、月明かりに照らされて広場の一角から二人の方に向かって歩いて来るその人間は、間違い無くセバクター・ソディー・ジレイディールだった。
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