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168.ウェイスの町で

「それじゃ、本当の生い立ちは分からないって事ですか?」

「そうなるな。だから結局騎士団に入っても、そこを隠しておきたい上にあんな性格だから協調性って面でちゃんとやってけんのか? って不安があったんだけど、その前にあいつが辞退して傭兵家業をし始めたって訳さ」


 しかし、そこまでして傭兵にならないといけない理由でもあったのだろうか?

 この六人の疑問は尽きない。


「でも傭兵として活動するんだったら、何も別に私達と同じ騎士学院に入学する必要なんて無かったと思うけどねえ?」

「そこは貴様に同意だな。傭兵の仕事だったらどっちかって言えば冒険者ギルドの管轄だし。レウスはどう思う?」

「え……俺? そうだなあ……俺が考えられるのは、騎士学院に入学する事で戦術はもとより武術もより洗練されたものになるから、傭兵として経験を積むよりも手っ取り早いって思ったとか?」

「えー? 確かにそれも一理あるとは思うけどさ。でも最終的に傭兵として活動するんだったらやっぱり最初から傭兵として活動するべきだったんじゃないかしらねえ?」


 しかし、ここで幾ら考えても結論は出そうに無い。

 真実を知っているのはセバクター本人なので、自分達が考えても無駄だからである。

 そんな会話を続けていて、一行は何時の間にかウェイスの町の入り口まで辿り着いていた。


「今日はここに泊まって、明日から北の方にある穴に向かう。装備品と体調は整えておく様に」


 そう言って全員を一旦解散させた後、レウスはギルベルトに誘われて町の酒場へと向かった。

 体調管理云々って自分で言っておいてこれか……と自分で思っていたのだが、別に酒を呑む訳では無く今後の方向性についての話だ。


「で……アークトゥルス様はあれか? 今後もまだリーフォセリアには戻らねえつもりかよ?」

「今の所はそう考えてる。ってか、そっちが俺達を逃亡者として未だに指名手配中なんだから、戻ったら危ないだろ?」

「ああ。俺やドゥドゥカス陛下が納得しても国民が納得しねえ。問題は色々山積みさ。それを考えるとやっぱお前等は戻って来ねえ方が良いだろうな」


 そう言いつつ、ギルベルトは運ばれて来た巨大ジョッキのビールをグイっと煽った。

 一方でレウスはビールと同じタイミングで運ばれて来たサラダを胃の中に収め始める。

 そして、遠くの方では女達四人がこの店のサービスであるチェスに興じている。今の状況がまるで魔物討伐の旅の真っ最中だと言う事を忘れてしまいそうな、穏やかな時間が流れているのはきっと今だけだろう。

 そう考えるレウスだが、明日からの事を考えると嫌でも気合いを入れなければならない。


「なあ、ギルベルト」

「何だ?」

「俺さ、こうやって旅に出て分かった事があるんだよ」

「分かったって、何がだよ?

「俺は戦いからは逃れられない運命なんだろうなって事さ。五百年前から記憶を維持したままこの時代に生まれ変わったのも良く分からない話だけど、前世でやっとあのエヴィル・ワンを倒して……それで戦いは終わったと喜んだんだよ」


 戦いに疲れて、それでやっと今度は勇者としてで無く一般人として生活が出来る。

 もうあんな闘いの日々はごめんだと思っていたにもかかわらず、気が付いたらこうして世界中を巡る旅に出ざるを得なくなってしまい、そしてこんな遥々遠くまで来てしまった。

 その現実を考えると、結局自分は戦いに明け暮れていたあの日々からは逃れられない。

 そう思うしか無くなったのが、今日の山の中でのワイバーンとのバトルであった。


「ワイバーンが俺の逃げる道を塞いだ時、俺の中で何かが吹っ切れたんだ。どうしても俺が戦うのを止めさせてくれないんだったら、徹底的にその運命を受け入れてやろうって思ってよ」

「抗う……? それは偶然じゃねえのか? 誘拐されて国外に出たのも、それからこうやって国王の命令でこっちまで来てしまったのも全てさ。そもそも、本気で戦いたくなかったのであれば意地になって突っぱねちまえば良かったじゃねえかよ。結局、この戦う道を選んだのはアークトゥルス様本人の意思じゃねえのか?」

「かも知れないな。しかし、これだけは言わせてくれ。誘拐されたのは決して俺のせいでは無いと思うぞ?」

「まあ、そりゃあな」


 この国の国王であるシャロットの願いを突っぱねて、北まで来ていなかったら。

 いや、それ以前に学院に入学してからあの赤毛の二人に関わらなければ。

 いいや、それよりも前……初っ端の話でアレットとエルザに学院に誘われた時に断っていたらこんな事にならなかったんじゃないかと思ってしまうので、半分は自分のせいかもと自問自答している。

 けど、結果的にこうなってしまった以上はもう戦うしか無い。

 あの赤毛の奴等を倒して、さっさと戦いの幕を下ろしてしまえば今度こそ戦いの日々に終わりが訪れるんじゃないかと……レウスは漠然とそう考えていたのだ。


「アークトゥルス様が戦う事を決めたってんなら、俺はもう何も言えねえな。ただ、必要な物があれば俺達がバックアップするから何でも言ってくれ」

「それは助かる」

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