165.様子のおかしいあの男
「そういやよぉ、最近エドガーの奴が何かおかしいんだよ」
「え、学院長がですか?」
「叔父さ……学院長がどうかしたんですか?」
「んー、何て言うかさ……何となく切羽詰まってるってーか、ここの所あいつが一人でブツブツ言いながら考え込んでるって言うか。あいつの陽気な性格が鳴りを潜めて、まるで別人みたいになっちまってるんだよなあ」
ギルベルトが言うには、まだ完全に学院の修復は終わっていないらしい。
なのでエドガーと話し合いの場を設けて学院の修復を進めているのだが、最近はその話をしている時も何だかエドガーが上の空だったり、たまに飲みに誘っても断られてしまったりと以前のエドガーとは全然反応が違うのだと言うギルベルト。
「最初は、自分が学院長やってる騎士学院であんな事件を起こされたんだからそりゃー凹むよなーって思ってたんだがよぉ、まだ完全に終わっていないとは言えだいぶ学院の修復も終わったってーのにまだ凹んでやがんのかな、あいつ。親戚のエルザなら何か知ってんじゃねえのか?」
しかし、学院が爆破されてしまってからは自分やアレットがレウスと一緒に誘拐されてしまったので、エドガーとも強制的に引き離された状態が続いている。
それをギルベルトにエルザが伝えると、トラの後ろ頭をポリポリと指で掻きながら「そーだよなぁ……」と納得の表情を見せる。
「まぁ、俺も人の心が読める訳じゃねえから何とも言えねーけどよ、あいつってあんなに何かをズルズル引きずるタイプじゃなかった気がすんだよなあ」
「例えば何か別の事で悩んでいるんじゃないですか?」
「別の事って……例えばどんなこった?」
「例えばほら、親戚で親しい関係のエルザがこうやって誘拐されて、それでずっと連絡が取れなくて落ち込んでいるとか」
しかし、そのサイカの予想はギルベルトによって明確に否定された。
「いや、それは無えなあだってほら、この前アークトゥルスの奴があいつの親父に連絡しただろ。その後に俺達にも連絡が来たんだよ。さっきお前達から聞いた内容とほぼ同じ話をゴーシュの奴から聞いて、エドガーの奴はメチャクチャ喜んでたんだぜ?」
「え、そうなんですか?」
「そうだよ。この親戚が無事だったって聞いてさ、その日は俺とエドガーで祝杯上げに行ったんだよ。だけどその後からなんだよな、あいつが何か変になっちまったのって」
そうなるとエルザ関係の気持ちの問題ではなくて、何かもっと別の問題があってこその変化なのだろう。
そうとしか思えない四人に対し、エドガーは更にこんな話をし出した。
「実はあいつの様子をおかしいって思ってんのは俺だけじゃなくて、ドゥドゥカス陛下もそうらしいんだ」
「陛下もですか?」
「そうだよアレット。機会は少ないとは言え、エドガーは陛下と会話する事もあるからな。学院が爆破されちまってから修復計画とか犯人を捕まえる為の包囲網とかを俺も交えて三人で話しててさ。んでその陛下と話す回数がそれで一時的に増えて、修復作業が終わりかけている今ではまた減って来てるんだけど、やっぱりエドガーの様子がおかしいって陛下も気が付いているんだ」
この辺りは直接本人に聞かないと分からないのだが、いずれにしてもエドガーの様子が変なのでギルベルトは現状を確認出来次第リーフォセリアに戻る事が決まっている。
なのでその時にエドガーに直接聞いてみるつもりだ、と彼は決意した。
だがそのギルベルトがリーフォセリアに戻る時に、自分達も一緒に戻れないかどうかを聞いてみるエルザ。
あの赤毛の二人とセバクターが実行犯の可能性が高いと分かった以上、このまま東から船を使ってリーフォセリアに戻っても別に問題は無いんじゃないかと考えたからだ。
しかし、それはギルベルトにノーと言われて却下される。
「ええっ、私達の容疑が晴れたんだったら戻れても不思議じゃないのに……どうしてですか?」
「目の前でこんな事を言うのは悪りーと思うけどよぉ、まだお前達の疑いが完全に晴れた訳じゃ無いってのは分かってくれや」
「えっ、まだ晴れてないんですか?」
レウスからゴーシュ経由で連絡が入っているのであれば、それを基にしてとっくに容疑が晴れていてもおかしく無い筈だと考えていたアレットが、呆気に取られた表情でそう質問する。
「そーだよ。元々この国の王様の命令でこっちに来たとは言え、セバクターの野郎もこっちに来てるってーのがまだあいつと繋がりがあるかも知れねえからな」
「繋がりって、そんな!」
「繋がりは騎士学院の生徒か卒業生かと言うだけですよ、団長。私やアレットがあの様な男とそれ以上の繋がりを持つ訳がありません!!」
それはギルベルトも分かっているのだが、彼の立場でもどうにもならない事もあるのだと言う。
「そりゃあ俺だってそう思ってるよ。思ってっけど、色々と外交的な立場も考えなきゃならねえんだ。重大事件の容疑者がまだ国内に居るかも知れないのに封鎖を解除したなんて周辺諸国に知られたら、声のでかい奴等からバッシング受けちまうよ。陛下の立場もあるんだ。分かってくれ」