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163.吹っ切れた勇者

「だったら……こうするんだ!!」


 そんな叫びと共に、叩き付けられた二本の斧が少ししなる位の強さで繰り出した一撃。

 それを受けた崖が、ミシ、メキッと嫌な音を立て始めた。


「良し、崩れるから急いで離れるぞ!!」


 エルザの言葉に従って、彼女を含む四人は急いで崖から離れ始めた。

 その後ろの崖ではボロボロと岩の塊が崩れ落ちて来て、最終的にはゴゴゴゴゴ……と地響きを立てつつ大きな崖崩れになって行く。

 その様子を時折り振り返りながら四人が見ていると、地響きによって思わず足を止めてしまったトカゲの後ろから、続けて追い掛けて来ていた大きな蜘蛛が激突して二匹纏めて転倒。

 そこに運悪く崩れて来た崖が、その二匹を始めとする多数の魔物達に岩の滝となって降り注いで行く。


「すご……」

「うえーっ、悲惨……」


 自分達が巻き起こした事とは言え、岩や木が混じった土砂に巻き込まれて生き埋め状態になって行く魔物達に対して何だか気の毒になるエルザとアレット。

 しかし、これで後ろは大量の土砂で壁を作って塞ぐ事に成功したし、魔物達が迂回して来るとしてもかなり回り道をしなければならないだろう。

 心なしか足取りも軽くなった四人は、崖崩れを起こす為に遅れ気味になっていた騎士団員と魔術師の部隊に追い付くべく、更にスピードを上げて山を一気に下って行った。



 ◇



 協力プレイで修羅場を乗り越えた女四人達から遠く離れた山の頂上の広場では、未だに修羅場が続いていた。


「その程度かよ? ワイバーンってのは五百年前も大した事は無いと思っていたが、空を飛べなければ本当に大した事が無いのは今でも同じみたいだな」

『グガアアッ!!』


 修羅場が続いているのは実はレウスでは無く、魔物達のリーダーであるワイバーンの方である。

 既に翼はボロボロでまともに飛ぶ事が出来ず、口からブレスを吐き出そうにも全身を槍で滅多刺しにされていて力も入らず、辺りがワイバーンの体液でグチョグチョに濡れている。


「だから最初に俺は忠告したんだよ。俺の邪魔をするならどうなっても知らないぞってな!」

『グフウッ!?』


 最初にワイバーンが襲い掛かって来た時、これは「ちょっと本気モード」を出さなければならないと悟ったレウスは、言葉が通じる相手では無いと分かっていても一応こう忠告しておいたのだ。


「俺の邪魔をするならどうなっても知らないぞ。このままここから離れて人里離れた場所で暮らすか、この山の中で大人しく暮らすかを選んでさっさと消えるんだな。それが出来ないって言うんだったら、自分の身体中が穴だらけになっても文句は言うなよ?」

『グルゥ……ガアアアアッ!!』


 魔力を体外に放出して、警告オーラを発するレウスにワイバーンは一瞬怯むものの、気合いを入れ直して雄叫びを上げレウスに襲い掛かる。

 そんなワイバーンの突進を転がって回避し、レウスは溜め息を吐きつつ槍を構えた。


「そうか。そっちがそう来るんだったら忠告を無視したって事になる。人間や獣人相手に本気は出さないって決めていたんだが、今回はお前みたいな魔物が相手だからな。これだけ戦いに巻き込まれて、もう今更戦いたくないなんて言ってられる状況じゃなくなったんだよ。レウス・アークトゥルス・アーヴィン……いざ参るっ!!」


 かつて、リーフォセリアの王国騎士団長であるギルベルトに勝手にミドルネーム扱いされたアークトゥルスだが、今はレウスでは無く五百年前の勇者アークトゥルスとして戦うに当たって自分でその名前を名乗って気迫をアップさせる。

 ワイバーンの方はワイバーンの方で覚悟を決めたらしく、その大きな体躯に見合わない位にグルリと素早くターンして再びアークトゥルスに向かって来る。

 しかも途中で地を蹴って飛び上がり、翼で風を起こして一旦アークトゥルスに砂ボコリで煙幕攻撃を食らわせた。


「ふん」


 それを鼻で笑いつつ、アークトゥルスは魔力を乗せた槍で衝撃波を飛ばして一瞬で砂ボコリを薙ぎ払った。

 更に衝撃波を飛ばしてワイバーンに手付けの一撃をお見舞いすると、今度は魔力で脚力を強化して一気にワイバーンに接近し、バサバサとはためく左の翼を一撃で四分の三程まで抉り取る。


『ガ……?』


 最初は何が起こったか分からなかったワイバーンも、片方の翼が抉られた事でバランスを崩してようやく事態を飲み込む。

 何とかもう片方の翼を早く動かしつつ身体を傾けてバランスを取ろうとするものの、アークトゥルスの槍がそのもう片方の翼の約半分をザンッと抉り取った。

 更にバランスが崩れるだけで無く、翼で羽ばたけなくなりつつあるワイバーンは成す術無く地上に逆戻り。

 ならば……と身体の中の魔力を口の中に溜め、ワイバーンはアークトゥルス目掛けて炎のブレスを吐き出した。


「エヴィル・ワンのファイアブレスに比べたら、焚き火のレベルだな」


 防壁魔術をドーム状に自分の身の回りに展開し、その防壁に沿って炎が走って行くのをドームの内側で何処かぼんやりとした目で見つめながらアークトゥルスは呟いた。

 しかし、何時までもここでこんな雑魚を相手にしている場合では無い。

 まだまだ魔物達が居る筈だし、先に逃げて行った女達の安否も気になるので、アークトゥルスはそろそろ遊びを終わりにして決着をつけるべく動き出した。

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