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160.絡み合う戦略

 自分の両親がまさかの修羅場を迎え、そして救出されて勝利の(?)祝杯をあげている丁度その頃。

 息子のレウスは討伐部隊のメンバー達と共に山を進み、ようやく山頂に辿り着こうとしていた。

 ここまで何度か魔物達との戦闘はあったものの、北の町ウェイスに近い事もあってか駆除が進んでいるらしく、そこまで大規模な戦闘にはならずに進んで来られた。

 しかし、レウスは何かが心の中で引っ掛かっていた。


「どうしたの、レウス?」

「胸騒ぎがするんだ。これはちょっと変なんじゃないかって」

「何がだ?」

「魔物の駆除が進んでいないって情報の割には、やけにあっさりとここまで来られた。それが変なんだよ」

「そうかしら? こっちにはウェイスの町もあるから駆除が進んでいるんじゃないかしら?」

「俺も最初はそう思ったんだよ。だがな、さっきから何となくこの山から感じる魔力が段々と濃くなって来てる気がするんだ。まるで山全体が敵意を持っているみたいにな」


 レウス曰く、妙な胸騒ぎの原因はそれなのだと言う。

 ここまでかなり楽に来られたのは、それなりの理由があってこそだと思うのだが……この辺りがやけに静かだというのもまた気になっていた。

 アレットとエルザとサイカは特に気にしていなかったのだが、エルザはその話に同意し始める。


「私も何となく嫌な予感はしている」

「ちょっとちょっと、エルザまで何を言い出すのよ?」

「何となくだが、私達を取り囲む様に魔力が集まっている気がしてならないんだ。これは私の考えでしか無いんだが、恐らくこれは私達を待ち伏せしているんじゃないか?」

「魔物がか?」


 ソランジュの反応にエルザは頷く。


「そうだ。レウス、魔術で辺りの様子を探ってみてくれないか?」

「ああ、分かった」


 レウスは足を止め、マウデル騎士学院にあのヴェラルとヨハンナの赤毛の二人が襲撃して来た時と同じく、耳に魔力を集中させて何時もの数倍先まで声や音が聴き取れる様にする。

 更に探知魔術も同時に発動し、今の場所から円形の広い範囲で生物の魔力を感じ取れる様にセンサーを発動する。


 顔を伏せてジッと目を閉じて周囲の様子を伺うこと、およそ三十秒。

 レウスがかなり険しく、そして怖い顔をして頭を上げた。


「まずい、俺達魔物に囲まれてるぞ!!」

「え!?」

「ど、どうするのよ? 一旦引き返す?」

「いや……このまま進もう。ここで引き返してもどうせ囲まれているのは同じだし、地面の悪い場所で襲撃されたら一巻の終わりだ。多分奴等は何処かで俺達全員を集中砲火して、一気に仕留める気だろう」


 そこまで言って、レウスはオレンジの手袋をはめた左手で山の上の方を指差した。


「もう少し進めば頂上の開けた場所に出る。奴等が襲撃して来るとしたら恐らくそこだろう。俺がこの部隊全てに防壁魔術を掛けるから、少しペースを落として進むぞ」

「ペースを落とすの?」

「ああ。今日中にこの山を越える為にこうやって一気にここまで来た訳だけど、身体への負担もその分でかい。特にこういう山道は足腰を使うからな。下半身の動きが鈍るのは戦いの中では致命的だから、ペースを落として負担を減らそう。それから今の時点で治癒魔術も全員に掛けておくぞ」

「その後は?」

「頂上に着いたら魔物達が一気に襲って来る可能性が高いから、まず俺が範囲魔術で片付けられるだけ片付ける。そして後は一気に山を下るぞ!!」


 だが、進軍計画が決まったのは良いとしても敵の戦力がどれ程のものなのかが分からなければ、それもまた命取りになりかねない。

 レウスが探知した相手の戦力は、詳しい魔物の種類は分からないが大小問わず山の中の魔物が取り囲んでいるらしい。

 ざっと大まかに探知出来ただけでも、少なく見積もって百五十匹以上は居るのだとか。

 こっちの戦力は全然数で及ばない上に、大型の魔物を相手にするとなれば一対一で叶う相手でも無いのでかなり厳しい。

 だったら真っ向勝負で戦う事をせずに、さっさと逃げてしまえば良いだろうとの結論に達した。


「時間に余裕があれば、魔晶石を使って爆弾を作って罠を仕掛ける事も出来るんだが……戦力差が大き過ぎる上に何処から奇襲をされるか分からないからな。厳しいが、山を下りるまでの辛抱だ」


 騎士団員やエルザ、ソランジュ等の魔術が得意では無い者達に回復魔術を掛けて疲れを癒し、その上から防壁魔術を掛けて準備を進める。

 アレットを含む魔術師達も協力し、ペースを落として魔力を少しでも回復させながら進む。

 だが、ソランジュがレウスにこんな質問を。


「なあ、赤サビ色のドラゴンの気配はその私達を囲んでいる魔物達の中に無かったか?」

「いや……すまん、探査魔術だと魔力があるのは分かるんだが、その魔力の主が何なのかって事までは分からないんだ。大型の魔物も何匹か居るんだが、その魔物達の中に居るかも知れないし居ないかも知れない」

「そうなのか……だったらそのドラゴンがまた別の場所で襲って来る可能性もあるって事だな」

「かもな。とにかく今は進むだけだ」


 討伐部隊の戦略と魔物達の戦略が絡み合いつつ、山の中の時間が過ぎて行く。

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