153.セバクターの足取り
登場人物紹介にエジット・テオ・ピエルネを追加。
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その爆風によって吹き飛ばされたレウスだったが、地面が砂だったので強かに身体を打ち付けただけで大した怪我もせずに生還。
後に残されたのは首から上が木っ端微塵になった、バジリスクだったものの塊だけだった。
ゆっくりと地面に倒れ伏せ、地響きを立てながら横たわる。
この瞬間、砂漠のヌシであるバジリスクを撃破して討伐部隊の勝利が決定した。
槍を杖代わりにして立ち上がったレウスが一撃でヌシを撃破してしまった事によって、わあっと彼の周りに討伐部隊のメンバーが集まって来た。
「きゃーーー、やったじゃないレウス!!」
「さっすがレウスだ、貴様ならやってくれるって信じてたぞ!」
「凄いな、お主はこんな大きいのを一撃で倒せるなんて……」
「やっぱりアークトゥルスの生まれ変わりだってだけの事はあるわね!!」
女四人を始め、レウスを口々に讃える声が彼を取り囲んだ討伐部隊メンバーから上がる。
しかし、レウスはそんな歓声にも大してリアクションもせずにまずこの後にやるべき事について指示を出した。
「喜ぶのは後だ。まだ細かいのが生き残っているし、さっきの大穴を含めてバジリスクの穴を全て埋めないと、今度ここを通る人が落ちてしまうかも知れないからな」
「あっ……それもそうね。それじゃ皆さん、仕上げを始めましょう!!」
レウスの指示とアレットの号令によって再び討伐部隊のメンバーが動き出し、残党の始末と地面の整備が開始された。
当然レウスも一緒に手伝い始めるが、彼の頭の中はバジリスクの事でも無く、かと言って自分が賞賛された事でも無い別の事で頭が一杯だった。
(考えてみれば、あのサィードって男は俺達の後を追い掛けて来た訳じゃなくてここまで自分一人で来たらしいけど、もしそれが本当なら運の良い奴だな。農村の辺りを荒らし回っていたって言うトレントに出合ったのか、それとも一人で撃破出来たのか……もし後者であれば想像以上の実力者って事になるよな)
自分達が集団で何とか勝てた、あの木の化け物にも彼は立ち向かったのだろうか。
そして忘れたくても忘れられないレベルの、あの魔物達が見るも無惨な状態で横たわっていた光景も彼一人で作り出したのだとしたら、かつて勇者と呼ばれた自分でも苦戦するかも知れない。
あの男の素性だって名前位しか良く分かっていない以上、油断ならない存在なのは間違い無い。
そうして、やっとの事で砂漠地帯を抜けた頃には良い感じで日が暮れて来ていたので、今日はそこから少し先にある山の麓の村で夜を明かす事に決めた。
あのバジリスクの尻尾の部分についていた大きな魔晶石も全て回収し終え、北にある魔術研究所で新しい魔道具の研究に使ったり設備の補修に使われるらしい。
騎士団の部隊長と魔術師達の隊長から、五人の武器と防具も更に強化してくれるとそれぞれ約束があったので、見返りはきちんと用意されているらしい。
しかし、レウスにはそれよりも気になる事があったので村の人間に聞き込みをしてみる。
すると、あの人物の目撃情報が飛び込んで来たのだ。
「セバクターがここを通って行ったって?」
「ああ。雑貨屋の店主が覚えていたよ。ここの村に立ち寄って食材と薬草と包帯を買い込んで、酒場で食事をしてから山の方に向かったらしい」
サィードはセバクターを見ていないと言っていたが、彼があの砂漠地帯までしか進んでいないとなればセバクターとかち合わないのも無理は無い。
何故なら、セバクターがこの村に立ち寄ったのはもう三日も前の事らしいので、ここから先の山道なんてもうとっくに超えてしまっているだろう。
「三日前だったらかなり前にここに来たって話よね。ってなると私達とソルイールで出会ってからかなりのペースで進まないと難しそうよ」
「いや、俺がサイカと一緒にバランカ砂漠に向かったタイムラグがあるから、それを考えたらそこそこ時間には余裕があると思う」
「あ、そうか……それがあったわね」
久し振りの目撃情報でだいぶ記憶がゴチャゴチャになっている一行だが、何にせよこの村に立ち寄って色々と必要な物を買い込んでから山に向かって進んで行ったのは間違い無いだろう。
本当はすぐにでも追い掛けたい所だが、あのバジリスク達と戦った上に砂漠の整備までした一行は流石に疲れてしまっている。
しかも夜は魔物達が活発化する時間帯なので、下手に村の外に出て魔物に襲われでもしたら困る。
ただでさえ、こっちの方は魔物の討伐が進んでいない北の地域なのだから尚更だ。
なのでここはセバクターを追い掛けて行きたい気持ちを抑え、村でしっかりと休むと決めた一行。
あの赤毛の二人、セバクター、そして何処と無く怪しい行動をしつつ自分達の目の前に何回も姿を現わしている、自称傭兵のサィード。
明らかな敵だと分かっている者から、敵か味方かハッキリしない者まで人物相関図があれば段々と複雑になりそうだ。
それに、レウス達はこれから先に向かった場所で目撃されている、赤サビ色のワイバーンについても情報を集めたかったのである。