152.vs蛇の王者バジリスク
「このぉ、イライラするわねえ!!」
「落ち着けアレット、お主は少し前に出過ぎだぞ」
ただでさえ地面が砂で普段より滑りやすいのに、そんな砂の中を悠々自適に動き回って敵を翻弄し、そして肩透かしを食らった様なタイミングで地中から飛び出して攻撃して来る小型の蛇達。
あのサィードと別れてから一夜明け、討伐部隊はまた北に向かって進軍を開始。
雑魚敵も全くと言って良い程に姿を見せず、予定よりも速いペースで砂漠地帯の砂が深い部分に差し掛かった。
そこで気になる物が地中から飛び出ているのに気が付いた一同は、その数十メートル前で停止して様子を探り始める。
「なあサイカ、あれは……」
「うわあ、凄い大きな魔晶石……」
砂漠の真ん中に、昼下がりの太陽の光を浴びてキラキラと輝いている紫色の大きな魔性石が埋まっている。
しかし、ソランジュとサイカを始めとするこの一行はその魔晶石に近づくべきでは無いと誰もが思っていた。
普通であればこんな砂漠の中なんかに魔晶石が……それもあんなに大きなサイズの物がある訳が無いのだ。
本来は鉱山で採れる石なので、トラップの一種なのだろうとしか思えない。
「あれってどう見ても魔晶石の水晶なんだけど、何でこんな所にポツンと置かれているのかしら?」
「怪し過ぎて逆に清々しいな。罠だって自分から言っている様なものだろうが、用心するに越した事は無い。おいアレット、貴様のその背中にある弓を貸せ」
「え、あ……うん」
エルザに言われるがままに弓を貸したアレットは、彼女が一体何をするのかが大体想像出来た。
そしてエルザの方はアレット達が見守る目の前で、キリキリと弓を引き絞ってその大きな紫色の魔晶石目掛けて矢を放った。
学院トップの名に恥じない正確な狙撃を見せ、その矢が魔晶石の側面にガッと鈍い音を立てて突き刺さった。
……が。
「あれ?」
「おかしいな、何も起こらないぞ?」
てっきり何か動きがあるのかと思いきや、予想に反して魔晶石からは何の反応も無い。
そこで最大限に警戒しながら近づく事にした一行だったが、その魔晶石の約十メートル手前までやって来た所で地面に異変が起こる。
それを真っ先に察知したのは、自分の周囲にに悪寒と強い魔力の流れを覚えたレウスだった。
「……やばい、全員下がれっ!!」
「うわっ!?」
「おっ、おいおい!?」
叫ぶと同時に、一際前に出ていたソランジュとサイカの後ろ襟をグイッと両手で引っ張って二人を引き寄せるレウス。
その二人が驚くのとほぼ同じタイミングで、一秒前まで二人が立っていた場所が一気に陥没したのだ。
後ワンテンポ遅れていたら、間違い無くその陥没した穴の中に真っ逆さまに落ちてしまっていただろう。
そしてその陥没した穴の中から、かなり巨体の何かがそのサイズに見合わない位の大ジャンプで飛び出して来た。
ドスンと音を立てて地面に着地したのは、尻尾の部分が先程の魔晶石になっているツートンカラーの蛇。
それを見て、レウスは前世でこいつとも戦った事があると思い出した。
「こいつ……バジリスクだ!!」
「バジリスクって……学院で習った事があるけど、もしかして砂漠のサンドワームの天敵って言われている地中の王者の事?」
「ああ。尻尾の部分が魔晶石になっているから、それ目当てに近づいて来た人間や獣人をこうやって大きな穴に落として餌にするんだよ。しかもこいつはかなり動きが素早い。みんな、こいつが穴の中にまた潜る前に一気に倒すぞ!!」
アレットの説明にレウスは頷き、一緒に対処法まで伝授する。
そんな一行の目の前で、バジリスクの周囲に小型のバジリスクがポツポツと地中から姿を見せる。
レウス曰く、こうやって親子共々砂漠を根城にして生活しているので駆除も時間が掛かるらしい。
とりあえず大型のバジリスクはレウスがメインで担当して、小型のバジリスク達を他のメンバーで担当する。
だが動きが素早いと言うのは、実際に戦ってみて実感させられている討伐部隊。
毒の液体を体内から吐き出して攻撃し、反撃しようと思えばすぐに地中へ逃げ込んでしまう。
そしてまた別の場所から現れて攻撃されるので、完全におちょくられているのだ。
そのせいで焦りとイライラが募って雑な戦い方になる上に、周囲にまで気を配れなくなったメンバー達が続出する。
このままでは翻弄されて疲弊したメンバーが引きずり込まれて餌にされてしまう。
そう考えたレウスは、目の前で自分を仕留めようと首を伸ばして来る大型バジリスクの攻撃を回避して、足に魔力を集中させて思いっ切り地を蹴ってジャンプ。
何時もより二倍以上高く飛んだレウスは、側面から回り込んだ為にバジリスクの背中に上手く着地。
そこから一気にスピードを上げて、バジリスクの頭部目掛けて槍を垂直に突き立てた。
ギーッとバジリスクの絶叫が響き渡り、バタバタと暴れ回るがレウスは槍を握ったまま離さず、その槍に魔力をありったけ注ぎ込む。
今日の進軍開始から今まで雑魚敵と余り戦わずに済んだので、ギローヴァスと戦った時よりも遥かに多くの魔力を注ぎ込めたのを確認したレウスは、あの時と同じ魔術の名前を久々に叫んだ。
「爆ぜろ、ハイパーエクスブロージョンッ!!」
瞬間、バジリスクの頭部が爆散した。