149.行動原理
登場人物紹介にホルガー・アンハイサーを追加。
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あの赤毛の二人と共に行動していた筈なのに、ソルイールでは何故か謁見の間に居た。
それにソルイールの首都ランダリルから脱出した後、カシュラーゼで待っていると言い残して赤毛の二人は姿を消してしまったのに、何故セバクターはカシュラーゼに行かずこちらで行動しているのだろうか?
彼が敵なのか味方なのかハッキリしなくなって来たレウスは、頭が混乱して仕方が無い。
いずれにせよ、この先に向かったのは確かな様なので彼を追い掛けて今は進軍するだけである。
「セバクターって、一体何を考えてこっちまで来たのかしらね?」
「俺に聞かれてもな……エルザは何か知らないか? あの男の事はそれなりに知っているんだろう?」
自分達マウデル騎士学院トリオの中で、最もセバクターの事について知っていそうなエルザに話を振ってみるアレットとレウスだが、エルザも実は詳しく知らないらしい。
「私も良く分からないんだ、あの男の事は」
「ええー、何よそれ」
「何よそれって言い方は無いだろう。本当に知らないんだから。分かるのはかなり腕が立つ男って話だけだからな。それ以外は彼の生い立ちも家族構成も分からないし、そもそもあの男自体が無口中の無口だろう。何回かあった事はあるけど、挨拶だって目上の人以外にはちょっと頭を下げるってだけのレベルだからな」
セバクターはシャイなのかただ単に無口なだけなのか分からないが、エルザの言い分を聞いている限りでは物凄く無愛想で取っ付き難い男なのは間違い無いらしい。
「あんな性格だから友達も少ないし、人を避けてますってオーラがプンプンしてるし。私だってあの男が余りにも無愛想過ぎて、これ以上関わってもどうかなって思ってたしな」
「……その割には、俺とセバクターが最初に戦った時に英雄扱いをしていたんだな」
かつて、あの風呂覗き疑惑事件でレウスとセバクターがお互いの言い分を認めて貰うべく、何故か決闘で話をつけようという展開になったエピソードを思い出したレウス。
「まあな。さっきも言った通りあの男はあんな性格で友達も少ないけど、腕は立つし実績だって残しているし、あの通り名に恥じない実力を持っている事に憧れている生徒は多い。あの性格は嫌いだが、腕が立つのを素直に尊敬出来るのは私だって同じだからな」
「へぇ……って言っても、あの性格だから何を考えて行動しているかも分からなければ、あの赤毛の二人の仲間になった理由も不明のままって訳だな」
「そういう事だ」
喋り過ぎるのは「うるさい奴」「馴れ馴れしい奴」「鬱陶しい奴」と言うレッテルを貼られて敬遠されてしまいがちだが、逆にセバクターの様に喋らなさ過ぎるのも「考えの読めない奴」「暗い奴」「無愛想な奴」とレッテルを貼られてしまうので、会話も態度もバランスが大切なのは間違い無い。
そんな話から話題は変わり、今度はこの先に何があるのかを地図で確認しながらの進軍計画を立てる事になった。
北へ出発する前に聞いた情報では、砂の中を自由に移動する大きな蛇が一匹居るとの話だった。
騎士団の隊長と魔術師達の隊長と共に地図で確認してみて、ここから先が砂漠だというのを教えて貰ってから、レウスはサイカと共に挑んだあのバランカ遺跡の事を思い出した。
「そういやあそこも砂漠だったな。しかしあそこには蛇は居なかった……五百年前にはあそこにも数が少ないとは言え蛇の魔物も居たもんだが、五百年も経つとやっぱり生態系にも変化があったのか?」
「ああ。この辺りは主にカシュラーゼの影響で生態系に変化があったんだ。魔術の実験を繰り返す為に魔物を捕獲し、更にこっちに自分の国が主導する魔術研究所を立てさせたりもしているから、その影響でな。おかげでグラディシラの方にまで魔物が来る様になってしまって、おまけにカシュラーゼのその影響で危機感を覚えた魔物達が子孫を残そうと繁殖活動が活発化するから駆除も全然進まなくなって、悪循環だよ」
ソランジュが言うには、カシュラーゼの魔術実験とやらはこの世界の生態系にまで影響があるらしい。
雪深いのが幸いして冬の間は魔物達も冬眠に入ってくれるのが救いだが、何にせよカシュラーゼと言う元を絶たなければ生態系も元に戻らなさそうである。
そして一部の噂では、カシュラーゼがやった実験で逃げ出した生物兵器の一つがその蛇だという話もあるのだとか。
「おい待て、そうなるとそのカシュラーゼはあのドラゴンだけじゃなくて、この砂漠地帯に生息しているっていう蛇まで生み出していたのか?」
「そうなるわね」
「本当に害悪極まりないな、あの国は。その魔物についての情報はあるのか?」
せめて少しでも敵の情報を手に入れておけば何とかなるだろうと思って騎士団員達と魔術師達に聞いてみた所、それなりに目撃情報がある魔物なのである程度の大きさや色が判明していると言われた。
体長はあのトレントを横倒しにした長さのおよそ三分の二、色は上半身が黄色で下半身が青。高さは大人の人間の男で約二人分。実際に戦ってみた部隊からの報告もあるのだが、とにかく動きが素早くて砂の中を移動しまくり、いきなり飛び出して来た蛇にそのまま丸呑みされてしまった騎士団員も居るらしいのだ……。