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147.木の化け物トレント

「……ん?」

「どうしたの、ソランジュ?」

「何か、ドシンドシンと重たそうな足音が聞こえないか?」

「えっ?」


 その足音が聞こえる方に向かって差されたソランジュの指先にある闇の中から、ぬっと大きくて細長い二足歩行の木が姿を現した。

 ガサガサ、バサバサと葉っぱ付きの枝を揺らしながらこっちに向かって歩いて来るその姿は明らかに異様で、紛れも無く目撃情報にあった木の魔物だろう。

 その風貌の魔物に固まっていた一同だったが、いち早く我に返ったレウスが叫び声を上げ、あのドラゴンの生物兵器襲来の時にマウデル騎士学院で使った警笛をポケットから取り出した。


「敵襲~! 敵襲~!!」


 ピィィィーーーーーッと夜のリラックスタイムの雰囲気を一変させる、甲高い笛の音が駐屯地全域に響いた。

 それと同時に全員が戦闘態勢を取り、いきなり現れた木の魔物に対抗し始める。


「あれはトレントだ! かなり厄介な奴だぞ……」

「えっ、トレントって実際に見た事は無いんだけど、もしかして木の精霊って呼ばれてるあの大型の魔物かしら!?」


 マウデル騎士学院では、ケルベロス等の四足歩行の魔物を相手にして魔術の授業やチームワークが必要な戦闘訓練の授業を行なったりするのだが、木の精霊であるトレントはなかなかお目に掛かれないレアな魔物なので実際に騎士学院で見た事は無かった。

 学院の遠征で向かった先でも見た事が無かったアレットやエルザにとっては未知の経験だが、以前に冒険者として活動していたソランジュとサイカは見た事があるらしい。


「魔物と言っても、普段は大人しい生物だから刺激しなければ無害だって言うから実際に戦った事は無いのだが……向こうからこうやって襲って来るものなのか?」

「何のんきに分析してるのよ! 襲われてるんだからとにかくやるわよ!」


 こんな時でも冷静な性格のソランジュに突っ込みを入れつつ、サイカはシャムシールを引き抜いてトレントに立ち向かう。

 おおよそ大人の人間の高さ五人分なのでかなり大きく、見上げないと上まで見えない程の体長を持っているトレントはその分リーチも長い。

 何せ、その無数に生えている木の枝の一本一本が伸びるだけで無くまるで鞭の様にしなって攻撃用の武器になるからだ。

 まるで腕が無数にあるかの如く、広範囲にそして大勢の敵相手に戦えるのでレウスが「かなり厄介」と言うのも無理は無い。


「くっ!!」

「うっわ、見えないぞこれ!!」


 しかも運の悪い事に今の時間帯は夜。

 昼間ならまだしも、闇に同化する様な暗い色をしている木のシルエットから繰り出される枝の強烈な一撃が何処から襲って来るか分からない。

 ある程度の太さがあれば枝が風を切る音で予測は立てられるのだが、精霊と言うだけあって向こうはそれなりに知能も発達しているのか細い枝ばかりで攻撃を繰り返すのだから危険極まりない。

 たかが枝だと侮るなかれ、鋭く尖った枝で切り裂かれるのは槍の先端で人体を斬り裂かれる様なものなので普通に殺される可能性もある。

 レウスは遠く離れて大きな魔術で一気に決めようと思ったのだが、魔術の詠唱で魔力が放出されているのに気が付かれてしまいトレントの枝が迫り来る。


「くっそ!」


 槍を使ってその枝を切断してギリギリ回避。

 だがこれでは詠唱もさせて貰えず、かと言ってなかなか近づく事も出来ないのでこのままだとスタミナ切れで時間が経つに連れて向こうが優勢になってしまうのが見える。

 なので、ここは細かい事を考えずに騎士団員達が一気に武器を振り回しながら突っ込む作戦に出る。

 細かく作戦を立てている時間も無いし、そうした作戦が逆に裏目に出てしまう相手だって魔物の中には沢山居るし、今回の相手が振り回しているのは細い枝ばかりなのである程度は武器で切り落とせるだろうと踏んでのレウスの提案だった。


 その一方で、アレット含む魔術師達は火属性の魔術を中心に詠唱を開始。

 相手は精霊とは言え元々は木なので、今キャンプでやっている焚き火の要領で火には弱いんじゃないかと考える一同。

 そしてソランジュは今回火属性で武器と防具の強化をして貰ったので、攻撃をするに当たって何時もより多めにダメージを与えられる筈だし、防御力もトレント相手には高くなる筈だと確信していた。

 冒険者としての経験と知識を活かしながら、この大木の魔物に立ち向かう。


 まずは騎士団員達が武器を振り回してトレントの気を引く一方で、魔術師達がトレントから見えない視覚に回り込んで火属性の魔術を連発。

 すると予想通り、魔術によって身体に着火するトレントが徐々に燃え始めた。

 木なので悲鳴こそ上がらないものの、悶え苦しみながら懸命に身体を振って消火しようとしている。

 そこにロングソードやバトルアックス等の「斬る」事が得意な武器を持ったソランジュやエルザ、そして騎士団員達が一斉にトレントの枝や胴体を斬り裂き始めた。

 攻撃手段の枝を切ってしまえばこちらが有利になるし、斧は元々木を切るのに使われる道具なので効果は抜群だ。

 特に斧は刃が厚く大きいので、ザクザクとトレントの身体に食い込める。

 そして三分もすればトレントは炎によって焼かれながら胴体を斬り刻まれ、バランスを崩してズゥゥン……と重苦しい音を立てて地面に倒れ伏した。

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