12.手合わせ
そのセバクターの輝かしい経歴を聞いて、これはかなりのやり手かも知れないとレウスは感心した。
しかし、そんな男が何故ここに居るのだろうか?
「なるほど……どれだけ活躍しているかは分かったが、旅に出た君が何故ここに居るんだ?」
レウスも聞きたかったその話を代弁してくれた父のゴーシュに対して、口数の少ないタイプのセバクターはシンプルに答える。
「たまには学院に顔を出してみようかと思ったが、まさかこんな事に巻き込まれるなんてな」
「ああ、世話になった学校に久し振りに立ち寄った訳だな。世界中を旅して戻って来てみたらこうなった訳か」
「そうだ。……この話題がもう終わりならさっさと始めよう」
「あ、そうだな。それだったら審判は俺がやる」
学院長のエドガーが直々に審判をやると申し出て、五百年以上前に世界中で活躍していた勇者と、現在世界中で活躍している学院の卒業生との手合わせが始まる。
「手合わせのルールを決めておこう。と言っても簡単な話だ。相手に対して参ったと言わせればそれで良し。自分の手から武器が落ちようが、その後に格闘戦で相手をねじ伏せれば勝ちだ。時間は五分以内で決着をつけろ。五分を過ぎても勝負が決まらなければお互いに引き分けとするからな。……ああ、それと分かっているとは思うが、これはあくまで手合わせだから相手を殺すのは無しだ」
エドガーの説明を聞いて、レウスとセバクターはお互いに無言で頷きつつそれぞれ槍とロングソードを構える。
「準備は良いみたいだな。それじゃ……始めっ!!」
エドガーの合図が掛かって、いよいよ運命の手合わせが始まった。
「いっけえ、セバクターさん!!」
「そんな奴、一気に倒しちゃって!」
「負けんなよセバクターさん!!」
学院の生徒達はセバクターの応援ばかりなので、それを聞いたレウスはアウェイな状況の中に居るのだと確信した。
(覗き魔の疑いを掛けられているから仕方無いと言えば仕方無いが、居心地が悪いなぁ)
自分を応援してくれているのは父のゴーシュだけだと確認しつつ、相手の出方を伺うレウス。
あのギローヴァスの様に、向こうから向かって来る相手に対しては容赦はしないのだが、基本的にレウスは自分からは仕掛けないタイプなので最初は様子見をするのがパターンである。
しかし、どうやらそれは相手のセバクターも同じらしい。
お互いに武器を構えたまま相手の出方を伺うこと、実に十五秒。
先に痺れを切らして動き出したのはレウスだった。
「はあっ!」
若く生まれ変わった身体を弾かせて槍を突き出すが、セバクターはそれを冷静に見る余裕がありつつロングソードで弾く。
勿論レウスとしても全力では無いにせよ、割とスピードを乗せた突きだったのだが、それを余裕を持って弾かれた事で感心せざるを得なかった。
(世界で活躍しているってだけの実力はあるみたいだな。だけど俺だって前世では世界で活躍していたんだから、そう簡単に負けられないんだよ)
今度は手加減無しに薙ぎ払い、その勢いで回し蹴り、更に高速突きを繰り出すが、これもセバクターは上手い具合にいなし、かわして反撃に繋げる。
その反撃は的確にレウスの手元を狙い、突き出された槍を彼の手から弾き飛ばした。
そのまま遠くに自分の槍が飛んで行ったのを一瞬だけ見て、今度は徒手格闘に切り替えるレウスと、的確さが自慢らしいそのロングソード捌きでレウスに襲い掛かって来るセバクター。
しかし、レウスも前世の戦いの知識と経験を活かしてそう簡単にはやられないと決めて迎撃する。
ロングソードの振り下ろしを回避し、がら空きの脇腹にミドルキック。
だが、レウスよりも少しだけ体格のあるセバクター相手には、そのミドルキックも余り効果が無いらしい。
(くっ、まずいな)
「そりゃあ!!」
セバクターの的確な薙ぎ払いがレウスを仕留めようとするが、レウスも転がってそれを回避。
そこからレウスは攻撃の手を緩めず、地面に手をついたまま上手く足と手を使って移動し、何とかセバクターに足払いをかけようと食い下がる。
更にはそこから側転をしつつ立ち上がり、地面の土を足を使ってえぐり取り、セバクターに向かって蹴り飛ばした。
しかし、それもギリギリの所でかわされてしまう。
だが、その回避行動で一瞬セバクターの動きが止まった隙を突いて、一気にレウスはセバクターの懐へ飛び込み、彼の顔面目がけて頭突きをヒットさせた。
「ぐお!?」
頭突きの後ろによろけたセバクターにそのまま全力でタックルをかまして、レウスはマウントポジションを取った……のだが。
「甘い!!」
「がは!?」
セバクターの頭突き返しがレウスの顔面に炸裂し、マウントポジションを解除されたレウスが反対にマウントポジションを取られる。
これでセバクターの勝ちは決まりか……と誰もが思った次の瞬間、レウスは自分の右手に魔力をこっそり乗せ、腹筋を使ってセバクターの身体を押し返しつつ、彼の顔面に全力でストレートパンチを入れた。
「ぐへっ……!?」
魔力によって威力が増したパンチを顔面に受けたセバクターは、鼻血を吹き出しながらドサリと大の字に地面に倒れ込み、そのまま気絶してしまった。
「よ……良し、そこまでだ!!」
まさかこんな展開になると予想していなかったエドガーが、戸惑いの色を存分に含んだ声で手合わせの終わりを告げ、この瞬間レウスの勝ちが確定した。