146.vs魔物の集団(地上戦)
「でも良く考えてみると分かるわよ、ソランジュ」
「何がだ?」
「だってほら、私達人間は魔物と意思疎通が出来ないけど、獣人は自分と同じタイプの魔物と会話が出来たりするじゃない。例えばオオカミの獣人だったらオオカミと会話が出来るし、鳥の獣人だったら鳥の魔物と会話が出来たりするのは聞くでしょ?」
「……ああ、確かにそうだな」
しかし、魔物が人間の言葉を理解出来るのはやはり例を見ない話である。
そのエヴィル・ワンの様な特殊な存在でも無い限り、なかなか世の中にそうした魔物が姿を見せる事は無いだろうし、見せたとしても人間の言葉では喋ってくれないかも知れない。
だがもしかしたらこの先、魔物と普通に意思疎通が出来る様になる未来がやって来るのかも……とソランジュとサイカは考えていた。
そんな話をしていた三人を先頭にして進む魔物討伐部隊の一同の目の前に、バラバラと小さな魔物の集団が現れたのはその時である。
「っ……!?」
「さっそくお出ましみたいね!」
「さぁ、全員やるぞ!」
不意打ちを食らったソランジュが驚く一方で、サイカとアレットがやる気を見せてそれぞれ戦闘開始。
一緒に来ている騎士団員達、魔術師達も同じく戦闘をスタートさせ、北への進撃の第一戦である。
まだグラディシラを出発してから二十分も経っていないのに、こうしてそれなりに多くの魔物に出くわすのは余程駆除が進んでいないと見える。
とは言いつつもまだまだ小さな魔物の群れだし、こちらも全部で三十五人の人員なのでそう簡単に負ける筈も無く、魔術師達がそれぞれ広範囲の攻撃が可能な魔術を連発するだけで呆気無く終わってしまった。
「まぁ、まだまだ序盤だしグラディシラに近いから魔物達も余り勢力を伸ばしづらいって所かしらね」
「そうだな。さっき騎士団員の人に聞いたんだが、貴様の言う通りこの辺りの駆除はそれなりに進んでいるから、この辺りはこれ位の魔物しか居ないらしい」
アレットの分析にエルザが同意するものの、やはりリーフォセリアの現状と比べると魔物が多いのは仕方が無いと言った感じだろう。
この先に進むにつれてどんどん魔物が増えて来るだろうし、騎士団員達の話を聞く限りではそのドラゴンの生物兵器以外にも何体かの魔物のリーダーが居るらしく、そいつ等も纏めてこの際だから駆除してしまいたいとか。
今の時点で確認出来ているのは地上の魔物達を率いているリーダーで、大きな木の化け物が一匹。それから砂の中を自由に移動する大きな蛇が一匹。更にドラゴンの手下かどうかは不明だが、赤サビ色のワイバーンが一匹。
どれもこれもここから北の方に向かった先で目撃されており、その魔物達がそれぞれ率いている子分の魔物達が周辺住民の畑を荒らし回ったり、住民達に危害を加えたりしている。
「しかもその魔物達のリーダーはかなり強いらしく、傭兵達や騎士団員達を派遣して対処しているが思う様な戦果は上がっていないって話か……」
「確か子分達が邪魔をしている間に親玉が逃げちゃうって話だったわよね。となると結構統率が取れているわね。魔物達って私達人間が思う以上に統率力があるのかも」
ソランジュとサイカの会話を聞いていて、レウスがちょっと話に割り込む。
「魔物達がそこまで統率の取れた行動が出来るって言うのも俺達人間から見れば厄介な話だが、集団行動が当たり前になっているとそれも分からないでもないな」
「お主もやはりそう思うか?」
「思う思う。統率が取れているからこそ畑を荒らし回って作物に被害が出たり、人間や獣人の住民が襲われているんだろ? 俺達みたいに戦う術を持たない国民が多いこの国では、被害が大きくなるのもそりゃそうだなって思うよ」
お互いに狩ったり狩られたりの関係である、人間や獣人達と魔物各種。
本当にどっちも身勝手なもんだし、生きる為にはこうした競争も必要なんだよなとこうして話していてもしみじみ感じてしまうレウス。
その後も北に向かい続ける内に二回目、三回目、四回目と小さな魔物達の襲撃を繰り返し受ける討伐部隊。
しかも襲われる回数が多くなるにつれて魔物の数も比例して多くなっているので、どうやらこのまま進んで行けばリーダー格の魔物のどれかに出合えるのだろう。
しかし一日で移動出来る時間も限られているので、日が暮れて来た所でキャンプを張って進軍をストップする事にした。
「はー……疲れた……」
「本当ね。今日は朝から移動して戦って、また移動して戦って、また移動して戦っての繰り返しだったもんね」
エルザもアレットも自分の身体に回復魔術を掛けて貰い、イーディクト帝国の同行者達もそれぞれ魔術を掛けて回復している。
この進軍が何時まで続くか分からないのだが、その古代穴までは少なくともグラディシラから馬で進んで約五日らしい。
かなり長いなと思いつつ、レウス達は束の間の休息を取るべくキャンプを張っていたのだが、その休息の為の時間として始めたキャンプを邪魔する者が現れたのはその時だった。