144.リーフォセリアの現状
「そうか、これから北に向かうんだな」
「まさか魔物討伐に私達の息子が駆り出されるなんて思ってもいなかったけど……事態は相当深刻になっているらしいわね」
リーフォセリアからはるばる海を越えてやって来た、レウスの両親であるゴーシュとファラリア。
この二人はレウスの前世があのアークトゥルスだったと言うのは知らないし、ゴーシュがここに来る事を先読みしていたレウスは事前にパーティーメンバーの女達や皇帝のシャロット始めイーディクト帝国の関係者に口止めをしておいた。
なのでレウス達が北に向かう理由も、人手不足からの魔物討伐の手伝いと言う名目に変わっていた。
それにアレットやエルザは久し振りに出会ったゴーシュとファラリアだが、ソランジュとサイカにとっては初対面の人間なので簡単に自己紹介を済ませておく。
とは言っても事前に通話魔術である程度の事情や二人のプロフィールを実家に連絡していたので、余り多くを語らずにその自己紹介も終了。
その一方で、レウスは今のリーフォセリアの状況が気になって仕方が無かった。
自分達が誘拐されてから、一体リーフォセリアで何がどうなっているのかという情報は、レウスが実家に連絡した時に断片的に聞いただけのレベルでしかまだ知らない。
しかし、その現状はなかなか酷いらしい。
「マウデル騎士学院は復旧したんだが、俺がエドガーの奴に聞いた限りでは、騎士団はセバクターを重要な容疑者として国際指名手配したそうだ」
「まあ、確かにそれはそうなりますね」
「だがな、俺が信じられないのは指名手配されてしまったのがセバクターだけじゃなくて、お前と戦ったって話の赤毛の奴と、それからお前達三人もそうなんだよ」
「えっ……」
「な、何で私達が指名手配されているんだよ!?」
自分達がリーフォセリアから指名手配されていると言う事実を告げられたレウス、アレット、エルザの三人は驚きを隠せない。
セバクターとあの赤毛の二人が指名手配されるのは分かるが、何故自分達まで……?
「エドガーの奴も詳しくは教えてくれないんだが、どうやらセバクターとほぼ同時に姿を消してしまったのが、彼と手を組んでいたからって判断された結果の指名手配らしい。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくれよ親父。俺達は好きでリーフォセリアから姿を消した訳ではなくて、誘拐されて気が付いたらソルイールに居たんだって!」
「それは俺も説明したよ。ファラリアから事情を聞いた後に通話魔術で直接ギルベルト団長に連絡を入れてな」
だけど……とゴーシュのテンションがまた下がった。
「今は国王のドゥドゥカス様と何やら色々対策を考えているらしく、全ての連絡を受け取る事は出来ないってエドガーから言われてしまったんだ」
「いやいやいや……おかしいでしょそれは。だったらそのエドガーさんにギルベルトって人や国王さんに直談判しに行って貰うべきなんじゃないの!?」
叫び声混じりのサイカの質問に答えたのは、そのやり取りを横で見ていたファラリアだった。
「私も最初はそう思って、直談判する為に王都のカルヴィスに出向こうと思ったわ。だけどエドガーさんから「カルヴィスは今、ドゥドゥカス陛下の意向によって容疑者の関係者を徹底的に取り調べようとしているから、来ねえ方が良い」って言われてしまったのよ」
「エドガーさんが?」
エドガーの忠告でカルヴィスに行く事を躊躇したアーヴィン夫妻は、とんでもない行動を起こす事に決めた。
「そう。ギルベルト騎士団長もドゥドゥカス陛下もお忙しいみたいで通話にも応答してくれないし、私達まで捕まってしまったら元も子も無いから「あー、もうこれは埒が明かない」って思って観光でも楽しもうと思ってこっちまでやって来たのよ。近くの町でワイバーンを借りて海まで行って、その後は船と転送陣でここまでね」
そしてこうして来てみれば、息子はあの粗暴な皇帝バスティアンの支配するソルイールを超えてイーディクト帝国に入り、皇帝シャロットの命で北に魔物討伐に向かうと言うのだからビックリしてしまった。
本来であれば止めたい所だが、皇帝の命令ともなれば自分達の様な一般人が止められる筈も無いし、観光の為に来ただけあって武器と防具は持って来たものの戦いの準備まではしていないので息子の出陣に着いて行く事も出来ない。
つまり、アーヴィン夫妻は自分の息子とその仲間達を信じて送り出すしか無いのである。
「でも武器と防具の強化をして貰ったって言うし、魔道具だってまだ身につけているんだったら大丈夫だろう」
「そうね。それにあの粗暴な皇帝のバスティアンを倒してここまで来られたんですもの。今回もきっと大丈夫よ」
「そ、そうか……。レウス、お主のご両親はお主をキチンと信頼しているらしいな」
「どうもそうらしい」
ソランジュの指摘をレウスは肯定するが、かと行ってこの先の北への道のりが絶対に安全だとも限らない。
特に今回は魔物の巣窟に向かうので尚更だ……。