143.異国で再会
こうして火属性のソランジュ、水属性のサイカ、土属性のエルザ、風属性のアレット、そして無属性のレウスとそれぞれが違う属性で強化を施された武具を使用する、バランスの取れた(?)パーティーが出来上がった。
そして武器だけではなく、同時に防具の強化も同じ属性でそれぞれやって貰っていたのでその効果はかなり期待出来ると言える。
歴戦の冒険者である皇帝シャロットからも「これなら問題は無いだろう」と評価されたので、後は戦場で何処までそれぞれの武器と防具が耐えられるかによる。
本当ならスペアの武器や防具を沢山持って行った方が良いのだろうが、荷物を一緒に持って行かなければならないとなるとそれだけ移動しづらくなってしまうし、何より戦いの時に荷物が邪魔で死んでしまいました、なんて事になったら目も当てられない位に恥ずかしい死に方だろう。
そして次の日、一同は北へと向かうべくそれぞれの準備を始めた。
魔物が多く出る地域に向かうので、強化したとは言え武器よりも魔術に重点を置いた戦い方をしようとレウスが提案する。
「幾ら武器を強化したからって、いずれは壊れてしまうかも知れないからな……。色々とスペアを用意して貰うのも考えたけど、それについてはもうここから出発する前に諦めて投げてる……考えても仕方が無いよ」
「だから魔術を重点的に使って行こうって事?」
「そうなんだ。そこで魔術の話に行く訳だが……俺達は個人差があるとは言え、全員が魔術を使える訳だろ? 魔術は武器や防具と違って、休憩をとって身体を休めてその体内の魔力を回復すればまた幾らでも使えるからな」
そこまで言い、レウスはパーティーメンバー唯一の魔術師であるアレットに目を向けてから続ける。
「特に俺達にはアレットって言う魔術師が居る訳だし、俺だって魔術はそれなりに使えるから最大限使わせて貰う。だから今回は魔術を中心にした戦略を考えて行動しようって思ってな。だから今回の作戦のメインはアレットになる。任せたぞ、アレット」
「分かった。気を引き締めて戦うよ。魔術だったら任せて!」
元気良く返答するアレットを今回の作戦の中心にする一方、人員の面から僅かばかりではあるがシャロットの気遣いによって魔術師を十五人、騎士団員を十五人同行させて貰えた一同は、イーディクト帝国の期待を背負って旅立つ事となった。
しかしその前に、レウスにはまだこのグラディシラでやらなければならない重要な事がある。
(今度は上手く通じれば良いんだけどな。俺達、後少しで旅立たなければならないんだし)
そう思いながらやって来たのは、グラディシラの城下町にある魔術の通話スポット。
ゴーシュの言っていた通りの時間よりも早めに実家に通話をしたのもあってか、結局通話が繋がらずに諦めてしまったあの場所である。
あれから時間が経った今だからこそ繋がるんじゃないかと考えたレウスは、出発前に少し時間を貰って通話をしてしまおうと通話スポットの前に立った。
……が。
「あれ……おい何だよ、また繋がらないのかよ……」
何と、前回と同様に今回も通話が繋がらない。
呼び出しの音が鳴るだけで一向に出る気配が無いので、レウスは諦めてこのまま北へ出発する事にした。
(何てこった……前回は早めに通話をして出て貰えず、今回は通話をするのが遅かったせいかまた出て貰えなくてドジを踏む事になるとは……)
流石に二回もこうやって空振りに終わってしまっては、父のゴーシュが何をしているのかが分からずじまいである。
それでも出発までの時間は限られているので、ここはいさぎよく諦めてセンレイブ城に戻るしか無いと思ったレウスの肩を、トントンと誰かの手が叩く。
「どうしたのよ、そんなに肩を落として……」
「実家に連絡が取れないもんだからそりゃあ落胆するってえええおおいっ!?」
実家に連絡が取れないのも無理は無い。
何故ならその実家の住人が、今こうしてレウスの肩を叩いたからである。
それもここに居る筈の無い方の人物が……。
「かかかかか母さん、何でここに居るんだよ!?」
「え……それは東の海を船で渡って、そこから魔術の転送陣でここまでやって来たのよ」
「移動手段の話じゃなくて、父さんがこっちに来る筈だったのにどうして母さんがここに来ているんだって話だよ!!」
妙に話が噛み合わないながらも、自分の肩を叩いた母親ファラリアの姿がここにある事にレウスは驚きと戸惑いを隠せない。
そんな息子に対し、ファラリアはさも当たり前と言う口調で答えた。
「いやあほら、商人と職人の国として有名なイーディクトに行くって父さんが言い出したから、せっかくなら私も久々に遠出をして、息子がどんな活躍をしているのか見に来たのよ」
「旅行気分か?」
「うん、旅行だしね」
どう返答して良いのか分からないファラリアのセリフだが、肝心の父ゴーシュの姿が見当たらないのに気が付いたレウス。
「あれ、そう言えば父さんは?」
「父さんだったらセンレイブ城に貴方を探しに行くって言って行っちゃったわよ。グラディシラは帝都だから広いじゃない。だったら二人で手分けして貴方を探した方が良いと思ってね」
「ああ、そう……」
「さあ、私達もお城に行きましょう。みんなが待ってるわよ」
「へーい……」
もう何も言い返す気力すら無くなってしまったレウスは、ファラリアに手を引っ張られてセンレイブ城に戻る事になったのであった。




