142.強化武器のテスト
「ふっ!!」
風呂場で背中の流し合いをした時に目の前で見た、鍛え上げられた筋骨隆々の肉体を持っているシャロットの動きは、例えゆっくりなスピードに抑えられているとしてもキレがあるのが分かる。
あの肉体はかつて冒険者として活動していて、そして今でも鍛錬を怠らずに衰えていないからこその賜物なのだろうと納得したレウスは、その肉体から繰り出されるシャロットの攻撃を受け止め続ける。
避けた方が安全な攻撃は避けさせて貰い、一分間タルワールの二刀流の攻撃を受け止め続けた。
そしてその連続攻撃を受け止め続ける内に、槍から伝わって来る衝撃が殆ど無い事に気がつくレウス。
腕の感覚が無くなった訳ではない。
むしろあの肉体から繰り出されるシャロットの攻撃は力強いので、普通だったら体重の軽い自分が押されてバランスを崩してしまうだろうと思っていた。
なのに自分の足取りはしっかりしていて、腕への疲れも無い。
(やっぱり強化しただけの事はある。耐久性と防御力が前より上がっているのが分かる!)
実際、一分間攻撃を受け続けると言うシチュエーションは余り無いのだが、受け続けると武器だけでは無く腕への負担も凄いのだ。
しかしそれが感じられないのは、強化を担当した鍛冶師達と魔術師達の話を聞く限り、かなり特殊な魔物の素材を使ったかららしい。
これにより以前よりも遥かに耐久性が上がったにも関わらず、重さは強化前と同じ位かちょっと軽くなったと言うのだ。
五百年以上前も武具の強化はして貰った事はあるものの、その頃はまだ強化して貰ったら貰っただけ武器も防具も重くなるし、身体への負担も凄かった。
なのでそもそもの武器の材質を軽くしたり、体力が無かった者は自分の身体に装着する防具もなるべく軽い物を選んだりと試行錯誤が必要だった。
それから考えれば技術の進歩ってやっぱり凄いなあ、とかつての勇者はしみじみと実感していた。
続くアレットはロッドの強化をして貰ったので、魔術の攻撃力と防御力がアップしていた。
訓練用の藁人形があるのでその藁人形に攻撃力のテストをしてみた所、何と藁人形の一部がちぎれてしまう程の威力を有した風の魔術を発動する事に成功した。
防御力のテストは防壁魔術を自分の周りに展開し、シャロットに出来うる限りの攻撃を発動して貰ったのだが、大してダメージを与えられないまま魔術の防壁が崩れる事も無かったのだ。
「すっごい……魔術って本当に奥が深いし、武具の強化をするだけでこんなに変わるなんて……もっと色々と学んでみたいわね」
この結果について非常に満足しているのはアレットだけではなく、エルザもそうである。
彼女はレウスに宣言した通り、愛用のバトルアックスを土属性で強化をして貰う事にしていたのだが、その出来は想像以上のものだった。
土属性は余り目立たない属性ではあるものの、実際にバトルアックスを振り回してみると妙に防御力が高いのだと分かる。
「やってみるもんだな……ここまで防御力が上がるとは思ってもみなかった。これなら私のこの武器の不安がかなり解消されたって事になるな」
風属性は攻撃や魔術の詠唱のスピードアップ、火属性は攻撃力や魔術のパワーアップ、水属性は武器や魔術の使用者の疲労回復力や魔力の回復スピードをアップさせ、そして土属性は武器や魔術の使用者の防御力をアップさせる効果がある。
これから戦う数多くの魔物の属性に合わせた効果を考えるのも重要なのだが、自分に不足しているものを考えてその部分を強化するのも重要だ。
エルザの使っているバトルアックスは攻撃力が高い分、その大きさの面で防御力に不安を抱えていた。
しかし、それがシャロットのタルワールに比べれば小振りで打ち負けしやすい筈のバトルアックスなのに、彼の攻撃をきちんと受け止めて踏ん張れる様になっているから驚きだ、とエルザは語った。
ロングソードを使うソランジュは、彼女自身が使い慣れているのもあるが攻撃範囲とスピードに優れている。
半面、やや小振りなロングソードなのでパワーの面で不安があった彼女は攻撃力をアップさせる為に火属性の強化をして貰う事にした。
事実、自分の使うロングソードからほのかに熱さが伝わって来るのがその証拠であり、実際にタルワールの攻撃を受け止めつつ打ち返してみると、力任せにしなくても少し力を入れるだけでシャロットがぐらつく場面もあった。
(この体格差の皇帝を相手にして、体勢を一瞬でも崩れさせる事が出来るなんて……強化をしてみただけの価値はあった!!)
感心してついつい息が荒くなりがちなのはソランジュのみならず、サイカもそうである。
戦う時のトリッキーで素早い動きが特徴な彼女だが、言い換えればその動きはオーバーアクションになりがちという事でもある。
そうなると体力の消耗も他の四人に比べて早いので、彼女は水属性で強化をして貰って戦闘中の疲労の蓄積を少しでも遅らせようと考えた。
シャロットを相手にテストした時も何時も通りのトリッキーな動きで対応した彼女だったが、一分間の打ち合いで今までよりも格段に疲労が溜まっていない事を実感出来た。
(何時もだったらそれなりに息を切らしている筈なのに、今の私は息を切らせるどころか汗もかいていない! 凄い……凄いわ!!)