138.武器無し、防具無し、待った無し!
レウス達が依頼をキャンセルした本当の理由を、二人が特に何も言っていないのに勝手に察して自爆し、ハンマーを取り出して襲い掛かって来たホルガー。
しかし今の二人は武器も持っていなければ防具だって身に着けていない丸腰の状態である。
有利な点があるならばこっちは二人で相手はホルガーが一人の二対一なので、裏路地に位置しているこのあばら家の前の細い道でホルガーを挟み込む様に戦う。
……が、ホルガーは割と強いのが戦い始めてすぐに分かった。
(くっ、この男……なかなか速い動きだな!!)
(やばい、隙が見当たらない!!)
レウスもソランジュも心の中で焦っている。
二本のハンマーを軽快に振り回して、挟み撃ちにされているとは思えない位に二人を相手に戦うホルガーは、魔物の素材を嫌がる事無く引き受けただけあって妙に強いのだ。
武器も防具も無いとは言え、二人掛かりでも苦戦させられるなんて正直言って想定外だし、魔術を使おうにもこの狭い路地ではすぐに距離を詰められて詠唱をさせて貰えない。
レウスがかつて繰り出した大きな威力の魔術の数々は、それだけ詠唱も長くなってしまうのでこうした接近戦では全くと言って良い程に繰り出せないのが欠点だ。
ソランジュはソランジュで剣術と体術を駆使してレウスを破った事もあるが、愛用しているロングソードが無いので今は体術だけで戦うしか無い。
(体術は私よりもサイカの方が得意だからねえ……この男相手にどれだけ戦えるかはレウスとの協力がカギなんだ!)
今は二対一で何とか戦えているものの、ホルガーの猛攻は凄まじい。
ただハンマーを振り下ろすだけの直線的な動きばかりでは無く、身体を回転させて薙ぎ払いを仕掛けたり、しゃがんで足払いを掛けてから続けて低い体勢でハンマーで足を砕こうとして来たりとなかなかトリッキーな動きを見せる。
そんな彼の動きに対し、ソランジュがまず標的になる。
「おらあああっ!!」
「くっ、うわ!!」
ハイスピードの攻撃に耐え切れず、腹にホルガーの前蹴りを受けてしまったソランジュ。
しかしホルガーの背中にレウスの前蹴りが炸裂し、二人揃って地面に仰向けとうつ伏せの状態で倒れ込んだ。
(こうなったら、さっき思いついたあの手で行くしか無さそうだ。後でどんな文句を言われるか分からないが、この緊急事態だし割り切って貰うしか無いな!)
そんな二人の目の前で、何時も手元にある筈の槍もロングソードも今回持っていないレウスは、その武器の代わりになる武器で対抗する。
周りを見渡しても、ものの見事に武器になりそうな物が落ちていないので、ここはイレギュラーな武器を使わせて貰う事に決めた。
「ちょ、ちょっと!?」
「ちょっとだけ我慢してくれソランジュ。こうでもしなければこいつには勝てないからな!!」
何と男女の体格差を活かして、レウスはソランジュを持ち上げた。そして彼女の足を使って、向かって来るホルガーを蹴り飛ばし始める。
体術の中には敵を持ち上げて別の敵に投げつけてぶつける様な荒っぽい技もあるので、今回はその応用でソランジュの足や頭を使ってホルガーに攻撃を加えるのだ。
「ちょ、おい待て止めろ、目が回る!」
「止める訳にはいかないんだよ!!」
ソランジュの訴えも耳に入らないまま、長くてそれなりの重さがある「武器」を手に入れたレウスは、再び自分達に向かって来るホルガーを彼女に蹴り飛ばして対抗して貰う。
重さも長さも違うが、そこはアークトゥルス時代から培って来た経験とテクニックでカバーする。
そして、ホルガーの後ろに目をやったレウスがある光景に気がつく。
(あれは……巡回中のイーディクト帝国騎士団員!!)
この騒ぎに気が付いて、遠くの方からバタバタと足音を立ててこちらに向かって駆けて来る、大勢の白い制服と鎧を着込んでいるその人影。
レウスと同じくそれを見て、形成不利を悟ったホルガーはさっさと引き上げようとしたものの……。
「お前は逃す訳にはいかないんだよ!!」
「ぐおえっ!?」
「ぐはっ!?」
ソランジュの頭頂部を使ってホルガーの胸に頭突きを食らわせ、彼が怯んだ所でレウスは勢いをつけた左の後ろ回し蹴りを彼の側頭部に入れた。
その衝撃でホルガーは両手からハンマーを取り落とし、地面に倒れて呻き声を上げて戦闘続行不能。
駆け付けた帝国騎士団員達に事情を説明したレウスによって彼が連行されて行くのを見て、ようやくレウスもソランジュを地上に下ろした。
「うう……気持ち悪い……」
「だ、大丈夫かソランジュぐふえっ!?」
「大丈夫じゃないんだよバカ、私の事を一体何だと思っているんだ!!」
自分が武器代わりにされた事に腹を立てたソランジュに、グーで頬を思いっ切り殴られるレウス。
その後はセンレイブ城に戻るまで一切口を聞いて貰えず、せっかく窮地を脱出したのに別の意味でレウスには窮地が訪れてしまった様であった。
そんなやり取りをしていた二人は、ホルガーが連行される時にこう呟いていたのには全く気が付いていなかった。
「ちきしょう……今度は仲間を連れて来てやる。覚えてやがれ……」