11.セバクターと言う男
「……いや、何を言っているんですか?」
「仕方無えじゃねえか。このままお互い話が平行線なら何時まで経っても終わらねえ、それに聞く所によればレウスはあのギローヴァスを自分一人で倒したそうじゃねえか。それにエルザに勝った実績もあるし、セバクターの相手にとって不足は無えだろうしな」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。……なあ、父さんからも何か言ってやってくれよ。後半、この人が全般的に何を言っているのか俺は理解出来ないんだからさ!」
しかし、それに答えたのはゴーシュでも無くエドガーでも無く、今現在レウスと向かい合って座っているこのセバクターと呼ばれていた、レウスを拘束したピンク色の髪の男であった。
「お互いの意見が食い違っていて、更に目撃証言も曖昧で、俺の勘違いと言う事も考えられるとなれば、原始的な決着方法を取るしかあるまい」
「あんたまで何を言ってるんだよ……結局こうやって戦わざるを得ないって話になるのか?」
そのレウスの疑問に周囲の人間が一斉に頷いた事で、レウスとセバクターの手合わせが決まってしまった。
だがその前に、このセバクターと言う男が一体何者なのかレウスには全く分からないので、訓練場に移動する道中で彼の事を知っているエドガーからの説明が入る。
「こいつはセバクター・ソディー・ジレイディール。この学園を去年卒業したんだ。だけど騎士団には入らないで、そのまま世界中を回って活躍している傭兵でな。久々にここに顔を出したと思ったら、まさかこんな事になるなんてビックリしてんだけどよ。かなり成績の良い奴だったからてっきり騎士団に入るのかと思っていたが、一体何でまた旅をする事にしたんだよ?」
心底不思議そうにエドガーがそう聞くものの、レウスよりも少し背の高いセバクターは新緑の森の様な緑色の瞳を持っているその顔を伏せがちにしつつ、簡潔にこう答えるだけだった。
「……気まぐれだ」
「気まぐれねえ……だったらどうして騎士学院に入ったのか、俺は良く分からねえんだよな。面接の時は、リーフォセリアの国民を守る為に騎士団に入りたいって言ってたらしいけど、気まぐれでそんなに簡単に王国騎士団への入団権利を放棄するもんかねえ……っと、着いたぞ」
セバクターの答えに疑問を持ちつつも、エドガーは目的地に辿り着いた事に気が付いてそこのドアを開ける。
その開かれた木製の両開きのドアの先に広がっているのは、数千人の学生がいっぺんに訓練出来る位の広さがある土の地面の鍛錬場だった。
自分の地元の田舎町にも自警団や駐留している騎士団員の訓練場はあるのだが、流石に王都の騎士学院の施設ともなればスケールが違うもんだと感心するレウスに対して、エドガーが訓練用の槍を渡す。
「ほら、これを使え。その槍は俺が預かるから。それからセバクターもその剣を俺に渡して」
「はい」
それぞれ訓練用の武器に持ち換えて、いよいよ手合わせが始まる。
レウスにとっては何が何でもこの手合わせに勝たなければ、自分が覗きの犯人として今度こそ逮捕されてしまう。
それだけは絶対に避けたいのだが、相手となるセバクターの実力がどの程度なのか分からない以上は気を抜けない、と気合いを入れる。
時間帯はもうすぐ夜中になるので他に訓練している生徒が居ない……筈なのだが。
「おっ、これからやるみたいだな!」
「おい……何人連れて来たんだよ?」
何時の間にか消えていた筈のエルザを先頭に、鍛錬場にドヤドヤと雪崩れ込んで来る多数の学院の騎士見習い達を見た、エドガーの呆れた声がレウスにもハッキリ聞こえた。
あろう事か、何とエルザが騎士学院の生徒達をギャラリーとして連れて来てしまったのである。
それも数人だけと言うレベルでは無く、ざっとアバウトに見ても五十人以上居るのは間違い無い人数だ。
そのエドガーの質問に、エルザは何故か胸を張って嬉しそうに正確な人数を答える。
「全部で八十六人だ」
「……何でそんなに集まったんだ?」
「仕方無いだろう、セバクターさんが来てるって言ったらみんながセバクターさんの戦いを見たいって言い出したんだからさ」
そのエルザとエドガーの会話を聞いていたゴーシュが割り込む。
「実は俺、このセバクターと言う男には初めて会うんだが……この学院の中ではそれなりに有名人だったりするのか?」
「俺も父さんと同じでかなりそれは気になる。ここに居るってだけでこんなに人が集まって来るなんて、絶対普通じゃないと思うよ」
アーヴィン親子の疑問に対し、普段は反目しあっている筈のアレットとエルザが興奮しつつ、異口同音にその答えを述べ始める。
「有名なんてものじゃないわよ。この人はこの学院で史上初の快挙を成し遂げた人なんだから!」
「快挙?」
「ああ。三年前、この王都カルヴィスに押し入って来た賊連中が居たんだが、その賊連中五十人をたった一人で全員倒したんだ!」
「しかもそれだけじゃ無いわ。騎士団の入団試験で試験の相手を務めた騎士団の小隊長に勝っちゃって、一躍有名になって騎士団の多くの部隊からスカウトが来た位の人よ!」