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136.背中の流し合い

「そう言えばアークトゥルス君は……あ、今はレウス君と呼んだ方が良いか?」

「出来ればレウスの方が良いですが……どちらでも構いませんよ」

「そうか。ならレウス君、君はこのイーディクトを建国したトリストラムと知り合いだったのだろう?」

「はい。ドラゴン討伐のパーティーメンバーでした」

「そうか。良ければそのトリストラムがどんな人物だったのかを儂は知りたいんだが、教えてくれないか?」

「良いですよ。ただ……俺の知っているトリストラムと、この国を建国したトリストラムが果たして同一人物なのかが俺には気になるんですよね」

「どう言う事だ?」


 シャロットの疑問に、レウスは自分があの図書館で読んだ文献の内容と、自分がその時に体験した事を細かく説明した。

 その話を聞いたシャロットは考え込む素振りを見せる。


「ふうむ……となると君がその時その衝撃を受けて意識を失って、気が付いたらこの時代に転生していたと」

「そうなんです。どうしても分からない……俺は本当にエヴィル・ワンの波動を受けて自我を失ったんでしょうか?」

「儂に聞かれても困るが……それが本当なら自我を失うとかそう言う問題がそもそも起こっていなかった事になるな。……あ、すまないが背中を流してくれないか?」

「良いですよ」


 湯船から上がって、背筋もかなり鍛え上げられているシャロットの背中を石鹸を付けたタオルでゴシゴシと擦るレウス。

 そんな二人の会話は、トリストラムの話から北の地域の話へと移り変わって行く。


「何にせよ、そのドラゴン討伐後のトリストラムが当時まだ未開の地だったこの地に移り住んで、我がイーディクト帝国を建国したのは確かだ。君がどうしてそこで意識を失ったのかは分からないが、君がこれから向かう北の地に何かヒントがあるかも知れないな」

「北の地……」

「ああ。……良し、次は儂が君の背中を流そう。それで、あのドラゴンが突然現れたのと何か関係があるのかも知れないのだが、あそこにある穴の地下にはそれなりの古代都市があるんだ。確かバランカ遺跡も昔はバランカって言う町だったのだろう?」

「そうです。砂漠のオアシスでした」

「多分それと同じなんだと思う。北の地で見つかった都市……あそこにも元々都市があったんじゃないのか?」


 レウスの背中を流し始めたシャロットからの質問に、彼はその当時この辺りで有名な都市は何処だったかを思い出し始めた。

 そして、五百年以上前に一つの町が北の方にあったのを思い出す。


「あー、ここからずっと北の方に向かった所にある町なら確か……ウェイスって町じゃないですかね?」

「ウェイス? ああ、今でも同じ名前の町があるよ。五百年前とはちょっと違う場所にあるんだがな。旧い方のウェイスは知っているのか?」

「はい。北の方にある町だからとにかく雪が深かったんですよ。今もそうなんですか?」


五百年前の事を思い返しながら、レウスは北の町の現状をシャロットに尋ねる。


「そうだな。あの辺りは確かに雪深い。だからあの周辺にある村は魔術師や学者が多く住んでいる。雪深いのを嫌がって人が余り寄り付かない分、研究に没頭したり調べ物をするのにはうってつけの場所だからな。もっとも今の時期はまだまだ雪の季節には程遠いから、移動するなら楽だがな。そのウェイスと言う町はどんな町だったんだ?」

「んー、俺は余りこっちの方に来た事は無かったんで良く覚えてないんですけど、確かウェイスはドラゴンの……この世界の神の片割れであるアンフェレイアの神殿がありましたね。町の住人はアンフェレイアを信仰していて、町の周辺には野生のドラゴンも多く住んでいた様な土地でしたし、それなりにドラゴンと繋がりは深かったですよ」


 エンヴィルークとアンフェレイア。

 この二匹のドラゴンがこの世界を創ったとされているのは、この世界に生きる者であれば誰でも知っている話だが、特にこの辺りでは防御と回復の神とされているアンフェレイアを信仰していた。

 今はどうなっているのか分からないレウスだが、アークトゥルスとして活動していた時の自分の時代では少なくともそうだったので、もしかするとアンフェレイアの波動(?)か何かが残っていてドラゴンもそれに引き寄せられたのかも知れない、との考えをシャロットに述べる。


「まあ、そのドラゴンとやらはどうやら生物兵器の様ですから、意思を持っているかどうかは分からないですけどね」

「しかし、騎士学院を襲撃して来たドラゴンには意思があったのだろう?」

「だと思いますけどね。でも、もしかしたら生物の匂いに反応してそれを攻撃する様に魔術で制御されていたのかも知れないですし。魔術に疎い俺には分からないですから、こんな考えしか出来ませんけど」

「そう、か……。でも、もしその説で正しかったとしたらカシュラーゼはとんでもないものを創ってしまった様だ」


 まだこの話は仮定にしか過ぎない。

 しかし、この世界の魔術の中心地と呼ばれるレベルの研究力と魔術技術を有しているカシュラーゼであれば、それも現実にあり得そうなのが怖い。

 シャロット率いるイーディクト帝国も魔術関係の書物を取り引きしていたり、その北の地でカシュラーゼから派遣されて来た魔術師が主導となって寒い地域における魔術の研究を続けている等、決してカシュラーゼとの関係が薄い訳では無い以上、今回出現したドラゴンへの対策はしておかなければならないからだ。

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