134.便利屋ホルガーの過去
皇帝のラトヴィッジ・アルマンド・シャロットが語ったのは、それはそれは衝撃的な話だった。
臣下達に頼んでホルガーのデータを記載した書類を持って来て貰い、パーティーメンバー達もそれに一緒に目を通しながら話を聞く事になった。
「このホルガーは見ての通りまだ十八歳と若いが、年齢では判断出来ない程ズル賢い男でな。十六の時から詐欺を繰り返していた。ただの市民相手の犯罪だったら儂の耳に入って来る事なんて有り得ない。だがこのホルガーの場合は、貴族相手になかなか上手く取り入って、金品を掠め取っていたから厄介だったんだ」
「掠め取っていた? その言い方だと詐欺って言うよりも、何だか泥棒みたいに聞こえますが……」
「そうなんだ。君の言う通り、詐欺だけで無く泥棒もやっていた。相手が金持ちだと分かれば話術で上手くおだてて家の場所を聞き出し、そこで一定の期間手伝いと称して様々な雑用を繰り返しながら家の内部構造を把握。隅々まで調べた最終的にはなるべく目に付き難い小物の高額な金品を盗み出し、表向きは契約終了と見せかけてそのまま行方をくらませる。これが奴の手口で、不定期にそういうのを繰り返していたもんだからなかなか尻尾を掴めない時が続いていたんだ」
そこまで話し終えたシャロットは、テーブルの上に置いてある紅茶入りのカップを手に取って茶を一口飲んでから続ける。
「でも、それも運が悪い時があって……金品を盗み出そうとしていたのを家主に見つかってあえなく奴は捕まったんだ。その家がこの国でも有数の大貴族の家だったから、儂の耳にもその便利屋のホルガーと言う男の話が届いたんだ。その男は結局二年の投獄を経て釈放されたんだが、君達にそうやって接触して来たと言う事はまた何かを仕出かそうとしているのかも知れない。気を付けるんだぞ」
「ご忠告感謝致します」
そして、話題は武器と防具の事になる。
「で、北の方に現われたと言うドラゴンについて説明をしようと思うのだが、ハッキリ言えば生半可な強化の武器では命を落としかねないだろう。例え君がアークトゥルスの生まれ変わりだと言ってもな」
「そんなに強いんですか?」
「ああ。それから仲間の君達もこの国に来て魔物の多さを実感しなかったか?」
シャロットにそう問われて、代表としてエルザが答える。
「そうですね。確かに陛下のおっしゃる通り、私達のリーフォセリアと比べてもかなり多いと感じました」
「ああ。くどい様だが、我が国では魔物の駆除が追い付いていない。追い付かないから魔物達はどんどん繁殖を繰り返し、一大勢力として北の地域を中心に我が物顔で暴れ回っている。そして凶暴化も激しくなっていて、儂達の力ではもう追い付かないんだ。情けない話だが、儂達はアークトゥルスとその仲間達の力を借りなければいけないレベルなんだ。頼む、儂達に出来る事なら何でもするからこの国を救って欲しい!」
「い、いやあの……頭を上げて下さい……」
「やってくれるのか?」
「……今回だけですからね。二回目は無いですよ。皇帝陛下の頼みだからこそですから!」
「そうか、ありがとうアークトゥルス……儂は嬉しいぞ!!」
ギュッギュッと両手でアークトゥルスの手を取って握手するシャロット。
これがもし、自分達と同じく普通の人間や獣人相手だったりそれなりの地位の貴族が相手だったとしても、カシュラーゼに向かう為に通り過ぎるだけの予定だったイーディクト帝国で寄り道をするなんて考えていなかった自分達は断っていただろうと考えるアークトゥルス。
しかし、今こうして目の前で頭を下げていたのは紛れも無くこのイーディクト帝国の皇帝陛下なのだ。
一国のトップに頭を下げられてしまっては、例え戦う気が無いとしても無碍に断れないのが心情だ。
しかもこの後、頭を上げて椅子に座りなおしたシャロットの口から思いも寄らない話が出て来た。
「そう言えば君達に関係があるかどうかは分からないが、気になる話を聞いたんだ」
「何ですか?」
「先に北の方に向かわせた魔物討伐隊からの報告でな、名うての傭兵が活躍しているとの情報があったんだ」
「名うての傭兵……ですか?」
「ああ。確か炎血の閃光って通り名の傭兵だった気がする」
「えっ……炎血の閃光ですか!?」
アークトゥルスは思わず、自分のパーティーメンバー四人に目を向ける。
彼女達が彼に向かって無言で頷いたのを見ると、その通り名で活躍している傭兵は間違い無くセバクターの事だろう。
自分達がその通り名を持っている傭兵と知り合いだと言う事や、彼もまたマウデル騎士学院の爆破事件の容疑者として追われている事をアークトゥルス達が説明すると、シャロットは神妙な顔つきになった。
「ふうむ、そのセバクターがわざわざ北の方に出向いているとなれば、赤毛の二人組の手先と言う事も十分に考えられる。ともかく武器と防具の修理が終わり次第、適当な理由をつけて便利屋への依頼は君達の口から断ってくれ。その代わりこちらで強化素材を用意させて貰おう」
「分かりました」
便利屋ホルガーのキナ臭い過去の話に加え、セバクターの目撃情報が出て来るなんて思いも寄らなかった。
色々と話がややこしくなって来たので、シャロットの意向で今日はセンレイブ城に泊めて貰い、アークトゥルス達は現在の呼び名であるレウスのパーティーとして翌日から北へ向かうべく準備を始める事になった。