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127.帝国国立図書館

 銀髪の男に教えられた『海犬亭』と呼ばれる鍛冶屋を目指し、五人はグラディシラの出入り口からずっと奥に向かった場所にあるセンレイブ城の近くまでやって来た。

 この帝国のトレードカラーである白を存分にアピールし、白亜の城として鎮座しているこの建物の目と鼻の先に『海犬亭』があった。

 だが、そこの職人から伝えられた話ではその武器や防具の強化をするのにも一苦労らしい。


「あーあ……参ったな。魔物の素材がかなり必要になるなんて……」

「あの時、換金して貰う為に商人の人に渡しちゃったからもう手元には何もかも残ってないのよね」


 ソランジュとサイカが揃って溜め息を吐く。

 職人曰く、強化をするのは構わないのだがそれ相応の金と素材を持って来ないと、強化出来る物も出来ないのだと説明を受けたのだ。

 金を稼ぐのであればこのイーディクト帝国の冒険者ギルドで色々と依頼を受けてそれをこなせば良いのだが、素材を集めるとなると魔物を相手に戦わなければならないので時間も手間も掛かるのが問題だ。

 商人の護衛で倒した魔物達の素材をあの時に換金せずに、ここまで全てあの袋を持って来ていれば……と今更悔やんでも過去は取り戻せないのだからどうしようも出来ない。


 ひとまずここは武器と防具の修理だけを頼んでおく。

 レウス達が余所者と言う事で最初は渋られたものの、あの闘技場で出会った銀髪の男の紹介だと言うと即座に対応が変わったのだ。

 コミュニケーションを取るのが苦手な職人達は人見知りも激しいのか、知り合いの知り合いと分かっただけであからさまに態度が変わったのにはレウス達もびっくりである。

 何にせよここで修理をして自分達の不安を少しでも取り除いておけばそれで良いだろうと考えたレウスは、本来の目的であった国立図書館へとソランジュに案内して貰う。


「国立図書館ならここだ」

「へえ、やっぱでかいんだな」


 案内されて辿り着いたのは、これまた白い外壁が眩しい二階建ての大きな建物。

 その屋根の上には大きな赤い本のオブジェクトが設置されており、一目で本に関する何かの施設なのだろうと遠くからでも分かる様になっていた。

 ここには国立図書館だけあって様々な本が置かれているのだが、中に置いてある本はこの商工に秀でた国らしく物流関係の専門家が書いたものだとか、経済の事に関しての物が実に七割以上を占めるらしいのだ。

 そういった本の需要が大きいのも納得が行くので、この際レウスは父の仕事を継ぐ為にそうした本も少し読んでみようと考える。

 せっかく遥々イーディクト帝国まで来たのだから。


(でも、本来の目的はそこじゃないんだよな)


 自分が探しているのは経済や物流関係のものではなく、このイーディクト帝国を建国したとされているトリストラムの話が書かれている本である。

 かつて、アークトゥルスだった自分と一緒にこのエンヴィルーク・アンフェレイアを恐怖に陥れたドラゴンを討伐した、ドラゴン討伐パーティーのメンバー。

 自分が亡き後にその彼女がこうやって商人と職人の帝国をどうやって築き上げたのか。

 アークトゥルスとしてのレウスは彼女に対して特別な思いを抱いていた訳では無かったが、当時の彼女を知る者としてはかなり興味がある。


 図書館の中に入って物流と経済関係の本を一冊ずつ、そしてアークトゥルス時代の歴史が書かれた建国歴史書を持ち出し、他のメンバーがそれぞれ自由行動をする中でレウスは一人で本を読みふける事にした。

 しかし、そこでレウスはトリストラム……いや、他のメンバーに対して疑いの心を持つ様になってしまうのだった。


(ええと……イーディクト帝国建国の歴史。この世界を破壊し尽くさんと暴れ回っていた、エヴィル・ワンと呼ばれるドラゴンを討伐せんと、全世界から選りすぐりの勇者のパーティーが結成された。その人数は全部で五人。リーダーのアークトゥルスを始めサブリーダーのエレイン、メンバーはその他にガラハッドとライオネル、そしてこのイーディクト帝国を建国した、聖女トリストラムの合計五人……ここまでは確かに合っているな)


 当時のメンバー達の顔が、転生してから十七年たった今でも鮮明に思い出されるレウス。

 それだけ一致団結してあのエヴィル・ワンと呼ばれていたドラゴンを討伐する為に動いていたのだが、その後の記述を読んで彼は自分の目を疑う事になった。


(その五人は見事エヴィル・ワンを討伐した。だが……その代償としてリーダーのアークトゥルスを失った。それは彼がドラゴンに討伐されたのではない。……彼がドラゴンの魔力に飲み込まれて暴走し、その暴走が止められなくなってしまう前に止む無く残りの四人がアークトゥルスを殺害したから……だ!?)


 おかしい。明らかにおかしい。

 あのドラゴンは確かに強大な魔力を持っていたが、自分がそのドラゴンの魔力に飲み込まれた?

 そもそも魔力に飲み込まれると言うのはどういう理論なんだ? と魔術に疎いタイプのレウスは頭の中が混乱し始めた。

 そんな話なんて前世でも今でも聞いた事が無かったし、自分が魔力に飲み込まれたなんて自覚も無ければ暴走した覚えだって無い。

 エヴィル・ワンを討伐したあの時、安堵していた自分が後ろから不意に受けた衝撃……あれが自分が魔力に飲み込まれた証拠だったのだろうか?

 目の前がグニャッと歪む様な感覚に襲われるレウスだが、そんな彼に話し掛けて来た者が居た。

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