126.役に立つかも知れない情報
セバクターとの二度目のバトルに続き、エルザとの二度目のバトルもこうしてレウスの勝ちで幕を閉じた。
お互いにアレットに魔術で回復して貰い、もうここに用は無いのでレウス達が地下闘技場から出ようとする。
だが、その五人の前に立ち塞がったのはまたもやさっきの銀髪の男だった。
「……どういうつもりだ? もう約束通り俺達は試合をやった。なのにまだ帰らせないつもりか?」
「いやいや、そう言う訳じゃねえよ」
「ならさっさと退け! 俺達は帰らせて貰うぞ!」
付き合っていられないレウスは今度こそ銀髪の男を押し退けてここから出て行こうとしたものの、そこは体格の違いで両肩を大きな手に掴まれてストップさせられた。
「まあ待てって。話は最後までちゃんと聞いてから帰れよ。お前達にとって今後役に立つかも知れないって情報を教えてやろうと思ってんだからさ」
「役に立つ情報ですって?」
「そうだよお嬢ちゃん。俺だって戦士の端くれだからな。どんな戦い方なのか、どれ程強いのかってのかがそれなりに分かるんだ」
「お、お嬢ちゃんですって……!?」
レウスに続いて自分まで馬鹿にされたサイカは、思わず銀髪の男につかつかと詰め寄る。
しかし、銀髪の男はレウスを片手で押し留めたままサイカをもう片方の手でしっかりと押し留める。
体格的な差があるとは言え、片手一本ずつでそれなりに鍛えている人間を抑え込めるなんて、この男は只者では無い……と抑え込まれたままのレウスやそのやり取りを見ていたエルザは、この時ハッキリとそう思った。
彼女の心の中でそんな評価をされているとは思ってもいない銀髪の男は、抑え込んだ手はそのままに「役に立つかも知れない情報」を話し始める。
「お前等の腕がそれなりに立つってのはよーく分かった。さっきの動きを見ていれば動ける連中だってのは理解出来たが、そんな装備で大丈夫なのか?」
「装備……?」
「ああ、そうだ。周りの連中の装備を見てみると、ほぼ全てがそれなりに強化されているんだよ」
次の対戦が始まって再び熱気に包まれている地下闘技場の中で、それぞれが武器を持っているギャラリー達。
そのギャラリー達の装備が強化されていると言っても、正直見たままで言えば市場や武器屋で売られている武器と大して変わりは無い様に思える。
それをソランジュが指摘すると、銀髪の男は一度頷いてから説明を始めた。
「別に普通の武器なんじゃないのか?」
「まあ確かに、こうやって普通に見ただけじゃ分からねえな。そこは俺の言葉違いもあった。だが……武器屋に持って行けばすぐに鑑定して教えてくれる。鉱石とか魔物の部位の素材を使って強化された武器は、それなりの強度と耐久性、そして技の威力を生み出すんだ」
「あんたは分かるのか?」
「いいや。俺も正直こうやって見ただけじゃ良く分からねえ。でも……強化されている武器からは魔力が伝わって来るんだ。人間のものとは違う魔力をほのかに帯びているから、俺はそれが分かる。ああー、これは魔物の素材を使って強化されている奴だなー……とかさ」
何ともアバウトな判断基準だなーと五人は思ったが、武器の強化と言うのは確かに必要かも知れない。
今までは無強化状態の武器でこうして乗り切って来た訳であるが、この先どんな戦いが待ち受けているかは分からないし、どんな敵が自分達に襲い掛かって来るかも定かでは無い以上、色々と備えておくのは大事だろう。
特にあの国境の村からここ帝都グラディシラまで護衛して来た商人から聞かされた、北の方で目撃されていると言うドラゴンの話も、何時自分達に降り掛かって来るか分からないからだ。
(俺って、どうやっても戦いに巻き込まれる運命なのかな……)
今までの経緯を色々と考えて、前世でアークトゥルスとして活動していた時から、自分が戦いに参加する頻度が余りにも多過ぎるのは定められた運命なのだろうかと考えてしまうレウス。
あの赤毛の連中を倒せばその運命とやらも終わってくれるのだろうか? と考えつつ、自分の頭を未だに押さえつけている銀髪の男の手を退けながら、彼に対してその武器強化の話をもう少し詳しく聞いてみる。
「それは分かった。その武器の強化をするにはやはり武器屋に行けば良いのか?」
「基本的にはそうなるな。だが、それは武器をもう一度作り直して強度を上げるだけに過ぎねえ。もっと本格的にやりたいってーんなら鍛冶屋に行ってみれば良い」
「鍛冶屋? それって武器屋の奥で鍛冶をしている人じゃないのか?」
「普通は確かにそうだけど、この国は商人の国であるのと同時に職人の国でもあるんだぜ? コミュニケーションを取るのが苦手で商売をするのはヘタクソだが、鍛冶の腕が抜群って奴は多い。ちなみに俺からおススメするんだったら、センレイブ城の近くにある『海犬亭』って鍛冶屋だ。そこだったらかなり腕の良い奴が居る。……ああ、それから武器だけじゃなくて防具も一緒に強化してくれるから一緒にやって貰えば良いんじゃねえか?」
「分かった……どうも」
今度こそ闘技場から出られるのだと知り、挨拶もそこそこにレウス達は地下闘技場を後にする。
その五人の後ろ姿を見送りながら、銀髪の男はポツリと呟いた。
「マウデル騎士学院の奴等がこんな所に居るなんて……何年振りかな……」




