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124.強制なの?

「いけいけ、そこだあ!!」

「きゃあー、負けちゃ嫌よお~!!」

「オラー、大金賭けてんだからしっかり動けしっかりー!!」

「良いわよ、やっちゃってええ!!」


 男女問わず、人間も獣人も関係無く地下の闘技場ではおよそ百人程のギャラリーが、中央にある金網で囲まれた八角形のリングの中で戦っている二人の人間に注目していた。

 ロングバトルアックス使いの大柄な体躯の男と、レイピア使いの貴族風の男がお互いに攻めあぐねながらも白熱した戦いを繰り広げている。

 自分もこの前ソルイールとイーディクトの国境付近の山道で人間相手に戦った事があるので、エルザはこの昂ぶる興奮を抑え切れない表情である。


 その他のメンバーは、アレットが自分と同じ魔術師の挑戦者が居ないかどうかキョロキョロと周りに視線を巡らせている。

 ソランジュとサイカは予約受け付けをしているカウンターの男に何やら話し掛けている。

 まさか戦うつもりなんじゃ無いだろうな……とレウスが内心でドキドキしながら動向を見守っていたが、どうやら彼女達はエントリーをしに行った訳では無く、熱気で水分を失い過ぎない様に人数分の飲み物を注文しに行ってくれたらしい。

 その証拠にレウスとアレットとエルザに、それぞれオレンジジュースを持って来てくれたからだ。


「はい、これレウスのね」

「どうも。ところでお前達の分は?」

「今からまた取りに行くよ。それよりもここでは賭けをして金を稼ぐ事も出来るんだが、やってみたらどうだ?」

「だからやらないって言ってるだろ。それよりもあの女はやる気十分らしいがな」


 ソランジュからジュースを受け取ったレウスがチラリと視線を向けた先には、サイカから渡されたジュースを飲みつつも既に腰のバトルアックスを抜き気味のエルザの姿があった。

 未来のリーフォセリア騎士団員があんなに好戦的だなんて、これじゃあソルイールの連中と一緒じゃないかと思ったレウスは再度彼女に釘を刺しに行こうと思ったのだが、その前に自分とソランジュの分のジュースを取って来たサイカから奇妙な物を渡された。


「はい、これ持っておいて」

「何だこれ?」


 サイカから渡されたのは、数字が書かれているボロボロの長方形の木の板。

 端の方には雑に小さな穴が二つ開けられており、これまた使い込まれてボロボロの紐が通されている。


「この木の板を、首に紐を掛けて下げておいてね。貴方も挑戦者の一員なんだから」

「なっ……エントリーしたのか!?」


 まさかの事態である。

 あれ程エントリーはしないし、見学だけだと言っておいた筈なのに約束を破られたレウスは声を荒げそうになったが、その前にサイカからこの木製の番号札の意味が告げられる。


「ううん、私達がした訳じゃ無いのよ。ここのエントリーは強制なんだって」

「え?」

「この闘技場にやって来た人は、戦う気があっても無くてもエントリーは強制なんだって説明を受けたのよ。そして必ず一度は戦わなければ外に出られないってルールなんだって」

「何だそれ……馬鹿馬鹿しい、俺は帰らせて貰うぞ!!」


 そんなルールがあるなんて何も聞かされていなかったレウスは、これ以上付き合っていられないと呆れつつ、さっさと外に出ようとする。

 しかし、そんな彼の前に立ち塞がったのは意外な人物だった。


「お前、余所者だからってそんな自分勝手が通用すると思ったら大間違いなんだぜ?」

「ふざけるな、俺は戦うなんてこれっぽっちも考えてないんだよ。良いからそこを退け!!」


 レウスの目の前に立ち塞がったのは、出入り口で五人を中に案内したあの屈強な男だった。

 武器も彼の屈強な体躯に負けず劣らずの、彼の背丈程もありそうなハルバード……しかも斧の部分がかなり大きいので、何だかアンバランスなイメージだ。

 その男はここの闘技場の案内係を務めているだけあって、簡単にはレウスを逃がしてくれそうに無いらしい。


「へー、だったらどうしてここに来たんだよ?」

「この女達に付き合って来ただけなんだ。そもそも俺はここに来るのだって初めてだし、そんなルールがあるなんて知らなかったんだよ!」

「だったら尚更だぜ、お坊っちゃん? 初めての場所で「知りませんでした」なんてのが何処でも通じると思うなよ? 確かに通じる所も世の中にはあるだろーが……ここじゃそれは通用しねえ。一戦誰かと交えて帰る。それがここのルールなんだ。それとも何かい? お坊っちゃんだから戦えないって言うのかい?」


 完全に馬鹿にされている。

 だが、それでも無駄に戦う気の無いレウスは帰るスタンスを変えない。


「お坊っちゃんでは無いが、戦えないのは事実だ。もうここには二度と来ないから、今回だけ特別に見逃してくれないかな?」

「だから駄目だっつってんだろ? 話の分からねえ奴だな。よーし……それじゃ俺が相手を選んでやるよ。あそこに居る女は確かお前の連れだったな? さっきから見てたら戦いたくてたまらねえってウズウズしてんぜ、あの女。だからあいつと戦えよ。ほら……前の連中が終わったからよお!!」


 彼がそう言うと同時にレウスは男に抱え上げられ、開きっ放しの金網のドアから中に投げ込まれた。

 そしてその対戦相手は、かつて自分と戦ったのが遠い記憶に思えるエルザだった……。

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