122.久しぶりの会話(その2)
憶測と推測で成り立っていた話題で会話しながらの食事の時間が終了し、グラディシラの街中を女達が見回っている間、レウスはこの街の通話スポットへと向かっていた。
ファラリアとの約束を果たすべく、あれから五日経った今になってようやく通話する機会が訪れたのだ。
父のゴーシュも恐らく帰って来ているだろうし……と思いながら通話スポットへとやって来たレウスだったが、そこで彼は通話相手と思いも寄らない話をする事となった。
「……出るかな? あ……出た」
『はい、アーヴィンです』
「もしもし母さん? 俺だよ俺、レウスだ」
『あっ、レウス? グラディシラに着いたのかしら?』
通話に応答したのは母のファラリアだった。
ここまではあのソルイール帝国との国境近くにあった村での通話と変わらないが、問題はここからである。
「ああ。商人の護衛任務が終わってようやく着いたんだ。それはそうとして、父さんは戻って来ているのか?」
『ええ、今ここに居るわよ。代わるわね』
「頼む」
通話に必要な魔法陣の向こう側から、ファラリアがゴーシュを呼ぶ声が聞こえて来る。
そのすぐ後にドスドスとこちらに向かって来る足音が聞こえ、久しぶりに聞く声がレウスの耳に入って来た。
『……レウスか?』
「ああ、父さん? 久しぶりだな」
『そうだな。母さんから断片的に話は聞いたが、とんでもない事の連続になっているらしいな』
「そうなんだよ。誘拐されたのが何よりもショックなんだ。それで色々と事情があってそっちにはまだまだ戻れそうに無いからさ」
レウスは自分の口から、今までの事をかいつまんでファラリアの時に話し切れていなかった事も話しておく。
それを相槌を打ちながら聞いていたゴーシュだったが、一通りその話を聞き終わってからしばし考え込む素振りを見せる。
『となると、お前はその爆破事件の容疑が掛かっている身でもあるから帰って来られなさそうって訳だな』
「そうそう。セバクターとか、その赤毛の二人を捕まえでもしないと容疑は完全に晴れないだろうね」
『そうか。それで今はイーディクトのグラディシラに居るんだったな。それだったら父さんの知り合いもそっちに何人か居るから、物資の提供を頼んでみようか?』
「え……良いのか?」
思い掛けない提案にレウスは喜ぶが、それなりの見返りは必要らしい。
『良いよ。ただ、向こうも俺と同じ商売人だからな。何らかの見返りとして要求される物があるかも知れない。例えば労働力だったりとか、魔物の素材だったりとか、その他のお使いとかだ。良くも悪くも商人は損得勘定ありきで動くし、職人は気難しい連中が多い。武力的な意味で戦うのは慣れていなくても、そうした取り引きとかの面で戦う駆け引きに関しては一流の連中ばかりだ』
「成る程ね。それで……物資の提供って言ってたけど俺はどうすれば良いんだ?」
『それはまだこれから考えるから、また二日位後になったら通話をくれ。その時に物資の提供について説明出来たらと思う』
「二日後ね。じゃあそれまではこのグラディシラに滞在しているから」
『分かった。……それとなんだが』
これで話は終わりかと思いきや、まだ何かあるのか? とレウスは通話を終了しようとした手を止めた。
だが、その話の内容が思いも寄らないものだったのである。
『もしかしたら……俺もそっちに行くかも知れない』
「えっ!?」
『いや、ほらその……グラディシラに知り合いが居るってさっき話をしただろう? だったらその知り合いに顔を出しておいて、これからの取り引きについて話が出来ればと思ってな』
何と、ゴーシュもグラディシラに来るのだと言う。
しかし地図で見る限り、バランカ遺跡のある砂漠を超えたり、あのムカつく皇帝バスティアンの統治しているソルイール帝国を挟んでかなり距離があるので、かなりの時間が掛かるのでは無いかと考えてしまうレウス。
一方、そこにはゴーシュなりの考えがあってこう提案したらしいのだ。
「でもさー、そっちから来るってなると凄く時間が掛かると思うぞ? そんなに家を留守にして大丈夫なのか?」
『ん? そこまで掛かるか?』
「ああ。だって東に向かうだけでも時間が掛かるし、砂漠だって超えなきゃならないしさ……」
『おいちょっと待て、俺は東のルートでそっちに向かうとは言っていないぞ?』
「え?」
『西から船を使って海を渡って行けばすぐだろう? この世界は世界地図の端から端へと繋がっているんだから、西へ向かうルートでそっちに向かう予定だ』
「あ、ああ~……それならまぁ、確かにそんなに時間は掛からないだろうな」
今までの波乱万丈な流れでずっと記憶から抜け落ちていたが、そう言えばこの世界は端から端へと繋がっている構造なんだ……とアークトゥルス時代に知った事を思い出すレウス。
現に自分だって、前世では北に向かって出発してから南の陸地に船で渡り切った事があったからこそ繋がっているのが分かるのだ。
それはそれで良いのだが、息子に会いに行くと言う口実でわざわざ海を渡ってこうやってイーディクト帝国まで来るなんて、親父も良くやるよなー……と感心と呆れの感情が混ざった表情をせずにはいられなかった。