118.決意
山道の道中で時折り出て来る魔物を倒しつつ、レウス達はソルイール帝国との国境にもなっているこの山越えに成功し、イーディクト帝国側にある麓の村に辿り着いた。
まさか自分達が先程、この山の中で隣国の皇帝と騎士団長、そしてギルドの若手冒険者と戦って来たなんて夢にも思っていないだろう……と妙な達成感らしき感情を覚えつつ、この村で休息を取る事にした。
この村でもギルドの冒険者達に向けた依頼を色々と用意しているらしいのだが、もっと簡単に金を稼げる方法で今日の分の宿代や食事代を稼げたのだ。
「はー、結構高値で売れたわね」
「そうだな」
二人は村のギルドで、山道で倒した魔物の身体の部位を詰めた袋をカウンターに提出して換金したのである。
こうした魔物の身体の部位は武器や防具の材料として売れるので、魔物を倒した後に回収するのが冒険者のお約束である。
今回は山下りのついでに出くわした魔物を倒した訳だが、ギルドの依頼には勿論魔物の討伐案件が多数存在している。
それは以前、ソルイール帝国内のギルドで依頼を受けたレウス達も良く分かっているし、元々冒険者として活動していた経験のあるソランジュとサイカは言わずもがなである。
と言う訳で換金のついでに魔物討伐の依頼を幾つか受けて、商人の護衛も合わせて引き受けておく。
その商人の行き先はこのイーディクト帝国の帝都、グラディシラだ。
このグラディシラはどういった街なのかをソランジュに尋ねてみると、この商工帝国の中心地だけあって帝国ギルドの本部が置かれているだけで無く、そこかしこで大小様々な商家がしのぎを削っているらしい。
もしアーヴィン家がこのグラディシラを本拠地としていたら、真っ先に潰されていたかも知れない……と自分の家の事ながらレウスがそう思ってしまう程に競争率が激しい場所だ。
そもそもこの護衛の依頼を受けたのはそのレウスであるが、その理由は自分の目的も兼ねていたからである。
「図書館ですって?」
「ああ。俺はあいにくドラゴン討伐時までの記憶しか無いからな。このイーディクト帝国を興したのがトリストラムだって言うんなら、あいつがどうやってこの国を興したのかを俺は知りたいんだ」
「……確かに五百年前のパーティーメンバーだから、その記憶が途切れる前に何が起こったのかが気になるのは当然よね。その当事者の生まれ変わりなんだし。グラディシラの図書館だったらリーフォセリアやソルイール帝国では手に入らなかった情報が手に入るかも知れないわね」
「そこも俺は期待しているんだ」
宿屋の隅の、山から流れている川の水を利用して泥だらけになったブーツをジャバジャバと洗いながらそう話すレウスに、同じく自分のブーツを洗っているアレットが納得した表情を浮かべた。
「でも、その後はこの国に用事はもう無いからさっさとカシュラーゼに向かうぞ」
「分かってるさ」
アレットの逆隣に居るエルザの一言に、軽く頷いてそう答えるレウス。
ソランジュの地元だと言う事で何かイベントにでも案内されるかと思っていたのだが、別にそんな事も無いらしくこのまま五人揃ってグラディシラに立ち寄って、カシュラーゼに向かう予定だ。
地図上で見る限り帝都グラディシラはカシュラーゼとの国境に一番近い街でもあるので、依頼を受けるにしろ受けないにしろ、どちらにしても立ち寄る予定ではあったのだが。
◇
そう約束を交わしたその日の夜、レウスはふとバランカ遺跡の事を思い出していた。
(そういや……あのバランカ遺跡にもドラゴンの身体の欠片があるとか無いとかって話を聞いた様な気がするけど、ヴェラルとヨハンナの二人もあそこに向かったのかな?)
あの神出鬼没の二人の事だからあり得るだろうな、とレウスは考える。
ソルイール帝国の中であの二人の姿の目撃情報がある上に、一緒に行動しているセバクターが一時的に別れて行動していたとなればあの遺跡に行っていてもおかしくは無いだろう。
だが思い返す限り、あの中にドラゴンの身体の欠片を置いてある様な場所は見当たらなかった。
もしそんな事になった場合に、五百年前の勇者の俺がドラゴンの復活を絶対に阻止しなければならない、と言う強い意志を持っているレウス。
だが、あそこに欠片が無かったとしたら何処か別の場所にあるかも知れない。
ドラゴンの復活を企んでいるであろうあの二人が、決して意味無くあの遺跡に足を運ぶ様な事はしないだろうから。
(……となると、あの赤毛の連中はカシュラーゼの手先となって動いているって話になるよな? あのドラゴンの生物兵器を作ったのもカシュラーゼだって事を考えれば、ソルイールなんかよりもよっぽど厄介な国なのは間違い無いみたいだ)
そうなると、自分達はこれから敵の真っ只中に飛び込んで行く様なものである。
でもドラゴンの復活をすると考えているのであれば、その時はカシュラーゼを国ごと地図から消し去ってやる位の気持ちである。
五百年以上経ってまでドラゴンとの因縁が復活するなんて、まっぴらゴメンだからだ。