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9.キナ臭い話

「貴様のあの動きを見る限り、初心者とは到底思えんぞ。私のバトルアックスをかわす時の動きも必死そうに見えて何処か余裕が感じられた。まるで昔から戦い慣れている様なそんな動きだった。私の目は誤魔化せないぞ!!」

「……へえ、そうか。だったら今日はここに泊まっていけ。そして俺と明日勝負しようぜ」


 最後の希望で父親のゴーシュに目配せをするレウスだが、彼は黙って首を横に振るだけだった。

 もう逃げられない。

 レウスは一つため息をついて、エドガーに向き直って口を開いた。


「分かりました……やりますよ」

「そう来なくちゃな。だったら明日の朝に鍛錬場に来てくれ。模擬戦用の槍を用意して待ってるぜ」


 まさかこんな事になるなんて。

 エドガーが熱血漢で好戦的な性格なのはゴーシュから聞いていたので知っていたが、本来自分はここまで来てエドガーに会ってすぐに帰る予定だったのに。

 戦いたく無いと言う自分の意思とはまるで逆の出来事が次々とこうしてやって来るなんて、何か運気が悪いんじゃないかとレウスは目を伏せてかぶりを振った。



 ◇



「すまんな。あいつは昔から一度言い出すと聞かない頑固な面があってさ。だから少しだけ手合わせに付き合ってやってくれ」

「ああ。そこは父さんの知り合いだし、わきまえなきゃな……」


 話を聞いたレウスはゴーシュと共に地元の田舎町に帰ろうと思ったのだが、時間的にもう遅いので今日は学院の一室に泊めて貰える事になった。

 その宿泊の為に用意された騎士学院の生徒用の宿舎の一室で、疲れ切った様子のレウスを一緒の部屋に泊まる事にしたゴーシュがなだめている。

 レウスもレウスで、もうここまで来たら適当にあのエドガーの相手して帰ろうと思っていた矢先、コンコンと部屋のドアがノックされた。


「誰だ?」

「アレットですけど、食事を持って来ました」

「ああ、どうぞ」


 名乗った通り、二人の居る部屋のドアを開けて入って来たのは青髪の女学生アレットである。

 押して来た金属製のワゴンにはレウスとゴーシュの二人分の食事が乗せられており、ホカホカと湯気がたっている。

 その料理を二人に配膳しながら、おもむろに彼女は口を開いた。


「それとエドガー学院長からの伝言もあるわ。レウスには是非ウチに入学して欲しいって」


 そのエドガーからの伝言に、レウスもゴーシュも目を丸くした。


「俺の息子に騎士学院に入学してくれだと?」

「ああ……何でこうなるんだよ。どうしてもって頼み込まれての話だったとしても、絶対に俺は嫌だね」


 だが、レウスのそのセリフを聞いたゴーシュは良く日に焼けた精悍な顔に複雑そうな表情を浮かべる。

 父のその顔を見て、何かまずい事を言っただろうかと不安になるレウスの前で、ゴーシュは何処か言い難そうに口を開いた。


「レウス……お前は、騎士になるつもりも冒険者になるつもりも無いんだろう?」

「ああ。俺は自分から戦う事には興味が無いからな」

「そうか。……いや、それなら良いんだ。実は最近マウデル騎士学院の周りでキナ臭い話を聞く様になったからな」

「キナ臭い話……?」

「えっ、それってどう言う事ですか?」


 ゴーシュは元々この学院の卒業生だと言う事もあり、マウデル騎士学院に対しても備品だったり色々な物の納品を行なっているツテがある。

 そのゴーシュが突然不穏な事を言い出したので、レウスは勿論アレットまで思わず身を乗り出して続きを促す。


「まあ……最近この学院の周りで妙な連中がウロウロしているって話だ。学院の連中は知っているのか?」

「いいや、さっき一緒に居た通り俺はちょっと話しただけだからそう言うのは何も聞いてないよ。君は何か聞いているのか?」


 この学院の一番の関係者であるアレットに聞けば何か分かるかも知れないと思ったレウスだったが、話を振られた彼女もレウスと同じく首を横に振った。


「ううん、私も今初めてその噂を聞いたわよ。エドガー学院長からは何も聞いていないし、各教科の担当教官からも何も言われていないからね」

「そうか……でも、この学院のセキュリティはしっかりしてるから大丈夫だろう。それに学院長は俺の相棒だったエドガーだから、あいつに任せておけば安心だ」

「そうなんですか?」

「ああ。何回もここに出入りしている俺がエドガーからそう聞いたから間違い無いし、そもそも俺よりも君の方が授業を受けている学生の身分なんだから、俺より学院の事は詳しいんじゃないのか?」

「うーん、私はただの生徒の一人ですから知っている場所と知らない場所があるんですよね」


 学院に出入りしている関係だけで無く、冒険者時代の相棒だった関係であのエドガーと繋がりがあるゴーシュは、彼に心の底からの信頼を寄せているらしい。

 そのゴーシュとアレットの話を傍らで見ているだけのレウスはすっかり蚊帳の外なのだが、ともかくセキュリティの面では問題無いのが分かっただけでも安心出来た。

 手合わせの前に更に不安が増大するのだけは避けたかったので、気を取り直してまずは夕食を摂る事に決めた。

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