113.ギルドの冒険者同士のバトル
バスティアンがレウスに向かって行き、セレイザがアレットとエルザに向かって行く一方で、ギルドの期待の若手冒険者エジットはソランジュとサイカの方に歩いて来るとおもむろに口を開いた。
そして、ソランジュにとって衝撃的な話をし出したのだ。
「俺に感謝して欲しいもんだよ」
「何で?」
「確かそっちのお前は、ベルフォルテの美術商人の元で使用人をやっていたんだったな。で、そいつに色々と酷い事をされていたそうじゃねえの。あいつから直接、セレイザ団長が聞いたらしいぜ?」
「……だったら何なんだ?」
ここまで言われてもまだ気付かないソランジュに対して、舌打ちをしながらエジットはストレートに告げる。
「チッ、鈍い奴だぜ。だったら率直に教えてやる。その美術商人を殺したのはあの赤毛の二人組で、殺す様に命じたのは俺達だ」
「え……?」
「お前を理不尽な暴力から救ってやったんだから感謝して欲しいんだが、まさかあの赤毛の奴等がお前等と手を組んで城を爆破するなんて思ってもみなかったよ。だからここでレウスを殺すついでに、お前達も殺してやるさ。あの世でお前はまた美術商人のヤローに色々されちまえよ!!」
そう言いながらロングバトルアックスを振りかざして向かって来るエジットに、ソランジュとサイカの二人も勿論応戦し始める。
だが次の瞬間、エジットがズボンのポケットから魔晶石を取り出して二人に向かって投げ付けると、その瞬間に魔晶石が破裂して煙幕が二人に襲い掛かる!!
「うお!?」
「くっ!」
煙を撒かれては視界も悪くなるので、一先ずは近くの木の陰にソランジュが、岩壁の陰にほふく前進の形でサイカが隠れる。
そんな二人に向かって、今度は思いっ切り水が降りかかる。
それもその筈、魔術も使いこなすエジットによって今度は二人目掛けて鉄砲水で放水されているからだ。
「ぶわっ!!」
「うおあ!」
ただでさえぬかるんでいる地面が更に水浸しになる状況だが、それでも何とか放水から逃れて、ソランジュとサイカの二人は放水元を探す。
エジットの動きがなかなか素早い上に、ガケの近くで戦っている為に落ちないかどうかに気を使わなければならないのだ。
「くっそ、何なんだ!!」
「あっちよ、サイカ!」
水の飛んで来る方向をソランジュが見つけ、その方向に向かって攻撃をする二人。
だが、エジットもそれを上手くかわして再び二人を水攻めにしようとする。
(二人掛かりだろうが、俺に勝とうなんて甘いんだよ!)
しかし、ソランジュは二人と言う人数差を活かして、まずは左手でサイカにハンドサインを送る。
そのハンドサインを見たサイカは小さく頷き、まずはガケの絶壁の方まで移動してエジットの気を引く。
そうするとソランジュの思惑通りにエジットの攻撃の矛先がサイカに向いたので、そこでソランジュが死角からエジット目掛けて大き目の石を投げ付けた。
「ぐお!」
エジットのそんな呻き声がして、ソランジュの投げた石が当たった事が確認出来た。
だが、まだエジットは人物は倒れていない様なので追い討ちをかけるべく、サイカが立て続けにその人物に石を投げ付ける。
「ぐあ、うぐ!!」
だがエジットも、遠距離からファイアーボールを放って来たり、魔術でスピードアップしているらしく常人ではあり得ない速さで近づいて来て、ロングバトルアックスで攻撃して来たりもする。
(これ、結構やばいぞ……)
サイカもまたシャムシールと体術で対抗するが、エジットは回避スピードも凄まじい。
恐らくこれも魔術なのだろうが。
(けどこっちだって冒険者としてやって来ているからね。変則的な技だって沢山習得したし、簡単には負けられないのよ!!)
その変則的な技の動きを利用して、エジットに攻撃を当てるのだ。
時間も余り掛けられそうに無いので短期決着で行きたい。
タイミングを覗う為に、攻撃を少し緩めて防御に徹するサイカ。
前転でエジットに近づき、低い姿勢から足払いを掛けつつシャムシールで牽制。そして起き上がる。
そこを狙ってエジットがロングバトルアックスを突き出して来たので、それをひねり回転をしながらのジャンプで避ける。
そのジャンプの途中にキックを繰り出すのだが、それはエジットも予測済みらしく避けられてしまった。
しかしそれはただのアクロバティックなキックでは無く、左足の軌道を高めして、彼が屈んで避けさせる様に仕向ける。
そこから右足を空中で振り上げ、その右足でエジットの顔面を狙う二段構えのフェイントキックだ。
「ぐあ!?」
エジットが怯んだ所に、サイカは着地してすぐにミドルキックを腹に入れる。更に間髪入れずに回し蹴り、その勢いで右ハイキック。
するとエジットが吹っ飛ぶので、追撃に飛び三段蹴りをかます。
「うぐ!」
それでもまだフラフラになりながらも持ち堪えるエジットだったが、今度はソランジュがそんな彼の胸目掛けて突進。
そのまま左手でエジットの右肩を掴み、ジャンプして脳天に肘を叩き込む。
「ぐえっ……」
その衝撃で気を失ったエジットは、そのまま真っ逆さまに声も上げずにガケ下へと落下して行った。
これで冒険者コンビは、ギルドの期待の若手を撃破する事に成功して生き残ったのだ……。