112.逃がさないよ
だが、そんな説明を受けている間に最悪の事態が起こる。
増水した川によって、なんと舟が流されてしまったのだ!!
それに五人が気が付いたのは、雨が上がってようやく移動出来る……と川辺に向かった時だった。
「ちょ、ちょっと……舟が無いわ!」
「嘘だろ!? 流されちゃったのか!?」
「どうもそうらしいな……」
唖然とするアレット、エルザ、ソランジュの三人だが、ここで止まっている暇は無い。
舟が流されてしまったのであれば川下りは諦め、山越えのルートを選択するしか無くなったらしい。
まさかのアクシデントによってルート変更を余儀なくされてしまった一行は、サイカとソランジュの導きでイーディクト帝国方面に向かう山を越えるルートを進み始めた。
今までの順調ムードが一転して険しいムードに変わった一行は、そのムードと同じ位に険しい山道を進んで行く。
しかもさっきまで降り続いていた大雨によって地面はぬかるみ、かなり滑りやすい状況での登山なので気が抜けない。
「この辺りは余り来た事が無いし、登山道として作られてもいないからこんな獣道なのよねえ……」
「そうだよな。だが、私はイーディクト帝国からここを越えてこのソルイールに入ったんだ」
サイカのぼやきにソランジュがそう反応し、そう言えばそうだったわねと当時を回想するサイカ。
元々、ソランジュの生まれ育った場所はこのソルイール帝国では無くて隣のイーディクト帝国なのだから。
「なら、イーディクト帝国経由でカシュラーゼに向かうとしようか。この状況だとそれしか無いだろうし、上手く行けばあの皇帝を出し抜ける可能性もあるぞ」
「そうね、それが良いかも知れないわね。道案内はソランジュにお願いしてさ」
「はっはっは、あの皇帝が私達にまんまと出し抜かれて地団駄を踏んでいるのが目に浮かぶな! ははははははっ!!」
しかし、そのエルザの笑い声も長くは続かなかった。
曇り空によって影も出来なくなってしまった地面を進む五人の頭上が、フッと一瞬暗くなった。
それと同時にバサバサと何かが羽ばたく音が空から聞こえて来て、全員がその方向に目を向けてみるとそこには大きなワイバーンの姿があった。
そしてそそワイバーンの背中部分から何者かが飛び降りて来たのだ。
それと同時にサイカの声色が変わる。
「……あ、あれは……バスティアン皇帝……!?」
「はぁっ!?」
サイカのセリフ通り、そのワイバーンの背中から飛び降りて来たのは薄いオレンジ色の甲冑で武装したバスティアンだったのだ!!
しつこく自分を追い掛けて来たのかと思いながらも、五人が逃げ出そうとする前に物凄いスピードでバスティアンが追い付いて来た。
しかし抜刀をしていない所を見ると、どうしても五人を捕まえたいらしい。
「ひゃーはははっ!! 俺から逃げられると思うなよてめえ等ああああああ!!」
「み、みんな下がれ!!」
「ひぃぃ……!!」
アレットは腰が抜けてしまい動けない様である。
一方のバスティアンはレウスの前までやって来ると急停止。だがそれよりも気になるのは、彼以外に戦力となる騎士団員の姿が見当たらない事である。
「お前もしつこいんだよ!! 大体お前の部下の騎士団員はどうしたよ?」
「俺の部下なら城の消火活動と後片付け中だ。てめえの仲間が仕掛けた爆弾に右往左往しててなあ。本当はここでぶっ殺してやりてえけど、見せしめに殺してやる方が興奮するから今大人しく着いて来れば処刑の時まで悪い様にはしないが?」
それってどっちにしろ殺されるんじゃないか、と考えたレウスの答えは非常にシンプルだった。
「絶、対、嫌です」
「へー、そうかよ。だったらてめえ等纏めてぶっ殺してやんよ!! おい、御前等も手伝え!!」
バスティアンの声に反応し、山の上の方から二人の人影が走って来た。その二人の姿にもレウス達五人はそれぞれ見覚えがある。
「あ、あれってまさかセレイザ騎士団長!?」
「ギルドのエジットも一緒に居るわ!」
「なかなか鋭いじゃねえか。てめえ等は俺達をさんざんコケにした挙句、城を爆破までしやがって……その礼をここで今したい。いや、させて貰わなきゃあ気が収まらねえんだよ!!」
しかもあの赤毛の二人のせいで勘違いまでされていると言うのが、追い付いて来たセレイザとエジットのセリフで判明した。
「私達の目が届いていない所で、城を爆破したのはお前達だな?」
「いや、違うよ」
「違わないだろうが!! 俺達に恨みを持っての犯行なのは分かるんだよ。それに遺跡で負けた借りも返せてないからなあ。お前ら五人……ここで死んで貰うぞ!!」
「皇帝と意見が噛み合ってないじゃないのよ」
「くっそ、その減らず口をぶっ潰してやる……」
冷静に突っ込んだサイカのセリフに、エジットの怒りのボルテージがぐんぐん急上昇して行く。
しかし、それ以上に怒り口調になっているのはレウスだった。
「さっきから黙って聞いていれば、自分達のやった事を棚に上げて俺達を殺すだのと良く言えたものだ。寝言は寝てから言うもんだ、クズ皇帝!! だから俺達五人はこの国からさっさと退散させて貰うぞ!!」
レウスは強がってみるものの、この三人はなかなか簡単に退けられないだろうと思わざるを得なかった。
それでも戦わなければならない時があるのだとしたら、まさにそれが今だと言う事になる。