108.脱出
「良し、何とか上手く行ったな」
二人の騎士団員の死体を確認し、青いドアをコンコンとノックするレウス。
中からは声だけでも分かる位に警戒心を高めた返事があった。
「……誰?」
「俺だ、レウスだ」
「えっ……レウス!?」
「ああ。それからサイカも一緒だ」
「え……どういう事なの?」
「詳しい話はまた後で。とにかく開けるぞ」
「え、あ、ちょっと待って!! 開けちゃ……」
しかし、レウスはその声を無視してドアを開ける。
それが今までの作戦をすべてブチ壊してしまった。
何故ならレウスがドアを開けた瞬間、クレイアン城の全体にヒョヒョヒョヒョ……と断続的な高い音が鳴り響き出したのだ!
「……なっ!?」
「え、え……!?」
「だから開けちゃダメって言おうとしたのに!!」
ドアの向こうには確かにアレット、エルザ、ソランジュの三人が居た。
しかしこれは明らかに様子がおかしい……と言うよりも、どうやらレウスは取り返しのつかない事をしてしまったらしい。
部屋の中からはかなり焦った様子の三人が、我先にとドアに向かって殺到する。
「ちょちょちょ、落ち着け!!」
「落ち着いてなんか居られないだろう! お主達、ここはさっさと逃げないとまずい! 騎士団員達が集まって来るぞ!」
「貴様は警報装置を起動してしまったんだ!! 早くここから脱出するんだよ!!」
「武器はもう諦めるしかないわ。とにかくここから出るわよ!」
どうやら自分がとんでもない事を仕出かしてしまったのだと分かったレウスは、さっきの地下水路を通って何処かここから脱出出来る場所は無いのかとサイカに尋ねる。
だが、彼女も親戚に連れられて地下水路まで来た事があるだけなので、完璧な道案内は無理なのだ。
それでも今は警報装置を鳴らしてしまったので逃げるしか無いのだが、やはりと言うか城のあちらこちらからバタバタと人間や獣人達が走り回る音が聞こえて来る。
「くそっ、来やがった!!」
「こうなったらこれを借りるぞ!」
「私にも貸して! それからアレットは後ろに回れ!!」
ソルイール帝国軍に取られてしまって武器を持っていないアレット、エルザ、ソランジュの三人は、ひとまずレウスが腰にぶら下げている二本のロングソードをそれぞれ一本ずつ借りて応戦しながら脱出口を探す。
アレットは魔術師なので魔術を使えば良いんじゃないかと思うレウスだが、それを聞いてみると思いがけない答えが返って来た。
「出された食事の中に、私達が誘拐された時に投与された魔力を抑える薬が混ぜられていたのよ!!」
「ええっ!?」
「あの皇帝が私達の部屋にやって来て、自慢気に話して行ったわよ!! つまり今の私は魔術が使えないのlだから私は完全なお荷物状態なのよ!!」
馬車の中で残飯に入れられていた薬と同じものが、こっちの三人にまで与えられていた。
となれば確かに彼女が自分で言っている通り、完全なお荷物状態でしか無いメンバーを抱えての逃走劇が幕を開けた事になる。
廊下の先から何人もの騎士団員達が、男女、人間、獣人問わずにバタバタと走ってやって来たので、エルザとソランジュとサイカが先陣を切って立ち向かって行く。
前方の防御はその三人に任せ、レウスは後方からもやって来た騎士団員達を槍で確実に仕留めながらアレットを守り続けなければならなくなった。
廊下と言うバトルフィールドを考えれば、直線的に突き出した時のリーチの長さで槍の方がロングソードやバトルアックスよりも有利である。
しかし相手も槍を持っていたり、ロングバトルアックスを持っていたり、魔術や弓で遠くから狙われたら一気に不利になってしまう。
そうなる前にレウスは一気に攻めるだけ攻めて行き、なるべく多くの敵を絶命させて行く。
それと同時に、攻撃の手が緩んだ所でアレットから警報装置の事について話を聞かされた。
「あそこの部屋って、あのドアから私達が黙って出ようとすると警報が鳴る様に、部屋と廊下の境目に魔術防壁が張ってあったのよ。外側から入る時にもその魔術防壁を一旦打ち消してから出ないと入れないみたいで騎士団員達が部屋に入る度に呪文を唱えていたし、出る時はしっかりとまた魔術防壁をセットして出て行って……だから助けに来てくれたのは嬉しいんだけど、開けちゃダメって言おうとしたのに!」
「窓から出られなかったのか?」
「無理ね。窓の外にもしっかり騎士団員を見張りとして立たせていたし……こっちの廊下側には全然居ないみたいだから、多分私達の部屋の窓側に回したんでしょうね。でも最後まで話を聞いていてくれれば良かったのよ!」
「う……す、すまん!」
「すまんって言ってる暇があったら周りを見て! また敵が来たわよ!!」
アレットの声で敵が接近しているのに気が付いたレウスは、再び槍を振るって敵を倒して行く。
もしかしたら、サイカの言っていた不安感って言うのはこの魔術防壁による警報の事だったのかも知れない。
しかし今更嘆いたってもう遅い。
とにかく今はこのアウェイ真っただ中の、警報が鳴り響く城の中からどうやって脱出するかを考えながら大量の騎士団員を相手に戦うしか無いのだ……。