107.見張り
「あそこだな……」
「うん。あの人の言っていた事は正解だったみたいね」
レウスとサイカの視線の先には、青いドアを両側で守っている薄オレンジ色の甲冑姿の騎士団員が二人。
手にはハルバードを構えており、明らかに何かを守っているのが見て取れる。
さっきのセバクターが自分とどういう関係なのかをサイカに教えつつここまでやって来たレウスと、そのセバクターの話をレウスと一緒に聞いていたサイカは、彼のセリフを思い出していた。
「帝都中や城の周りの警備で一杯一杯だから、あいつ等の警備もこれだけ薄い……って話だったけど、あそこだけちゃんと警備をしているってなると、明らかに何かを守っていますって雰囲気しか無いわよね」
「ああ。でも、真正面から行くと絶対に見つかる。ここはどうするか……」
警備が薄いとの情報もまだ確証が持てない上に、皇帝の居る城の中となれば薄いと言ってもそれなりの警備態勢が敷かれているだろうから、下手に騒がれて増援でも呼ばれたら厄介である。
柱の陰から部屋の手前の様子を伺い、そして廊下の造りを見てレウスは一つの作戦を思いついた。
「良し……ここは一階だから、一旦窓の外に出よう」
「外に?」
「そうだ。ここは見ての通り等間隔に窓が設置されている。それにさっきのセバクターの逃げ方を見るに、どうやら換気の為か窓にはカギも掛かっていないらしい。ここは二手に分かれて、まずはサイカが敵を引き付けてくれ」
「それは良いけど……でもどうやってやるの?」
「それはだな……」
見張りをしている騎士団員達に聞こえない様に、耳を貸して貰ってゴニョゴニョと作戦を伝えるレウス。
それを聞いたサイカは微妙な表情を浮かべる。
「え~~~っ?そんなに上手く行くかしら?」
「あらゆる作戦を考えてみた結果、これが一番リスクが低くて成功する確率が高いんだ。少なくとも真正面から突っ込むよりは良いだろう。外を見ても騎士団員の姿は見当たらないから今がチャンスだ。やるぞ!!」
「う……うん」
だが、サイカはこの作戦に妙な不安感を覚えていた。
上手く行くかも知れない。けど、何か得体の知れないその不安感が躊躇する心を生み出している。
それでも今はレウスのこの作戦以外に自分も作戦が考えられないので、窓をソロリと音をなるべく立てない様に開けて窓の外へ。
ここが一階だからこそ簡単な窓からの出入りを駆使し、周りの様子を伺いながら今出たばかりの窓から二つ先の窓へと移動する。
それと同時に、サイカは窓の下に沢山落ちている小石を何個か拾った。
(次はこれを……)
目の前の窓にカギが掛かっていないのを確認しつつ、さっきと同じ様にソロリとゆっくり窓を開けたサイカは、手の中に収めている小石の一つを手に取って、窓に向かって投げつける。
ただし、窓の中目掛けて投げ入れたのでは無い。
彼女が狙いを定めたのは、自分が今しがた開けた窓の隣の窓である。
つまり、最初に出て来た窓と今開けた窓の間にある窓に向かって小石を投げつけ、カツーン、コツーンと小さな音を立てる様に仕向けているのだ。
「……何だ?」
「おい、ちょっと確認して来いよ」
「ああ」
その窓に石が当たる音に気が付いた騎士団員の内、窓に近い側の片方の騎士団員がドアの側を離れて窓に向かって近づいて来る。
もう片方の騎士団員も、人気が無くて警備の薄い中で退屈していただけあってその音の正体を確かめに行った騎士団員の動きに釘付けになっている。
その注目していた騎士団員の首筋にいきなり衝撃が走った。
「ぐふっ」
「え、どうした……って、何だ貴様……ぐおっ!?」
勝負は一瞬で決まった。
片方に騎士団員の首を貫く形でレウスの槍が刺さっている一方で、窓の様子を見に行った騎士団員の背後から伸びて来たシャムシールが、背中から心臓を貫いて絶命させる。
やったのは勿論レウスとサイカだ。
レウスが提案した作戦というのは、まずサイカが窓に向かって石を投げ付けて見張りの注意を引く。
そこで様子を確認しに騎士団員が離れた所で、柱の陰から最小限の音と動きで飛び出したレウスがドアに向かって一気に救出する作戦だったのだが、ドアの側からは騎士団員の片方しか離れなかったので急遽さっさと殺害してしまう作戦に変更。
騎士団員の注意が完全に窓に向かったもう一人の騎士団員の方に向いているのを確認し、首を的確に狙って槍を突き刺したのだ。
その異変に気が付いたもう一人の騎士団員が騒ぎ立てる前に静かにさせるのはサイカの役目。
窓に向かって来る騎士団員の姿に気が付いた彼女は、騎士団員の視界に入らない様に身を屈めながらシャムシールを構える。
そしてレウスが片方の騎士団員を殺害したのに気が付いたもう一人の騎士団員の背後に、あらかじめ開けておいたさっきの窓から侵入。
大声で増援を呼ばれる前に、騎士団員の背後から一息でシャムシールを突き刺して見張りを無効化したのである。
こうして二人の見張りを倒したレウスとサイカだったが、この後に思わぬ事態が待ち受けているとは知る由も無かった。
それこそ、今の作戦が全て無駄だったと言えるレベルの……。