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106.潜入! クレイアン城

 こんなに広い城の中だと言うのに、巡回中の騎士団員を始めとして人の気配が全くと言って良い程にしない。

 恐ろしい程の静けさに、レウスとサイカの緊張感はピークのままである。


「やけに静かだな……」

「そうね。これも罠かしらね?」


 ゴニョゴニョと耳打ちをしながら進む二人。

 足音をなるべく立てないようにしていても、この静けさの中ではどうしてもカツコツと二人の履いているブーツの音だけが響き渡る中で、三人が囚われている場所を探すべく城の中を探す。

 城のナビゲーターは地下水路に引き続きサイカなのだが、サイカも騎士団員の知り合いが居るとは言え城の中を全て見せて貰った訳では無いので未知の場所でもある。

 それにここの地下に転移して来たのは全くの偶然であり、このクレイアン城の中に三人が居なかったらアウトだ。

 バスティアンにあの三人を何処かに移動させる気が無いとも言い切れない以上、三人がここに居る事を願って一つずつ部屋のドアを開けてチェックして行くレウスとサイカ。


「居たか?」

「ううん、こっちは居ないわ。そっちは?」

「居ないな……と言うか、今の俺達が居るこの城の場所は一体何処なんだ?」

「そこまでは分からないわ。でも、城の中なのは分かるわよ」

「そりゃそうか」


 レウスがそう言った時、ふと二人の耳にカツコツと誰かの足音が聞こえて来た。

 二人は同時に身を固くし、そして身構えてそれぞれ武器を握る手に力が籠る。

 今までずっと人の気配がしなかったのに、ここに来て急に誰かが現われるなんて唐突過ぎないか? と思ってしまうのだが、敵にしろ味方にしろこの城の中に人間か獣人か分からないが他の人物が居る、と言うのは分かった。

 足音の主は二人の居る廊下の突き当たりの方から聞こえて来るので、そちらに視線を集中させて何時でも斬り掛かる事が出来る様になるべく気配を消しておく。

 そんな二人の目の前に現れたのは驚きの人物だった。


「……何故お前達がここに居るんだ?」

「えっ……誰?」

「あんたこそ……あのクソみたいな皇帝に協力していて楽しいか? セバクター」


 茶色のブーツをカツコツと響かせて通路の先に現れたのは、バスティアンに命令されて自分と手合わせしたセバクターだったのだ。

 彼がここに居ると言う事はやはりクレイアン城の中に来たと言う事で間違い無いと確信したが、彼もまたバスティアンの命令で動いていたのでレウスとサイカにとっては敵である。

 ……筈なのだが、セバクターはとんでもない事を言い出した。


「俺か? 俺は傭兵として雇われた上であの皇帝の命令を受けて仕事をしているだけだ。それよりもお前達がここに居るのは、あの三人を助けに来たんだろう? だったらこの通路の先にある、青いドアの応接室に居るからそこに行け」

「応接室?」

「ああ。見張りの騎士団員が二人居るからすぐに分かる筈だ。あんな奴でも三人を一応客人扱いはしているからな。それに今は帝都中や城の周りの警備で一杯一杯だから、あいつ等の警備もこれだけ薄いんだ」

「何故俺達にそんな事を教えるんだ? 罠に嵌めようって魂胆か?」


 セバクターがバスティアン側に居る以上は素直に信用出来ないレウスと、彼が誰なのかまだ把握出来ていないのでこの話もなかなか飲み込めないサイカ。

 だがそれはセバクターの方でも分かっているらしく、彼は一つ頷いて話を続ける。


「俺の事を確かに信用出来ない気持ちも分かるし、俺が教えた部屋にはバスティアンの手下が待ち伏せている可能性もあるって言いたいんだろう? だが、俺は傭兵としての職務を全うしているだけであって、お前達を殺せとまではあいつに言われていないんでな。それにあの皇帝の下で仕え続けるのは人間的に受け付けないし、そもそもこの国に留まり続ける理由も無いからな。だから俺はまた違う所に行く。機会があったらまた会えるかも知れないな」

「あ、お、おい待てっ……」


 一方的に喋り倒した後、セバクターは自分の側の窓をガラリと開けて中庭に向かって城から抜け出して行ってしまった。

 本当であればこのまま追うべきなのだろうが、今の会話からして彼の行動にまだ不可解な点が多い上に、アレットとエルザとソランジュを助け出すのが先なのだ。


「……どうする?」

「どうするって……あの人が言っていた話が本当だったら、この先の応接室にあの三人が捕らえられているって事なんでしょ? 罠かも知れないけど、あんなに細かく私達に教えてくれるのも敵の立場としては何だか不自然な気がするし、今の所その情報しか有力な手掛かりも無いんだし……行ってみる価値はあると思うけどね」


 確かにそうかも知れない。

 傭兵としての仕事を全うしているだけ、と自分で言っていたあのセバクターが何を考えて自分達にそんな情報をくれたのか分からないし、いざ行ってみたらやっぱり罠だったと言う結末だって十分にあり得る。

 しかし、この城の中をウロウロ闇雲に歩き回っても三人を見つけるのに時間が掛かるし、敵が巡回していたら見つかる可能性だって高い。

 二人は一旦セバクターのくれた情報を信じて、その青いドアの応接室に向かう事にした。

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