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102.解体に一役買いたい?

「逃げられちゃったみたいね……」

「後もう一歩だったのに……! くそ、やはりあいつの言う通り俺は詰めが甘いのかも知れないな」

「でも、もう何処に行ったかも分からないわ。魔術が使えない状態で私達は良くやったと思うわよ」

「……ん?」


 おいちょっと待て、それはどういう事だ?

 確か自分で「少しは魔術が使える」と言ってなかったっけ? とレウスが疑問に思ったのでそれを聞いてみると、サイカは溜め息を吐きながらこう答えた。


「馬車の中で、貴方に残飯を分けて貰ったわよね? 実はあれを食べてから、私も魔力が弱まっちゃった気がするの」

「えっ?」

「その馬車の中で、貴方は確かこうも話していたわよね。前に誘拐された時に魔力を抑制する薬を投与されたって。これは私の推測なんだけど、もしかしたら残飯の中にもその薬が混ぜ込まれていたのかも……」

「……そういや、そこで死んでいる騎士団員達にそんな事を言われたな」

「は?」


 どうしてもっと早めに言わなかったんだ、と表情でそう訴え掛けて来るサイカに対し、申し訳無いという気持ちしか無いレウス。


「馬車から降りた時にそれを言われたんだが、すまん……遺跡の話に夢中で言うのを忘れていた」

「何よそれー?」

「逆にサイカはその話、脱出する時に聞こえなかったのか?」

「私は気付かれない様に脱出するのに気を集中していたから、話なんて聞く余裕は無かったわよ。……もう良いわ。とりあえずこの先にあるって言う魔法陣に向かいましょう」


 とにかく二人とも魔術が使えないと言うのは分かったので、先程エジットの言っていたこの先の魔法陣へと向かう。

 既に事切れているサンドワームの巨体の横を抜けつつ、サイカに聞こえないボリュームの声でレウスはポツリと呟いた。


「生きるって……時に残酷だよな」


 本来なら自分達に討伐される予定だったのに、通路を進んでいる時に見えたあの爆発によってエジットに討伐される運命になってしまったサンドワーム。

 ほんのちょっとのタイミングのズレで生きるか死ぬかが決まってしまうなんて、残酷だよなあ……という感情を抱いてしまうレウス。


 そして、そのサンドワームの死骸の陰には小さな部屋があった。

 大人が三人入るのが精一杯な程の広さしか無い正方形の部屋の中に、確かにエジットが言っていた通りの魔法陣が正方形の石の台座の上に描かれている。


「ここは……?」

「俺も初めて見るよ、こんな場所。でもこれ……恐らく転送陣の一種だろうな。何処かに繋がっているかも知れない」

「でもさっきエジットが言っていた通り、この魔法陣は機能していないみたいね。随分前に放置された場所だからしょうがないのかも」

「何か、魔力を沢山含んでいるものがあればここに乗せて起動出来ると思うんだけど……」

「あ!」

「どうした?」


 いきなりサイカが声を上げたのでレウスが彼女の方を見てみると、彼女は何かを思い付いた顔をしている。


「そこにあるサンドワームの死骸を使って、体内の魔力で魔法陣を起動するってのはどう?」

「えっ、死骸に魔力って残ってたっけ?」

「死んでからそんなに時間が経っていなければまだまだ残っている筈よ。この世界に生息している生物は全て魔力を持っている……外のそれも例外じゃなかったわ。だけど死んでしまうと徐々に魔力が無くなって行くから、エジットに倒されたばかりの今がチャンスよ!」

「そ……そうなのか?」


 サイカの知識に戸惑いを見せるレウスに対し、彼が五百年前の英雄だと聞いているサイカも首を傾げる。


「そうよ。もしかして貴方、魔術には疎いの?」

「んー、疎いって言うか……魔術師みたいな理論武装は出来ないな。魔術は使えるんだけど、それがどういう原理で使えるのかってのは良く分からないんだよな」

「へぇー、勇者様でも分からない事ってあるのね」

「ああ、俺だって人間だからな。例えば俺に出産の事を聞かれても分からないぞ。……って、そんな話はどうでも良いんだよ。とにかくそれで魔力を入れられるってのなら、何とかしてこのでっかいのを魔法陣の起動に使うべきだが、何をどうすれば良いんだ?」

「簡単よ。この魔法陣の上までサンドワームの身体を持って来れば良いのよ」

「はい?」


 待て待て、この大きさを考えろ。

 縦はレウス三人分の高さ、横はレウス五人分の長さのサンドワームなんて、どう考えても自分達二人の力で動かす事なんて出来ない大きさである。

 しかし、サイカは更に恐ろしい事を言い出した。


「こんなの二人じゃ動かせないって言いたいんだと思うけど、何もこのまま丸ごと動かさなくても良いのよ。細かく切り分けて運べば大丈夫!!」

「正気か?」

「勿論!!」


 細かく切り分けるのは料理屋の料理メニューだけで十分だ……と言いたいレウスだが、今の所は確かにその方法しか無さそうだ。


「ならお互いのメインで使っている武器を余り汚す訳にもいかないだろうから、これで切れるだけ切ろう」

「分かったわ。さぁ、それじゃ始めるわよ!!」


 ここは腹をくくって、魔法陣を起動するべく腰のロングソードを一本サイカに渡して、二人でサンドワームの解体に取り掛かった。

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