99.ここに居る理由
その瞬間、レウスの中で線が繋がった。
「そうか、お前も結局バスティアン側の人間だったんだな?」
「陛下側も何も、元々俺はセレイザ団長と仲が良いんでね。その過程でバスティアン様にも色々と体術や武器術を教える様になったんだよ。だが今じゃ俺よりもあの方が実力で言えば上だ。センスあるよ、陛下は」
「そんな話はどうでも良いわ。貴方がバスティアン陛下の手先になって動いているのは分かったけど、何時どうやってここまで来たのよ?」
足跡をつけてまでこの遺跡の地下におびき出すとなれば、レウスとサイカよりも先にここに着いていなければ辻褄が合わない。
バスティアンは初めからこの展開を読んでこうしてエジットを待ち伏せていたのだとしたら、最初からレウスはバスティアンの手の中で踊らされていた事になる。
しかも、エジットはとんでもない方法でここまで来たらしい。
まさかと思うやり方だが、これも人員の差で大きく勝る帝国側だからこそ出来る移動手段だった。
「このバランカ遺跡の近くにある町までランダリルから転送して貰ったのさ。皇帝の関係者や国内でも有数の貴族しか使えない様な転送陣の台座が、帝都から繋がる国内の至る所にあるんだよ。それを使ってお前達を追い抜いて、さっさとここまでやって来たんだ」
「何よそれ……そんなのがあるの?」
「ああ。俺は騎士団長と仲が良いから使わせて貰えるしな」
という事は、騎士団員達に馬車で運ばれていた自分達よりもずっと前にここに辿り着く事も出来たみたいだが、さっきまでサンドワームと戦っていたとなるとどうやらかなり遅れて転送して貰ったらしい。
残飯を食べさせられていたレウスと、馬車のトランクルームでその残飯をこっそりと分けて貰っていたサイカは怒りと虚しさで身体が震える。
「で、結局俺はここで殺される事になるのか?」
「そうだ。バスティアン陛下からの、俺よりも先にサンドワームを討伐するというテストは不合格。しかも一人で行かせた筈なのに、何時の間にか女の仲間までこうして連れているってズルまでしてるとなれば尚更だ。これは証拠として二人ともこのバトルアックスで首を刎ねて、陛下の元に持ち帰らないとな」
「テスト……?」
「そんなテストがあるなんて、私もレウスも何も聞いていないんだけど?」
何だそのテストは。
サイカの言う通り、レウスはバスティアンから「サンドワームを倒して来い」との命令しか受けていないので、こんな討伐レーステストの話は今ここでエジットから聞いて初めて知った内容だ。
しかし、それを聞いてエジットは当たり前だと言わんばかりの顔と口調で言い放つ。
「当然さ。教えていないんだからな」
「テストがあるって教えなかったのは、最初から俺をここで始末する為だったのか?」
「ん……いいや、バスティアン陛下の気まぐれさ。教えようか教えまいか悩んでらしたので、俺とセレイザ団長が「教えなくても良いと思います」って言って二対一の多数決で決定したんだ」
「何よそれ……何が皇帝陛下よ!!」
秘密裏に進められていた討伐レースの話でレウスは敗北し、ここでエジットに殺される事となった。
一体あの皇帝は何を考えているのか?
だがそれよりもサイカは先にこれについて質問をしようと、ポケットの中から地上で拾ったカギを取り出した。
「じゃあ、私が上で拾ったこれ……貴方の足跡の側に落ちていたこのカギは何なの?」
「ああ、そのカギ? それはお前達にハンデをやったのさ」
「ハンデ?」
「そうだ。お前達はここに辿り着くのが俺よりも遅くなるから、城から持って来た古くて使い物にならないカギを落として、その周りの地面に足跡をつけておいて、道しるべを作ってやったんだよ。だから俺に感謝しろよな? もっとも、ここまでのハンデを与えてやっても俺の方がサンドワームを倒すのが早かったからどうしようもないけどさ!」
酷い話もあったものだ。
レースがある事なんて全く聞かされていなかった時点で、既に最初からレウスに勝たせる気なんてバスティアンにも騎士団長のセレイザにも、そしてこのエジットにも無かったという事になる。
「俺の能力が欲しいなんて最初から思ってなくて、単純に俺を殺す前提で話が進められていたって事なんだな……」
「んー、それは違う。ここに来る前に陛下に色々と話を聞いて来たんだけど、最初はお前の能力が本当に欲しかったらしい。だけど陛下の事をクズ呼ばわりしたり、胸倉を掴んで暴力を振るったらしいな?」
「発端はあいつだけどな」
「そんな事はどうだって良いんだよ。お前は陛下への不敬罪と暴行罪、それから公務執行妨害に国家反逆罪で死刑って決まったんだよ。このゲームはその前に必死になって任務を達成しようとする為に、陛下が考えられたものだ。楽しかったか?」
「楽しい訳があるか!!」
「だろうなぁ。俺がお前の立場だったら同じ事を言うと思うしな。それからさぁ、死んで貰う前に教えて欲しい事があるんだよ」
「何だ?」
「この部屋の奥にある魔法陣、どうやったら起動出来るんだ?」