冥(女)王の(義)息子の素質、そして(義)叔父、襲来。
ある程度、神の責務がひと段落したところ。
神界の街並みでも見に行こうと、連れ出され、いや、抱き上げられ城下町へ
相変わらず、下ろしてもらえないようだ。
「すごく賑わってますね。」
「でしょ。でも、これだけ戻すのに、すごい時間かかったんだから。」
「戦争・・・ですか。」
「その通り。」
神々の戦い、これは好き放題暴れていた、前代の神王、冥王、深海王を討伐するための戦い。
当時、女神だったメイディスたちは、自分たちを旗本に反旗を翻したのだ。
神界が乱れれば、人間界も乱れてしまう。
戦、災害、疫病、様々な形で現れる。
それを憂い、立ち上がった神々が彼女たち。
立ち上がった結果、これだけの平和を手にすることが出来たのだ。
街並みを歩きながら、メイディスはグラントに問いかけた。
さながら、先生が生徒に質問するように。
「グラント、あんたがもし支配者になったとして、どうなれば正しいと思う?」
子に聞くには早すぎる質問。
しかし、メイディスは聞いてみたかったのだ。
この世界の男神以外の男、おそらく唯一の良心に。
「・・・正直分かりません。ただ、自分について来てくれる仲間がいるのであれば、仲間の前に、前線に立ちたいと思います。母も戦いの際、後ろで待っていることはせず、最前線で戦ったと聞きました。私もそのようになりたい。」
「ふむ。」
メイディスは冷静に発言を吟味している風を装っているが、内心は真逆であった。
(なんでロキのやつ、こんないい子を私のところに連れてこなかったのよ!・・・にしても、この子は他とは違うと思っていたけど、ここまでとは。ペルセ姉が出てくるのが少し癪だけれど。)
そこはグラントを育てた者だから割り切るとして。
話せば話すほどグラントの素質が浮き上がってくる。
上に立つ器量、周りを気遣う優しさ、学ぼうとする姿勢。
しかして、ふとメイディスにある考えが浮かぶ。
グラント、私の伴侶になってくれないかしら?と
その根幹には、神の責務から逃げ出せると少なからず思っていたこともあった。
しかし、メイディスはグラントとの会話で他の男神と比べて、謙虚で思慮深いことが分かった。
それに目上の者に対する態度。従順な性格。
つまり何が言いたいかというと、
今からグラントを私好みの男に育ててしまえば、神の責務も楽しいものに変わる!
と短絡的に考えたのだ。
そこには、自分がグラントと結ばれること前提での話であって、ペルセをはじめ冥界の者たちが入っていなかった。
あまりにも浅はかな考えである。
男日照りの中、ぽっと沸いたひとつの希望。
その希望も将来有望と分かれば、早計に成らざるを得ないのかもしれない。
そうと決まれば即行動がメイディスの真骨頂。
思い立ったが吉日というが、猪突猛進にならないことを祈る。
「グラント、あんた神界の支配者に興味ある?」
猪突猛進どころか壁を突き破った感じがある。
「え・・・えぇ!?」
あまりの唐突な発言に驚きを隠せないグラント。
神界の街で話す内容ではない。
まして、自分は冥界側であって、しかも純粋な神ではない。
「急にどうしたんですか?」
「あんたと話をして、このまま帰すのが惜しくなったの。まぁ、条件があるのだけど。」
「じょ、条件ですか?」
「えぇ、その条件、それは・・・。」
メイディスが言いかけたその時、彼女たちに近寄る人影があった。
「あら、そこにいるのはメイディス姉さまではないですか?」
ふと現れた人物。
水色の神を後ろに束ね、それを左肩の前へ流している。
おっとりとした表情に泣き黒子が艶かしい。
「あんた・・・なんでこんなとこにいるのよ。エナリオス」
『彼』が主神3柱の最後の柱、深海の王エナリオスだった。
急に声をかけられ、メイディスはすぐさま反応できたが、グラントが追いついていなかった。
ペルセからもメイディスからも『弟』と聞いていたのに、いざ会ってみたら絶世の美女(?)だったのだから。
「メイ姉さま、この綺麗な女性がお身内の?」
「あぁ・・・そういえば説明してなかったっけ?」
メイディスがうんざりしながら一人ごちる。
「こいつが私の弟、深海の支配者エナリオスよ。」
「メイディス姉さま、私を呼ぶときは発言に気をつけてくださいませ。私は妹ですわ。」
彼女(?)は男神の中でまだマシの一人といえる。
男神にろくでもない者が多いといわれても仕方ないのかもしれない。
そんなろくでもない神がグラントに目をつけ、にっこりと笑った。
「それに比べ、この子は良く分かっておいでです。この子が、ペルセ姉さまの秘蔵の子グラント君ですね。はじめましてですわ。」
神々の情報網はとてつもなく早い。
気がつけば、ペルセに子供がいたと広まってしまっている。
「はじめまして、ペルセが一子グラントです。」
あまりの予想外な出来事でも、何とか挨拶を交わすグラント。
「私のことはエナとお呼びくださいね。」
「はい、エナ姉さま。」
「まぁ!まぁまぁ!なんてすばらしい子なのでしょう!」
そう言ってメイディスからグラントを取り上げるエナリオス。
優しく抱き上げられたグラントはまたもや混乱することになる。
なんで、この人男なのに柔らかくて、いいにおいするの!?と
やはり、弟ではないのでは?と疑ってしまった。
それを心の中で留めておけたのはある意味奇跡だっただろう。
実はこのとき、グラントの命運が分かたれたところでもあった。
もし、このときに『兄様』と言おうものなら嵐の海のように怒り狂っただろう。
まだ、メイディスは身内であるから留まったが、そうでなければ容赦はしないのだ。
そんなぎりぎりところを掻い潜るグラント。
そんな運のいいところも彼の素質のひとつなのかもしれない。
話が唐突に動きますが、そこもご愛嬌ということで。
最近、インフルエンザが流行っているようです。
皆様、どうか体を大切になさってください。