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冥(女)王の(義)息子、バレてしまう

「・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・。」


冥界、支配者の応接室より。

とてつもなく重い空気が漂っていた。


調度品が適度に置かれた落ち着いた部屋。

そこにおかれたソファに、重い空気を作っている原因の二人がいた。


片や冥界の支配者ペルセ、その向かいにはペルセと切っても切り離せない関係の女性。


「それで、事前の訪問の話もなしに冥界まで何をしにきたのです?メイディス?」


対面に座っている女性。

彼女こそ、神界の支配者にして、ペルセとともに神々の戦いを生き抜いた次女メイディスだった。

真っ赤な髪を両端で結っており、切れ長な目はとても気が強い印象を他者に与えてしまう。

ペルセと比べ、控えめな体をしているが、程よく引き締まった体に、出るところは出ているおかげで、貧相な感じは受けない。

スマートグラマーというべきか。


「単刀直入に聞くわ、私たちに何か隠してること無い?ペルセ姉。」


あまりのストレートな質問に、動揺を隠せない。

しかし、そこは冥王の威厳で持ち直す。


「何も隠していることなんてありませんよ。なぜそんなことを?」


「こっちでもっぱらの噂になっているわよ。冥界が戦いを仕掛けようとしてるって。

まぁ、ペルセ姉が、そんな頭のおかしい男神のようなことしないって分かってるけど・・・。

私たちが神々の世界を治めてから本当に永い時が立ったけど、訓練を頑張るなんて事一度もなかったじゃない。」


「・・・・・・」


ペルセはポーカーフェイスを貫いていたが、内心穏やかではなかった。

確かに、戦争が始まる気配は無い。緊急の事態でもない。

そんな中で訓練をしていれば、そう考えられても仕方ないのだ。


緘口令は完璧。秘密を漏らしてしまう配下もいない。

外部の誰かが漏らしたとしか考えられなかった。

心当たりはあったが、今はそんな場合ではない。


(このままではグラントが・・・)


神の血族でもなく近しい者でもないグラントに対して、神々は何かしらの行動に出てくるだろう。

ちょっかいを出してくるだけならまだいい。

しかし、排除しようとした場合、どうなるか分からない。


いや、結果は予想できる。

グラントを慕うものたちが、必死になって守るだろう。

たちの悪いことに、アイデスをはじめ、冥界軍はみな武闘派揃い。

相手が手を出してきたら、武具を出しかねない。


(まぁ、私も強くいえないのですが。)


戦争時、最前線で戦い、敵を屠ってきた神。

生と死の象徴といわれ、恐れられた一柱。

グラントは、ペルセを母性あふれる優しき母としてみているが、その内は己の力で脅威を排除する最強の神でもある。


メイディスが話してから沈黙が続く応接室。

今回ばかりはあまりにも分が悪かった。

唐突にメイディスがやってきて、バレないと油断していたこともある。


「ハァ・・・まぁ、神界にも深海にも攻め入る気はないのね?」


このままだと平行線だと思ったのか、メイディスが問いかけた。

ペルセは意地でも言わないであろうし、力ずくでは勝てる気がしない。

メイディスも最強の一柱ではあるのだが、ペルセが強すぎた。


どういう理由であれ、攻め入る気が無いという言質がほしかったのだ。


「えぇ、冥王の名に誓って、そんな気は無いわ。」


神の名を出すこと、それは自分の存在を差し出すと同義でもある。

もし違えた場合、己を消滅させる覚悟があるということ。

それを聞いたメイディスは安堵して肩の力を抜いた。


「そう、それを聞けてよかった。よしとするわ。ただ、ペルセ姉も少し抜けてるところもあるのね。」


自分の求めた言を聞いてソファを立ち上がり、苦笑いをするメイディス。

何のことかと小首をかしげるペルセだが、後の発言を聞いて自分も配慮が足りなかったと猛省する。


「急に神界のヤギのミルクがほしいと言い出したり、本がほしいといったり・・・相当焦っていたことは想像できたけれど、急にそんなことを言われれば、絶対に何かあると思われても仕方ないわよ?」


そう言って応接室を後にするメイディス。

あとには頭を抱えるペルセの姿があった。



冥王の城、廊下より


「にしても、この城、相変わらず広いわね。迷ってしまいそうになるわ。」


ペルセとの話し合いが終わり帰路に着く。

しかし、玄関までの距離に辟易している。


冥王の城は、そもそもが防衛線の役目も担っているため、自然と巨大化したのだ。

冥界の支配者の住居と仕事場が違うことも、それが関係しているのだが、それはまた違うときに。


「本当に迷ってしまったじゃない。もっと分かりやすくしなさいよねぇ。まぁ、仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれないけれど・・・あれ?」


歩き回って、ようやく中庭の庭園へ。

そこまでくれば、出口まですぐだと分かり、安心して歩を早める。

しかし、ふと見た中庭に、もぞもぞと動く人影にメイディスは気づいた。

神々の世界でも珍しい黒髪の男の子が中庭の木の下で本を読んでいる。


「・・・・・へぇ。」


ペルセが必死になって隠している物、いや者に気づいたメイディスは自然と中庭に足が向いていた。


急にやってきたメイディスからグラントを隠すため、新しい教材(神力について)を与えて、今日は勉強しても良いと許可を与えて、部屋に入れていたのだが、今日もいい天気ですし、外で本でも読みましょう、と中庭に出てしまったのが運の尽き。


みな焦っていたのか、その理由をしっかりと話さなかったことも原因のひとつだろう。


「あんた、こんなところで何してるの?」


本に集中しているグラントのすぐ近くで声をかける。

声をかけられるまで気づかなかったグラントは本を閉じて急いで立ち上がる。


「はい、本を読んでおりました!」


「それは見たら分かるわよ。その本は・・・神力?」


少し前、ペルセからねだられた神力の本。

そのひとつがここにあった。

そこで改めて確信した。この子がペルセの・・・。


「今日もいい天気でしたので、ここで本を読んでおりました。・・・お客様ですか?」


「うん、まぁ、そんなものね。」


「そうですか。あぁ、申し送れました!私、冥界の支配者ペルセが一子、グラントと申します。」


と頭を下げる。礼儀正しいその姿に面を喰らいつつも、ペルセの秘密、その真実を目の当たりにして、驚きを隠せないでいた。


(えぇ!?まさか、ペルセ姉、本当に子供がいたの?それを知られたくないがために隠していた?・・・いや、それはないわ。男神は碌なやつがいない。そんなやつらが相手なんて、むしろペルセ姉が消滅させていてもおかしくないし。)


つり上がった目をなおさらつり上げてグラントを見る。

メイディス自身は表情の変化を見られたくないがために意識していただけなのだが、本当のことを話していないことに怒っていると勘違いしたグラントは自分の知っている真実を話し始めた。


「それともうひとつ申し忘れていたことが。実は、私は本当の子ではないのです。」


「!?」


ペルセに相手がいないということが分かっている。

そして、グラントがこの世界にいるということ。

その一言で原因が一気に絞れてしまったのだ。


偶然の話、魂が質量を持ち、この世界に来ればもしかしたら可能性はあるだろう。

しかし、神々の世界で親も無く、まして魂だけこの世界に来ることがありえることなのだろうか?


(ありえないわね。てことは、考えられることはただひとつ。まぁ、それはあとで確認するとして・・・それにしても、なんて礼儀正しい子かしら。他の男神も見習ってほしいくらいね。)


いろいろと考えが浮かんでは消える中で一番興味が出てきたのは目の前にいる男の子だった。

ただ、まだ油断は出来ない。

野心のあるものであれば、自分の本心をすぐ吐露するはず。

現に、男神の欲望の忠実さもある。


「へぇ、そうなの?それじゃぁ、聞くけど。あんた、もし冥界の支配者様に相手がいて、子供が出来たとしましょう。あんた、冥界の後継者になれないどころか、追い出されることもあるのよ?そこのところ・・・どうなの?」


中々に意地悪な質問だった。

グラントは、前世の記憶を断片的に覚えている。

もちろん、自分がペルセの本当の子ではないことも理解している。

しかし、そんな得体の知れない自分をここまで育ててくれた母ペルセ、そしてアイデスに対して恩を感じていた。


「私は、それを受け入れます。自分が消えてしまうというのは怖いですが、それでも、私をここまで育ててくれた母ペルセ、そして側仕えのアイデス、冥界の皆さんには感謝しかありません。

それが冥界の総意なれば私は、なんら異論はございません。」


もし追い出されることがあったとしても、グラントは潔く冥界を去る覚悟はあったのだ。

この世界のことは、ペルセの秘密のこともあり、冥界以外知る由も無かったが、仕方が無いと割り切っていた。


まぁ、ペルセはそんな相手を探すつもりも無ければ、言い寄ってきた男神を残らず灰塵に帰すつもりでいたし、本人も『私はグラント一筋です!』と公言しているところを見ると、ペルセ独り身街道をまっしぐらである。


(この子・・・なんていい子なの!?まだ、月日はそれほど経ってないにしても、ここまでの覚悟は中々出来ないものよ。神だってそうだもの。それをこの子は・・・。)


ふとした拍子に感じた胸の奥をくすぶる感情。

母性か恋慕か、得体の知れない気持ちに胸をごちゃ混ぜにされて、しかし、それも心地よくある。

まさかのチョロイ組の一員が参入である。


そう心が満たされてメイディスがそっとグラントを抱きしめると、ゆっくりと抱き上げた。


「あ・・・あの?」


「あんたグラントと言ったわね。見たところ、ここから出たことなさそうね?よければ、私の家に案内するわよ?まぁ、あんたがどう言おうと連れて行くのだけど。」


とグラントの返事を待たずに門をくぐって帰ろうとするメイディス。


幸か不幸か、グラントの存在が漏れた原因と事実の確認により、屋敷、ひいては軍も動員され、いつもいる門番がいなかったため、メイディスを止められるものが誰もいなかった。

どんどん文字数が多くなっていきますね。

まぁ、それも説明も入れてしまえば仕方ないのでしょうか?

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