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冥(女)王の(義)息子、誕生

冥界の支配者になってからどのくらいの月日がたったのでしょうか。


神々の戦いを生き残り、3姉妹弟の神が、神界、冥界、そして深海を治める王に。

人間界への影響もなくなって、私たちはそれぞれに与えられた神としての責務に勤しんできました。


神界、深海の仕事はどのようなものか分かりませんが、冥界の仕事は、死者の魂の選別、ただそれだけ。


亡くなった人間の魂は冥界に送られ、生まれ変わるか罰を受けるかの裁判にかけられる。

単純な仕事ではありますが、死者の魂が冥界にあふれかえると人間界に漏れてしまう。

大切な仕事だということは分かってはいるのですが・・・。


「本日のお勤めは以上でございます。お疲れ様でございました。」


「ありがとう。アイデス」


護衛騎士であるアイデスからの呼びかけで、執務室から離れる。

私が冥界の女王になってから何一つ変わらない日常。


「ペルセ様、お加減がよろしくないのですか?

お顔が優れないようですが・・・」


この騎士はよく見ている。

顔に出さないようにしていたのに、バレてしまったようです。


「いえ、大丈夫ですよ、アイデス。

ただ、この現状のことを考えて気が滅入ってしまって」


「・・・・・・・」


普段、感情を表に出さないようにしているアイデスが目を見開いている。

そのことに少し、してやったり、と思いつつ、自分に対して、らしくない、とも思う。


神々の戦いから今まで、弱音を吐いたことが一切なかった私が、本音を吐露したのです。

そんな表情になるのも無理はないのかもしれない。


それからこれといった会話もなく、私の住処へ。

いつもなら門をくぐり、そのまま大広間へ向かうのですが、今日は中庭に足が向きました。


「ペルセ様、いかがなさいましたか?すぐに食事の準備が整いますが?」


先ほどの事があってか、少し心配顔のアイデス。

彼女がこれほど表情を表すのはめったにありません。

やはり心配をかけすぎましたか。


「いえ、今日は中庭の庭園を見て行きたいと思いまして。付き合ってくれますか?」


心配無用という意味も込めてやわらかく微笑みながら、彼女に振り返る。


「それでしたら、お供いたします。」


私の気持ちが分かってか、いつもの表情に戻るアイデス。

私は満足して歩き出したのでした。


それから時間をかけてぐるっと中庭を回る。

色とりどりの花を眺めると、荒んだ気持ちが少し良くなってくるよう。


しかし、考えてしまいます。

このような日常がいつまで続くのか。

もしかしたら、冥界の・・・いえ、神界、深海の前王たちは、そんな日常に嫌気がさし、戦争に身を投じたのでしょうか。


考えれば考えるほど、悪い考えが浮かんでくる。

その雰囲気も感じてか、アイデスも先ほど心配顔に戻ってしまっている。


このままではいけない。

そう思った私は、すぐさま気持ちを切り替え、食事に戻ろうとした。

そのときでした。


「あれは・・・光?」


頭上高くから光の玉が落ちてきました。

冥界でよくあることなのですが、魂が時々道を外れて、このような場所に来ることがあります。

その類かと思われたのですが、あまりにも光が強く、それに悪い気配もない。


「ペルセ様、お下がりください。」


アイデスが前へ出て不測の事態に備えている。

魂でも、邪悪なモノであれば、牙をむいて来る。


得体の知れないもの。

それでも私は自然と、その光を受け止めようと前へ。


「ペルセ様!」


「大丈夫ですよ。」


何の根拠もないままに、腕を胸の前に構え、光を受け止める。

私の腕の中に納まった光が徐々に弱くなり、光の跡には、小さな赤子が。


「・・・・これは」


冥界の支配者になってから初めての出来事。

魂のような形のないものが彷徨ってくることは多々ありましたが、このような出来事は初めてです。


「赤子・・・ですか」


すぐに近寄ってきたアイデスが私の言葉に続く。

腕の中の赤子は安らかに寝息を立てており、起きる気配がない。


つややかな黒髪、傷ひとつない陶器のよう肌、衣服はまとっておらず男の子のようです。

私は、本当に形があるものかどうか確かめるべく、赤子の頬を指でつつく。


「うぅ・・・。」


少し煩わしかったのか、小さな手で指を払い、キュッと私の指を握った。

間違いなく形あるもの、力強く私の指をつかみ、またスヤスヤと寝息を立てる。


その時私の中で、大きな衝撃を感じました。

この子に対する熱い気持ち。

守らなければと、この子をどんな事があっても育てなければという使命感。

これを母性と分かるのに時間はかかりませんでした。


「アイデス、この子を育てます。」


「!?ペルセ様。そのようなことをしてしまえば他の神々がなんと申すか!」


得体の知れないものを神の世界に入れる。

それは冥界の女王といえど、許されることではないでしょう。


「分かっています。でも・・・」


もう一度、赤子を眺める。


「この子が、この場に降りてきた。それも私たちの近くに。

それを運命に感じてなりません。」


何も変わらない日常。

そこに現れた変化。

私は、これが偶然ではないような気がしてなりませんでした。


「・・・・・分かりました。我が軍、それに城勤めの者には緘口令を敷きましょう。」


苦笑いして言う私の護衛騎士。

私の初めての我侭に、戸惑ったことでしょうに、追従してくれる。

今日はアイデスのいろんな表情を見る事ができましたが、何よりも『愛しの我が子』と暮らす事ができることに小躍りしそうになりました。


「この子は私が守ります。何に変えても・・・どんな事があっても!」


私は、この子を大切に抱きしめ、住処に・・・城に戻ります。

やることはたくさんあります。

しかし、はじめにやることは決まっています。


「この子の名前を決めなければ!」


そういって城に入ってくる私の足取りが、とても軽かった。


始めまして心結です。

ダラダラとならないよう、書いていこうと思います。


気長に待っていただければ幸いです。

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