第一話
畑に鍬を振り下ろし、土を耕す
ただひたすらにそれを繰り返す
それが必要な事だから
彼は、ただひたすらに土を耕す
「おじさん何やってんの?」
「あん?」
畑を耕していたアベルが声の方を振り向くと、10歳前後の男の子が立っていた
「何って、畑耕してんだよ」
アベル達がユートピアにやってきて1週間程経っていた
やってきたばかりで色々忙しく、今やっと畑仕事に手をつけたのである
「おじさん新人さんだから知らないんでしょ!畑を耕すのは僕の仕事なんだよ!」
「そうなのか?っていうかそのおじさんって言うの止めろ、俺はまだ22だ」
「へー、そんな事よりほら、おじさん退いててよ」
アベルは少年の言葉に従い少し離れる
少年が土に触れると、みるみるうちに畑が耕されてゆく
「ほー、すげえなお前」
「おじさん、お前じゃなくて、僕の名前はユウだよ!」
「そうか、それならユウ、俺の名前はおじさんじゃない、アベルだ」
「そーなんだー…あ、そろそろ帰らなきゃ!じゃあね!おじさん」
「だからおじさんじゃねえって!」
アベルが叫ぶがユウは既に走り去っていた
「アベル、調子はどうだ?」
「ん?ああシグか、お陰様で何不自由ないぜ!」
「そうか、それなら良かった」
「今日はどうしたんだよ、シグがこっち来るなんて珍しいじゃねえか」
「まぁな、いつもの仕事で暫く戻って来れなさそうだからな、少し顔出しに来た」
「なるほどな、無理はするんじゃねえぞ」
「分かってる」
それだけ言うとシグは村を立ち去った
「それじゃぁシグ君、改めて今回の仕事の説明をするよ♪」
「ああ、頼む」
「今回の仕事はアライザ村っていう村の監視だね♪この村は〝能力者〟や{ヒトデナシ}を迫害すること無く、むしろ進んで保護しているんだ♪現状が維持し続けられるならそのまま放置、万が一の場合は保護をおねがいするね♪」
「了解した、行ってくる」
シグは目の前に現れた空間の歪みに潜り込んだ
「それじゃ、がんばってねー♪」
周囲の村や街から孤立し、自給自足の生活をするアライザ村
住民が皆共に手を取り合い、互いに協力して生活している
明け方、食堂という看板が付いた、村の中でも一回り大きい建物にかごに入った食材を持ち込む綺麗な銀髪の少女の姿あった
「よし!いそいでみんなの朝ごはんの準備しなきゃ!」
食材の下ごしらえをしていると、厨房に一人の黄緑の髪をした、少女より少し年上の少年が入ってくる
「ういっすリア!なんか手伝う事あるか?」
「あ、それじゃあそこの野菜切って貰えますか?」
「任せとけ!」
少年はリアの指示に従って籠の中の野菜を切ってゆく
「流石に早いですね!ジャックさん」
「おうよ!これでも刃物の扱いは得意なんだぜ!」
少年…ジャックはみるみるうちに野菜を切り終える
「終わったぜ!」
「あ、それじゃあ後は私がやるので火だけお願いします」
「ういっす!」
ジャックは薪に火を灯し、厨房を後にする
「さてと…あれ?」
リアはジャックが切った野菜を見て、ジャックが出て行った扉の方を向いて叫んだ
「ジャックさん!なんで全部みじん切りにしちゃったんですか!」