第五十六話
期せずしてクラスメイトと再会した俺だが、そのまま合流という訳にはいかない。メシューレ教会には世話になっているので少なくとも人々が神殿に避難する原因になった穢れの始末を手伝うつもりだ。
武国は過激な性格の国ではあるようだが民視点から言うと上級階級が脳筋寄りなだけらしく、一ノ瀬や葛西以外のクラスメイト達も特に不自由していないようなので急ぐ理由もない。
「切れたナイフに殺し愛カップル、中二病患者とやっぱりトモパイセンのクラスは粒揃いですね」
武国の連中が帰ってからボチボチと穢れを駆除し終わった帰り道、馬の上で蓮が一ノ瀬や葛西など俺のクラスメイトへの感想を言った。
「いや、あいつらはクラスの中でも穿ってるだけだから。紅緒もただ中二病が治ってないだけだから」
「いきなりクラスメイトを斬りつけたり、殺し愛とかしてるカップルは穿ってるどころじないですよ。でもいいんですか? 一緒に行かなくて」
「別に必ず一緒に行動しなくちゃいけないって訳じゃないだろ。無事は確認できたしな」
俺みたいに初手で高所から落とされて犠牲者が出たとかではなく、無事であるならそれで良いのだ。
「でも、あの男が武国に現れたというのは気になるわね。サゴスに現れる前の話だったようだけど」
「気になるのは分かるが、調べる気にもなれないんだよな」
まともな方のベニオの気掛かりに賛同しつつ、俺は武国のカイとヴィーネ達が去って行った後に神殿の兵から聞いた話を思い出す。
正式名称は武国ヴォーダン。何でも山向こうは昔から群雄割拠で国が生まれては滅び栄えても分裂して独立して最終的に第三国に横取りされるなど争いの絶えない地方らしく、戦国時代みたいになっているようだ。その中でもキチ――ヤバイの扱いされているのが武国らしい。
会話は通じるし、メシューレ教会のように交易だってできる。ただ舐めた態度取った商人の首をその場で刎ねたり、ダンジョンが発生すれば成人の儀式として子供に攻略させ、兵士の数が少ないなら一人で五人を殺せば云う理念で体を鍛えあげるらしい。
その上実際に強いのであまり深入りしたくないのが周辺国の心中だった。
そんな国にテロを仕掛けるとか、本当にあいつらは何なのだろうか?
「でも見かけたら即ブン殴ろう」
「パイセン怖がってもう出てこないんじゃないですか?」
それはそれで俺のいない所では何か悪巧みを行なっているという事だが、その時はその時だ。そもそも自前で戦力を持っている場所に出しゃばるのも何か違う。
「だけどアイツはベニオの記憶の手掛かりだからな。見つけたって情報があるならこっちから行くのも有りだな。どうする?」
ベニオにそれでいいかと確認で視線を向けると、少し戸惑ったように僅かな時間沈黙した。
「…………」
「……ベニオ?」
「ごめんなさい。今までトモヒコが主体だったから、私の記憶探しを主にするような言葉に少し戸惑ったわ」
「こっちは斜め上だったがクラスメイトの居場所は分かったからな。今度はお前の記憶を取り戻す方に集中できる」
「いいのかしら?」
「いいも何も、言った通りなんだけどな」
何でこいつはこんな戸惑っているんだ?
「はいはいっ、私は? 私はっ? 私には何かないんですか!?」
「はぁ? お前はただ俺達について来てるだけだろ」
蓮が物理的にも割り込んで来たので遠ざける。ワザとらしく頰を膨らませてアピールしてくるのを無視すると、砦方面の道から兵士が馬に乗ってこっちに走ってくるのが見えた。
「伝令の者ですね。何かあったのでしょうか」
どうしたのかと馬の速度を緩め、神殿の騎士が前に出て伝来が来るのを待つ。
「何ででしょう。嫌な予感がします」
「そういうの求めて無いんだけどな」
合流した伝令の兵から話を聞いた騎士が慌てた感じでこっちに振り向く。ああ……蓮ではないが何となく転移者関連の問題だなと思った。
「ゆっくりできないわね」
微苦笑なのか小さく息を吐くベニオだが、少し嬉しそうに見えた。
砦に戻って一旦馬車に乗り換えた俺達は急いで出発した。
伝令が持って来たのはメシューレ教会下の転移者がダンジョンで行方不明になったという情報だった。同時に大量の穢れが湧き出て手に負えないらしい。
俺達三人が貿易の為の道を確保する為に少数精鋭で穢れの駆除をしていた一方で、丹羽や須藤達はメシューレ神殿の領内にある古代遺跡の調査に向かっていた。
大昔に滅んだ国の都だった遺跡は広く隠された地下空間もあり、一部が度々ダンジョン化する事もあって恐らく穢れも発生しているので人数の多い彼らが調査している筈だった。
詳しい経緯は分からないが、そこで何かあったらしい。
「きっとダンジョンのトラップに引っかかって置いてきぼりを受けた生徒がいるんですよ」
爆走する馬車の中、蓮がニヤついていた。
「不謹慎だぞお前」
「こうやってフラグを立ててるんですよ。私のお陰で遭難した人はパワーアップして戻って来るんです。バトル漫画で敗北を経験した主人公がパワーアップするのと展開は似てますね」
そういうのに詳しいクラスメイトから借りた漫画では蓮が言うような展開、所謂テンプレはいくつか見た覚えがあるので何を言いたいのかは分かる。
「だけど死んでたらどうすんだよ。気まずくなるどころじゃないだろ」
「いや、知らない人達ですしどうでもいいです。中には嫌いな人もいますからどう転んでも、別に?」
「お前本当にそういうところだぞ」
「それに最近の流行りとしてはクラスメイトに復讐するパターンですからどのみちあの人達は大変ですよ」
「笑顔で言うな、笑顔で」
よくよく考えてみれば、いや考えなくても蓮の思考は割と冷徹だ。
「何にしても到着してからだな」
「ちゃんと事情を話してくれるかしら?」
ベニオが懸念を口にする。まさか責任の押し付け合いが発生しているとは考えたくもないが、我の強い連中が集まっているし、何よりも相川が場を掻き乱した可能性もある。あるどころかずっと高い。
「いざとなったらサゴスの時のように、ドカンとやりましょうよ」
「馬鹿か。する訳ないだろ」
古代遺跡に到着すると、転移者達の人集りができていた。騒ぎの中心には三木が成人男性に詰め寄っていた。転移者らしい雰囲気に大人なので彼が三木達の教師なんだろう。
一方で丹羽は人集りから離れた場所で騒ぎに興味なさそうに座っていた。相川は三木と男の方を見ているが俺の方をチラリと見ると意味ありげに笑みを浮かべた。
「ひぃ、こっち見てますよ」
「どうして思わせぶりな態度しか取れないのかしら?」
「無視しろ無視。それより……ちょっとあんた、何があったんだ?」
「トモヒコ殿、こちらに来られたのですか。実はですね――」
相川を無視して、遠巻きにしている神殿騎士の人間を捕まえて何があったのか聞く。いつの間にか俺の名前が広まっているらしく、騎士はスラスラと喋り始めた。
転移者一行は古代遺跡の地下に進んで発生した穢れやモンスターを退治していた。広いと言っても既に地図など完成している場所で、いくつかのグループに別れて穢れを除去する作業は順調に進んでいたらしいのだが、とあるグループが地図にない未発見の隠された通路を発見。随伴していた騎士が止めるのも構わず、奥に行ってしまった。
そこで騎士達は一人を報告に来た道を戻らせ、見張りとして残る者、仕方なく奥に進む転移者について行った者との三グループに別れた。
それで結局何が起きたのかと言うと、一人の生徒を残して探索に出たグループが逃げ帰ってきた。何でも穢れ由来ではないが強力なモンスターに壁や床に擬態した化け物がいたんだとか。
「あーあ、これは復讐者誕生ルートですね」
「ウンザリする」
蓮の巫山戯た発想を馬鹿にできなくなった。しかもいなくなったのが須藤だ。どう見ても根に持つタイプなので無きにしも非ず。
「それじゃあ、アレは何の騒ぎ?」
三木が教師に詰め寄っているのを指す。
「彼は生徒達について行かず、隠し通路の手前で待機していたんです。随伴していた騎士によれば何もしなかったそうです。説得など本当に何もしなかったんです」
「あー……なるほど?」
なるほどと言いつつ首を傾げ、改めて三木と教師の言い争いに耳を傾ける。三木は声を荒げているのに対して教師は冷静だ。
「危険だと分かってたならどうして言ってくれなかったんですか!?」
「この世界に来て最初に、『ここは私達の知っている世界ではない。都合の良い考えは捨ててよく考えろと』と私は最初に言った」
「以前の話じゃなくて、今の話です!」
「どうやって止めろと言うんだ? 言ったところで調子に乗って雨き足だった彼らが言う事を聞いたとでも? 結果は同じだ」
「そ、それは…………」
「私が教師だからと君は責任を押し付けているが、ここは異世界な上に私の言を無視し力を振りかざして遠ざけたのは君達の方だ。それをいざ手に負えない、問題が発生した途端に私の責任とするのはそれこそ無責任だ」
「いや言えよ」
横から聞いてて何言ってんだコイツと思い、弁舌かましてた男性教師をブン殴る。人垣を飛び越えて荷車の上に教師は不時着した。
「ふ、ふがっ……ふぁにお……」
「言っても無駄だから言わないじゃねえんだよ。無駄だと思っても言えよ。悟ったような口利きやがって、ただのボケじゃねえか」
散々忠告してた俺が馬鹿みたいだろ。
「アホらしい。とっとと助けに行くぞ! 捜索隊とかどうなってる?」
怒鳴りながら唖然とする転移者達の脇を通って歩く。騎士の一人が傍まで来て進歩状況を伝えて来る。
「転移者を追って来たモンスターが強力で足止めされています」
「俺が突入して蹴散らすんで、その後そのまま守りを固めてください。ベニオ、コンパス!」
「私も行くわ。古代遺跡の隠された道は気になるから」
「はいはーい、私も行きまーす」
魔法のコンパスを俺に渡しながらベニオが横に並び蓮も付いてくる。
「お前らそんなに相川とは居たくないか」
「さっきからずっとこっち見てるのよ」
その気持ちは分かる。
「ちょ、ちょっと待って! 私も連れて行って!」
三木が前に飛び出してきた。
「怪我をしてたら私が治せるわ。それに遠見のスキルがあるから壁の向こうや細い道の向こうも見れる」
治療ならベニオがいるし、壁があるなら壊せばいい。だけど須藤を首尾良く見つけた場合三木がいた方があいつも警戒しないだろう。
「ああ、いいぞ」
「ありがとう」
「それでは私もぜひ犀川さまに協力させて――」
「お前は帰れ」
人間関係毒ガスはお断りだ。




