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第五話


 鬼達が縄張りにしていたダンジョンのボスっぽいのを倒した俺達は手に入れた物(内一人意識不明)を持ってダンジョンを脱出した。

 モコモコ達がマッピングしていても何日もかけて進んで来た洞窟をすぐに脱出できる訳がないのだが、どういう原理か崩壊を始めた洞窟は明らかに縮んでいた。

 脇道が口を閉じるように潰され、出口に通じる道が物理的に短縮されていく。崩れる洞窟から脱出と言うか、追い立てられているに近い。

 特に驚いたのが、洞窟への出入り口から外に出た瞬間に洞窟が揺れていきなりポシャった時だ。モコモコ達によれば、ボスの体から出てきた青い玉が外に出たかららしい。この青い玉がダンジョンの心臓のようだった。

 ともあれ鬼の脅威からこれで解放される訳で、俺達はとっととモコモコ達の巣に戻った。何か意識不明の奴もいるしな。


「キュー!」

「キュー!」

「キュアアアアッ!」


 戻ってみると大騒ぎになった。モコモコ達がキューキュー騒ぎ、帰ってきた俺達を取り囲む。毛皮のせいで足が暑い。

 槍モコや杖モコは胸を張り誇らしげだ。周りに集まったモコモコの声が高いのでメスだろうか。特に大人気なのは銀モコだ。


「ギョエー」

「キュー!」


 一声鳴けば大盛り上がりだ。有名人とそれに集まるファンみたいだ。

 

「あっ、長」

「キュ、キー」


 モコ長が現れて鳴くと、場が静まりかえる。そして何やら喋ると全員が一斉に動き出した。どうやら宴を開くらしく全員がその為に駆け出したようだ。


「キュク、キュキュッ」

「いや、気にしなくて良いって」


 モコ長が俺の所に来て頭を下げる。お礼を言っているらしい。頭を上げたモコ長は俺が背負っている少女に目を向ける。

 ダンジョンで発見した少女だが未だに目を覚ましていない。杖モコが魔法で様子を見たが、肩をすくめられた。


「ダンジョンで拾った。悪いけど寝かせられる場所ないか?」


 モコ長に案内され、俺は部屋の一つに少女を寝かせる。床は地面の上に俺が寝ていた時のように柔らかい葉っぱが敷き詰められていた。この葉っぱは素肌でもチクチクしないので大丈夫だろう。


「じゃあ、後は頼む」

「キュ? キュールク、キュキュキ」

「いや、違うから。赤の他人だから」


 少女の面倒を任されたらしいモコモコのメスから下ネタ好きの近所のおばちゃんと同じ空気を感じた。


「キュキュキュッ」

「そんな背中叩かれてもな。じゃあ、後はよろしく」


 変な誤解をされている気がしなくもない。まあ、少女が裸ローブなんてマニアックな格好のせいだろう。戦利品の中に他に服になりそうな物が無かったので、暫くはあの格好で過ごして貰わないといけないが、寝たきりだから別にいいか。

 少女を預けた俺はダンジョンに共に挑んだモコモコ達の場所に行く。食事や例の演劇の準備が広間で行われており、その近くの家の中でモコモコ達が武装を外し、ダンジョンで発見した戦利品を出して他の杖モコ達と何か話している。その中にはモコ長の姿もあった。


「キュール? キュエ」

「ギョエ、エー」


 特に熱心に見ているのが例の青い玉だ。どうやらそれが何なのか彼らは分かっているが、使い方が分からないようで撫でたり杖で突いたりしている。

 内一人が杖を構えてミョンミョンと何か魔力っぽい波動を出し始める。すると青い玉が光った。

 青い玉から光が渦巻き何かしらの形を作り始める。瞬く間に光は形を成すとそれは一つの生物となった。その生物は例の敵対していた鬼だった。


「グルゥオ――」

「見飽きたっつーの」


 ダンジョン内で嫌って程見てすっかり飽きた強面に一発打ちかまして早々に倒す。


「何やってんだよ」

「キュー……」


 鬼の死体を片付けて改めて青い玉を見下ろす。モコモコ達によればこれがダンジョンの核で鬼達が出現した原因だ。実際、鬼が現れるのを見た以上そうなんだろう。問題はコレをどうするか。

 さっさと壊してしまえとも思うが核には他に使い道があるようでモコモコ達はこれを使いたいようだが、方法までは分からないらしい。魔法に反応してるから俺に出来ることはない。せいぜいが失敗して現れた鬼を出オチさせるか現れるトラップの処理程度だ。

 宴会もあって、核について今日の所はお流れとなる。モコ長が魔法で核を植物の蔓と硬い枝で覆って片付けてから俺達は広場に行って宴会に参加するのだった。

 広場は兎にも角にも大騒ぎだった。ステージの上ではモコモコ達が代わる代わる一発芸をしてみせ、時には演劇をしてみせ、中にはサーカスみたいな曲芸も行われた。酒はないが、皆が酔ったみたいな騒ぎだ。

 何言ってるか分からないがコミカルな動きをするステージに上がったモコモコ達に思わず笑みを浮かべ、枝を細く削った爪楊枝で焼かれたキノコを食っていると、モコ長が俺を呼んだ。

 魚の干物を引っ掴んで噛み噛みしながらモコモコな背中の後を追う。何の用かと思ったが、行き先が例のマッパがいる場所だ。目が覚めたのかもしれない。


「キュウ」


 案の定、到着したのは少女を寝かせた場所だ。モコ長が一声掛けてから中に入れば、看病していたモコモコと意識を覚ました少女がそこにいた。

 少女は俺に気付くとローブの胸元と裾を気にする。元からローブの前は留めてあるし裾もスカート言い張れるだけ長いのでその必要はないのだが、そういうものだろう。


「目が覚めたか。怪我とかは?」


 少女の動きを無視して聞く。


「∴∧=∀?」

「……おぉう」


 やっべ、言葉分かんねえ。人間の声だけど発音が分からん。


「分かる?」

「キュゥ」

「分かんねえか。そっかー」

「キュイ、キューイ」

「やってみるけどよ」


 言葉の通じない少女に一歩近づいて自分を指差す。


「俺、犀川。犀川智彦。でこっちがモコ長。モコモコ達の長だからモコ長な。で――」


 自分からモコ長へと指を向け、最後に少女の様子を見ていたモコモコで指の先が止まる。


「オバンだ」

「キュ」


 小さい足で脚の裏を蹴られた。


「で、あんたの名前は?」


 最後に少女に指を向ける。


「…………%√」


 少女は困った顔して首を横に振った。


「どうすんべ。言葉分からないとコミュニケーションも上手くいかないぞ」

「キューク、キ、キュル」

「いや、同じ人間でも国で言葉違うから」

「キュキュ」

「俺に言われてもな」


 さっきから俺とモコ長が話しているのを少女が半目になって見ているが、それ以外に特に反応も見せない。

 結局、少女との会話はできないができないだけと言えるのでそのまま元気になるまで世話をするそうだ。暴れてもいないし、せいぜいモコモコ達の世話になると良い。


「そうそう、俺は少ししたらここ出て行くから」

「キュ!? キュゥー……」


 宴会に戻る途中でモコ長に告げると、彼は驚き残念そうな顔をした。


「キュキュ」

「引き止めてくれてるんだろうけど、俺もクラスの奴ら探さないとな」


 あの自称神様にクラスメイト達はどこかに纏めて飛ばされた筈だ。一人一人バラバラに飛ばす意味がないからな。遅刻してきた俺はブン殴ってやった事もあって空に放り出されたが。

 ともかく何時迄もモコモコ達に世話になる訳にもいかない。一宿一飯の恩は鬼退治で返せただろう。

 あまりダラダラと長居すると出て行き難くなる。だから明日にでも俺はここから出て行くと決めた。




 翌朝、貰った袋に俺はこれまた貰い物の食料や旅に必要な道具としてナイフや火打ち石、止血効果など怪我をした時に役立つ植物を詰めていく。一宿一飯の恩を返したと思ったが、逆に借りが増えてる感じがする。まあここはありがたく厚意を受け取る。

 あらかた詰め終わった所で改めて地図を見る。

 モコモコからダンジョンで見つけた古ぼけたコンパスに、織って作られたカラフルな布製の地図も俺は貰っていた。この森から川沿いに下った先が人間の生存圏らしい。モコモコ達はそちらへは一度も行った事は無いが、旅人や薬草採取で奥まで森に入り込む奴もいるらしく、手前までは何度か送り届けた事があるんだとか。

 クラスメイト達の情報を集める為に人が多くいる場所に行く必要がある。目的地もなく森を彷徨う羽目にならなくて良かった。


「キュー」

「おう、だいたい準備オッケーだな」


 用意してくれた旅の道具はモコ長の家に集められていた。俺が荷物を詰めるのをモコ長は手伝ってくれた。

 準備完了、と立ち上がると出入り口から保護した少女とオバンが入って来る所だった。

 昨日見た限りでは顔色は悪かったのだが、今は普通だ。それにローブの下にはモコモコ達が用意したのか腰の部分を蔓で結んだ簡単な服を着ている。足には草履っぽいの物。


「元気になったみたいだな」

「ええ、彼女達のおかげよ。聞いたんだけど、あなたが私を見つけたのよね?」

「…………喋れたのかよ!」

「いいえ。一晩で覚えたの」

「えっ、マジで?」

「あなたはできないの?」


 ちょっとカチンと来たが悪気はなさそうである。見た目に反して大人びた雰囲気があるので所謂天才少女と言う奴かもしれない。


「普通に彼らと会話してるじゃない」


 俺の荷造りに付き合ってくれていたモコモコ達を少女が見回す。


「会話……してたっけ?」

「キュゥキュ」


 すぐ近くにいたモコモコに顔を向けると肩を竦められた。


「会話してねえぞ」

「…………」


 少女は頭痛を堪えるように頭に手を置いている。


「まあ元気になったんなら良かったな。水晶漬けになってた割に元気そうだ」

「それなんだけど、その時の詳しい話を聞きたいの。私を見つけたのはあなただって言うし」


 ダンジョンは俺達が脱出すると入り口が潰れ、後にはただの岩肌があるだけだった。現場を直接見に行けず、発見者の俺に話を聞きに来たらしい。


「詳しい話っつってもあの中暗かったし、お前以外変な物無かったと思うぞ。俺からも聞きたいんだが、あん中入って何したかったんだ?」

「好きで入った訳じゃないわ……多分」

「多分?」

「記憶が無いの」

「そうか。悪いが何か手掛かりのなりそうなのは持ってないぞ」

「そうみたいね。時間を取らせて悪かったわ」

「色々大変みたいだけど、ここの連中は親切だからゆっくりと身の振り方考えれば良いんじゃないか?」


 話は終わったので荷物を持ち上げて肩に担ぐ。


「そんなに荷物を持って何処に行くの?」

「色々。学校のクラスメイト探さないといけないし」

「クラス、メイト……? 仲間の事?」

「ん……まあ、学校の同じクラスにいるという意味で仲間と言えば仲間。俺、違う世界からこっちに飛ばされて来たんだけど、クラスの連中と逸れちまったんだ」

「別世界……世界の壁を超えた時空間跳躍?」

「いやそんな理系やSF好きが言いそうな言葉なんて知らん。とにかくあいつらと合流しないと」

「どうして?」

「どうしてって……クラスメイトだし? 集団行動は基本だろ」


 首を傾げ俺を見上げてくる少女。えーっと、何だこいつ?


「非常時にどのように行動するかのマニュアルや規則があるの? あなたの言い方だと自分の意思のみの行動に聞こえるけど、家族や大切な人がそこにいるの?」

「いや、だいたいが顔見知り程度? そこそこ話す奴もいるけどそれだけだし」


 近所の紅の字がいて昔は良く遊び仲が良かったと言えるが、最近じゃ年頃なのか疎遠になっている。放置しても逞しく一人で生きられるだろうが、様子だけは確認しておきたい。


「自分だって時空間跳躍で一人なのに、危険な外に出るのは何故? 別段親しいと言える間柄じゃないのならわざわざ危険を冒してまでクラスメイトとやらの所に行くのはどうして?」

「そんなもん行ってから考えるよ」

「……分かった」

「もういいか?」

「待って。一日だけ待ってちょうだい。私も行くわ」

「えぇ……いや別にいいけど。お前病み上がりだろ」

「記憶がないだけ。体調に不備はないわ」


 少女はそう言うと付き添っていたオバンに話しかけ、部屋を出て行く。取り残された俺は何となしに周囲を見回すと、最初に鬼から助けた子モコモコと目が合った。


「キュー」

「そうだな。長のとこ行ってみるか」


 せっかく準備した荷物を取り敢えず子モコモコに預けて、この事を報告する為にモコ長を探しに外に出る。

 モコ長はすぐに見つかったが、少女が何やら話していた。すると俺に気付いたモコ長が手招きする。


「キュー」

「はいはい」


 呼ばれてそちらに向かい、そのまま全員である場所に向かった。そこはダンジョンで見つけた戦利品が保管してある場所だ。


「この中のもん貰うつもりなのか?」

「貰うと言えば貰うわ。代わりにこれの使い方を教えるという交換条件でね」


 これとは何ぞやと思っていると、モコ長が一番奥にあったダンジョンの核の封印を解いた。


「もしかして使い方分かるのか?」

「ダンジョンコアの存在を聞いて頭に思い浮かんだの。記憶喪失と言っても全ての情報を忘れた訳じゃなくてエピソード記憶だけが思い出せないのよ」

「エピソード記憶?」

「知識である辞書は引っ張り出せるけど、私個人の歴史書がどこにあるか分からない状態なの」


 履歴書で資格欄だけ埋まってるようなものだろうか?

 少女は俺に説明しながらダンジョンコアとやらの青い玉に触れる。電子音みたいな軽い音が青い玉表面に無数の光の線が浮かび上がる。


「おおっ」

「キュー」


 俺とモコ長が後ろから少女の手元を観察する。

 玉表面に浮かんだ線やら図形は触って動かす事ができ、少女は両手の指全てを使って線を移動させ図形を組み合わせていく。まるでパズルのようだ。

 迷いの無い動きで少女がパズルを解き始めて数分、玉の色が徐々に青から紫へと変わり、最後に少女が大きく玉の上下を捻るような動きをしたかと思うと玉は一瞬輝き次の瞬間には赤色になっていた。


「私達用に切り替えが終わったわ」

「私達用?」

「青色はダンジョン発生の魔物用よ。赤い血の私達が使うにはコアを赤に切り替えないと」

「…………それでどうなるんだ?」

「例えば、そうね……」


 少女が赤くなった玉を撫でる。すると光の粒子が玉から飛び出して何かを形作る。また鬼かと思ったがずっと小さく生き物ではなかった。

 できたのは木製の椅子だった。


「こんな風に物が作れるわ」

「マジかスゲェな。え? 何でも作れるのか?」

「中に登録されているのか自分で設計できる物しか無理。コピーは出来るけど。それと、保有マナの量にも限度があるから」

「ふーん」


 よく分からんがSF映画に出てくる立体プリンターみたいな感じだろうか。

 少女はそれから赤い玉の上に浮かぶこれまたSFのように空中に光の画面を浮かび上がらせ、モコ長と何やら相談しながら操作している。


「SFみてー」

「えすえふ?」

「少し不思議の略」


 モコ長は他のモコモコ達にダンジョンの戦利品を仕分けさせると赤い玉の前に運ぶ。少女が何か操作すれば戦利品が光の粒子となって玉の中へと吸収される。


「おー」

「キュー」


 その光景を作業場から離れて見学する俺達野次馬。


「そんなにバンバン分解して良いのか? 珍しいもんだったらどうすんだ?」

「キューク」


 モコ長に聞いてみるが問題ないらしく首を振ってきた。金目の物なんて彼らには関係ないよな。


「マジックアイテムは残してあるわ。それに一番のレアはもう使っちゃってるじゃない」


 換金率お高め=マジックアイテムと解釈したらしい少女が説明してくれるが、そんなレアアイテムなんて使った記憶がないんだが。


「ギョエー」

「ほら、コレよ」


 銀モコと槍モコがとうとう集落の要らない物まで持ってきた時に少女は銀モコの兜を見て言った。アレかー。


「そういや、アレ何の効果だったんだ? 進化アイテム?」

「マナ効率を一時的に上げてマナの保有量を一時的に上昇させた上で、急速に体を順応させて上昇した分固定するの。要は強化アイテムね。見た目の変化は副作用で、その実質はマナを増やす事。マナ保有量が増えればマナアーマーも強力になるから進化したように見えるの」


 何を言っているのだろうかこの少女は?

 少女は俺がよく分かってなさそうなのを横目で見た後、視線を玉に戻しながらポツリと呟く。


「あなた、アナライズスキル持ってなさそうだもの。仕方ないわね」

「馬鹿にしてるだろ」

「してないわ。そもそもアナライズスキルを持っている人の方が少ない……と思うし、それも完全じゃないから」

「そもそもアナライズスキルって何だよ。ゲームか。それにマナマナ言ってたけど、マジックポイント的な何かか?」

「マナって……万物素よ。世界の構成要素」

「そんなファンタジー用語出されても困る」

「え? え? そんな嘘、まさか……ちょっとごめんなさい」


 いきなり謝って来たと思ったら少女が俺を凝視する。琥珀色の瞳が一瞬だけ淡く光る。


「マナが、無い? どうして生きてるの!?」


 哲学か何かだろうか?


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