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第四十八話


「これゲームだと何に分類されるんだろうな?」

「何がですか?」


 馬車の御者台で隣に座っていた蓮がこちらに振り向く。


「マナアーマーのステータス開いてたんだが」


暇潰しに開いてみたらステータスが成長してとうとう一部の項目が三桁を超えていた。それは良いんだが、訳の分からない偏りの成長をしていた。


「そんなのもありましたね。トモセンパイ、そんなのお構い無しだから私もすっかり忘れてました。そういえば成長してるかなーっと……。うわっ、すっごい上がってる!?」


 蓮も自分のステータスを久々に見たのか驚きの声を上げた。


「特定のステだけが上がってたりしないか?」

「えっと、スピードに偏ってますがあとは満遍なく? そういうパイセンは?」

「タフネス特化」

「えぇ……」


 俺のマナアーマーのステータスはタフネス特化。というか前見た時からタフネスとマナ保有量しか上昇していない。魔法が使えても固定砲台にしかならない。

 何でこんな大艦巨砲主義一歩手前なステータスになっているのか。それに加えて火耐性に加えて流体耐性、耐刃、耐震、空間干渉拒否とか何だよ。他は分かるが最期の空間干渉拒否って何だ?

 首を傾げていると、蓮との会話が聞こえていたのか荷台からベニオが顔を出す。


「前に言わなかった? トモヒコの場合、マナアーマーが肉体の強化を諦めて身につけてる衣服の保護を優先しているのよ」

「みんながパワードスーツ着てる中でトモセンパイだけが破れ難い服を着ているんですね」

「まあ、一々破れたら着る物に困るから別にそれでいいんだけどな」


 暇潰しに開いたステータスを非表示にして、今度は地図と魔法のコンパスを取り出す。

 サゴスを出発しメシューレ神殿に向かっている俺達はだが、慣れない馬車移動ながら順調に進んでいた。

 広げた地図の上に魔法のコンパスを置くと俺達の位置を教えてくれる。


「このまま行けば大きな道に出るな」


 メシューレ教の総本山には多くの巡礼者が行き来するので路は整備されいるらしい。流石にサゴスにまでその路が通っている訳ではないので、多少無茶だったが路に合流できる直進コースを突っ切った。山や谷が無かったのが幸いだ。

 思った通り、暫く進んで行くと石畳で出来た街道に到着した。


「大したもんだな。ローマ帝国みたいだ」

「ローマ行ったことあるんですか?」

「無い。歴史の資料集にあったローマが浮かんだだけだ」


 でも、こうしてインフラがしっかりしてると云う事は金も技術も持っている証拠だ。国のお偉いさんとも平気で話していたミハエルさんを思えば、相当に権力のある宗教組織なのは間違いない。

 これからクラスメイトを探す上で頼りになるが、警戒はしておいた方が良いよな。


「あの人達は何でしょうか?」


 蓮が見ている方向に目を向けると、大勢の人々が街道を歩いていた。俺達と同じく馬車の人もいればロバで移動する者、家族らしき集団で固まって歩く者達など。

 商隊とは思えない。中には家具を馬車で運んでいるのもおり、浮かない顔をしている事もあってまるで夜逃げしてきたように見える。


「さあな?」


 馬車をゆっくりと移動させて街道を進ませる。横幅のある街道は馬車一台増えたところで特に不便はなく、スムーズに徒歩の人々を追い越していく。


「神殿が近いからか、神官や僧兵の姿も多いわね」


 荷台部分から御者台へと乗り出したベニオが周囲を見渡して言った。確かにミハエルさんと似た白い神官服を着ている人の姿をちらほら見かける。加えて僧衣の上に鎧を着込み腰にメイスを下げ、音からして鉄芯入りと思われる杖を持った神官もいる。


「これは……避難しているんでしょうか? なんだか疎開中みたいな雰囲気ですね?」

「かもしれないな」


 切羽詰まったような様子はないが、歩いている彼らの顔は沈んでいた。

 馬車がゆっくりと進む先に神官服の老婆と小さな子供二人が歩いているのが見えた。子供の方は少年と少女。少年の方は頭を怪我したのか包帯を巻いていて、老婆に寄りかかるようにして歩いている。少女はサイズが大きなサンダルを履き、老婆に手を引かれて歩いている。

 そんな二人の子供の面倒を見ながら三人分の荷物を担いで裸足で歩く老婆。背筋は真っ直ぐに伸びていて苦を感じさせないが、放置はしておけなかった。

 馬車が三人の横を通る時に声をかける。


「三人とも、良ければ乗ってくか?」

「いいのかい? それならこの子達を頼むよ。ずっと歩き通しだったんで休ませてあげたい」

「婆さんも乗りな。裸足は大変だろ。荷台にはまだまだ空きがある」

「そうかい? それならお言葉に甘えさせてもらおうか」


 年齢を感じさせる程に皺の数が多い老婆だが受け答えははっきりとしていた。

 ベニオが手伝い、子供二人に老人一人が馬車に乗り込む。アインスから貰った馬車は大きく、殆ど何も積んでいないのでまだ十分なスペースがある。最初は明らかに貴族が乗ってそうな質の良い馬車だったが、流石に目立つという事で商人が持っていたような積載量重視な物を貰って正解だった。

 蓮が荷台の端に座り足を外に投げ出している老婆に声をかける。


「おばあちゃん、この行列って何ですか?」

「これはね、近隣の村や街から避難してきた人達だよ。最近物騒でね。だから被害がまだ出てない内に神殿に逃れようって人々さ」

「物騒とは? 私達はドラグノル公国の方から来たからこの辺りの事情を知らないんです」

「そうなのかい? 物騒、と言っても色々さ。魔物の凶暴化に大繁殖でただでさえ作物に被害が出てるのに天気がコロコロ変わる。晴れなのに洪水が起きた日もあったそうだ」

「魔獣の大群には俺らも襲われたな」


 サゴスに入るキッカケとなった大行進だ。あれは結局コンラッドの仕業だったんだが、婆さんが言っている魔物の増殖もあの一味の仕業なのだろうか。天候の変化は……普通にできそうだ。


「あんたらも大変だったんだねぇ。魔物の異常行動は各地で起きていているようだよ。怖いねぇ」

「あの神官達は護衛?」

「そうさ。村に在住している神官からの要請でね。こんな時の為の神殿騎士なんだから働かないとねぇ」

「へー」


 蓮が相槌を打ちながら聞いている姿を尻目に俺は前を向く。

 丘に沿って続く道の向こうに街が見えてきた。サゴス以上の、デラック帝国の帝都と遜色ない白く巨大な防壁に丘の上に建てられ段差上に続く街並み。そして頂上には巨大な神殿が城のように存在していた。


「あれがメシューレ神殿?」


 蓮や少年と少女も気付き、馬車の中から顔を出してくる。


「そうさ、あれがメシューレ教の総本山さ。真っ白だろう。もうちょっと地味な色にすればいいのにさ、日差しがキツい日は光を反射してキツいのなんのって」


 老婆の発言のせいで荘厳さに感心するよりもコンクリートジャングルの夏場みたいだなと思ってしまった。




 道中、他にも子供や怪我人を拾って門前に到着した。

 周辺の村から疎開してきたらしき人々が行列を作っており、中に入るのは遅くなりそうだ。


「モンスターがいる世界だからかどこも大きな壁作ってましたけど、ここも凄いですね。帝国のと比べると清潔な感じはしますけど」


 蓮が観光客のような呑気な感想を言いながら防壁を見上げている。来る途中から見えていたが、こうして間近にすると威圧感がある。この壁もサゴスの時のように魔法陣型の大砲があるのだろうか。


「ここの中心地に神殿があって、囲むようにして街と防壁が交互に建てられてるそうよ。神殿が中心に広がっているから、神殿都市とも言われているわ」


 またどっからかベニオが情報を仕入れてきた。

 神殿都市と言われているが、独立国的な扱いなのだろうか?


「乗せてくれてありがとね。おかげで楽ができたよ」


 門前に到着したことで相乗りさせていた子供や怪我人が馬車を降りて列に並ぶ家族に合流するのを見届けた老婆がお礼を言ってくる。


「ついでだから別にいいさ。婆さんは行かないのか?」

「行くも何も私の家はこの街さ。村には神官騎士のサポートとして行っただけだよ」

「年なんだから無理すんなよ」

「神官と言っても粗暴な男所帯さ。こういう時こそ女手が必要な場合もあるよ。ところであんた達は何の用で神殿都市に? 避難民ではないだろう?」

「人探し。ここなら情報を教えてくれるって?」

「紹介状はあるのかい? あるんだったらここに並ばずに門番に直接言った方が良いよ。その方が早く中に入れる」

「それもそうか。邪魔になるし、そうするよ」


 老婆に礼を言って、入場の列から外れる。だが、人が密集してるから大きな馬車を動かしづらい。


「……私が先に手紙持って話を通しておくわ。レンは馬を」

「はいはーい」


 ベニオがミハエルさんの手紙を持って門番の所へ行く間、蓮が馬を馬車から離し、俺が馬車を持って列から出る。


「もうそのまま行ったらどうです?」

「他所から見ると危なっかしいだろ」


 既に列に並ぶ人らが目を剥いている。老婆は感心したように小さく頷いていたが。

 スペースのある場所で馬車を下ろして馬を繋ぎ直し、門の所へ行くと話は問題なく進んだようで、並ぶ人達を尻目に俺達は街へと入場できた。


「神殿へはこの大通りを進めば着くそうよ」


 改めて馬車に乗り込んだベニオに言われるまま、馬を進ませる。

 街の建物は白い石なのか漆喰なのか判断の付かない光沢の材質で出来ていて、掃除が行き届いているのか汚れが目立つ白色なのに清潔感がある。

 神殿都市となれば住人全員が信者で修行僧みたいな格好でもしてるのかと思えば、案外普通だ。普通じゃないサゴスにいた反動でそう見える訳じゃなく、普通の格好で歩き、賑わう市場では客寄せの声が聞こえ、路地では子供達がボールを蹴り飛ばして遊んでいる。

 何処にでも見られる光景だった。他所の村から来たのか疲れた表情をしている人もいるが、安心している様子から良い街なのだろう。


「もっと堅苦しいかと思いましたけど、イベルトの闘技場とはまた別方向に賑わっていますね」

「……よく考えたら比較対象がまともなの無いな」


 大きな街と言えば暗黒街サゴスとイベルトの闘技場街しか見ていない。前者は勿論、後者も健全とは言い難い。碌な街に滞在していない事実に軽く絶望を覚える。モコモコ達の所は良かったが、あそこは集落だったから。

 大通りの道は丘をぐるりと回りながら頂上の神殿に続いているようだ。下ほど小さな家屋が乱立して細かい路地があったが、上に行くほど大きな施設が増え、区画も整理されている。

 そうして馬車を進め街の景観を眺めて暫く、とうとうメシューレ神殿に到着した。


「うわぁ……ほら、何でしたっけ? アレですよアレ。まだ完成してない大っきな教会ありますよね」

「ああ、似てるかもな。実物見たことねえけど」


 メシューレ神殿を見上げアホ面を晒す蓮に適当な相槌を打って、神殿の門番にミハエルさんの名前を出して通して貰う。馬車は彼らに預けると、俺達は案内として出てきた神官に連れられて神殿内を進む。


「ミハエル神官から連絡は来ていたのですが、来るのが遅いて心配していたのです。無事に到着されて安心しました」


 転移者の俺達が来る事はミハエルさんが事前に連絡してくれたらしい。おかげでスムーズに話が進む。

 ベニオは俺の後ろを黙って歩き、蓮は俺の横に並んで歩いているが視線は中庭に向いている。

 俺達が歩いている通路の横側は壁ではなく柱が立っていて、その向こうによく手入れされた中庭があり、庭を挟んだ向こう側にも通路がある。


「しかし、言葉に不自由していると聞いたのですが流暢に話しておられますね」

「そういう道具を手に入れたので。後遅れたのはモンスターの大移動に道を遮られてしまって」


 嘘は言ってない。実際にモンスターの群れのせいでサゴスに行く事になったし。でもサゴスに行ったと言えば妙に心配される可能性と言うか、恥ずかしい感じがするのでボカした。


「そうでしたか。魔物の群れと遭遇してご無事だったのは運が良かったです。こちらでも近辺で魔物の群れが活発化し、ダンジョンからも溢れ出ていて、防衛力の低い近隣の街村からの避難民を受け入れているんです」

「こんな忙しい時期にすいません」

「いえ、転移者の方々の保護はメシューレの信徒として当然の事です」

「ここにいる転移者ってどんな人達なんですか?」


 案内人と雑談を交わしていた最中、蓮が会話に入ってくる。


「……ええ、良い人達ですよ。真面目に訓練を受け、この前も魔物の間引きに協力してくれました」


 そう言って案内人は愛想笑いを浮かべる。


「…………言い澱みしましたよね? きっと問題児がいるんですよ」

「まあ、どこにでもいるだろ。そういう奴は」


 案内人に聞こえないようにコソコソ話す。様子を見る限り、何か大きな問題を起こしたと言うか、邪な気配はないが手放しで称賛するには躊躇いがあると言った感じだ。

 何処にでもある人間関係のトラブルだろうか? だとしたら俺には何も出来ない分野だ。


「あっ、あそこにいるのが転移者の方々ですよ」


 案内人が声を上げ、歩いている通路の角から出てきた女子の集団を指し示す。神官服なような白い服に身を包んでいるが確かに日本人少女達だ。

 だが、先頭を歩いているのはこちらの世界よりと言うかヨーロッパ系らしい金髪青眼の少女だった。


「…………マジか」


 先頭の金髪の少女を見て思わず呟く。それが聞こえた訳でもないだろうが、金髪の少女がこちらに気付く。すると、目を見開いて両手で口を押さえた。次第に涙が溜まり潤んでいく瞳は真っ直ぐ俺を見ている。


「まさか、そんな……犀川さま!?」

「ちょっと、パイセン? 何時ナンパしたんですか?」


 蓮が袖を引っ張り半目で睨み上げてくるが、それどころじゃない。金髪の少女、見間違いでなければ彼女は――。

 少女が人目を気にせず小走りになって真っ直ぐ駆け寄って来る。


「犀川さまぁ!!」

「うるせぇ近寄んな」


 駆け寄って来た少女――相川クリスを俺は中庭に向かって雑に放り投げた。


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