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第三十九話


「ギャハハハハハッ!」

「うるさ」


 上体を逸らして振るわれる豪腕を避ける。

 大柄な割に軽快なステップでジャブによる牽制で場をコントロールしつつチャンスがあればフックで肋骨などを砕きに来る。

 豪快なパワーキャラという見た目に関わらずその戦い方は堅実であった。

 と言うか、具体的にどれだけ偉いのかは知らないがあんな場所にいた各勢力の頭目達の一人が護衛を置いて一人で正面から襲撃者と戦うってのはどうなんだ? いや、護衛を張っ倒したのは俺だけど。


「ブェッハハハハハ!」

「笑いながら殴って来んな!」


 どんな肺活量なのか。逆三角形の筋骨隆々で俺よりもデカいオッサンが堅実なスタイルのプロボクサー顔負けの技量で大笑いしながら殴り掛かって来るというのは絵面字面以上に厄介だった。


「ああっ、クソッ、面倒臭ェ! 時間ないんじゃボケェ!」

「ハーッハハハハハハ!!」


 手で捌いたりして攻撃を避けてはいたがそれで隙を見つけられず、このままだと他の連中に逃げられると判断し被弾覚悟で攻撃に出る。


「フッ――!」

「シィ――!」


 向こうがどう考えたのか知らないが、捨て身の攻撃に合わせて来た。お互い連打を浴びながら相手に拳を何度も叩きつける。

 結果、勝ったのは俺だ。側頭部に拳を受けながら巨漢の脇腹を殴る。肉を潰れるのと骨が折れる感触が伝わり、男の動きが一瞬止まる。それでも動こうと歯をくいしばる男の顎を下から拳でカチ上げて意識を刈り取る。

 地面に大の字になった男の足首を掴んで、女頭目がハエトリグサに食われた場所の方角へと放り投げる。このオッサンなら屋根よりも高い場所から落ちても平気だろ。


「アアッ、十秒は掛かった!」


 残り三人、逃げた方角は覚えているがこの十秒でどこまで逃げたかが問題だ。

 教会から続々と現れてきた護衛連中を無視して夜の街に飛び出す。

 屋根の上を走って追いかければ、四頭の馬が牽く馬車を発見する。数人の馬が並走しており上には護衛達もいた。

 途中、暴徒が馬車を襲おうとして魔法で吹き飛ばされる。

 あーあー、馬鹿が騒ぎ出したよ。ヤク中が誰彼構わず喧嘩を売って散らされている。これで足が鈍るかと思いきや、サゴスで組織やってるだけあって狂人どもの相手は慣れているようで問答無用で攻撃を加えやられる前にやっている。隠れていても吹き飛ばしている。

 足止めにもなりゃしねえ。それどころか屋根の上を走る俺の方に狙いをつけ始めた。


「えぇいッ、邪魔だァ!」


 襲って来た奴の襟を掴んで馬車に投げ込む。当然、護衛の魔法や剣の鞘で叩き落とされるが目眩し程度にはなる。

 俺は馬車が向かう方向へと先回りして跳躍、大きく弧を描いて路上を走る馬車の側面に衝突する。壁を突き破りながら会合にいた男を見つけ、その襟首を掴んで馬車から引きずり出す。

 男は袖から飛び出したナイフで突き刺そうとしてきたが、ナイフの刃を噛んで受け止めて腹パン一発叩き込んで気絶させる。

 濡れていて変に甘い味のするナイフを吐き捨て、馬車から屋根の上に跳び移る。護衛達を置き去りに俺は適当な所で確保した男を放り投げて次のターゲットに向かう。

 モコモコ達の高い音の鳴き声が聞こえた。


「あっちか」


 大まかな方向から目標の位置をより絞り込み、走る速度を加速させる。

 昨日と比べて今日は一段と街が騒がしい。押し込み強盗の現場を目撃してついでに跳ね飛ばすが、別の箇所では魔法によるものか爆発が起きている。一つ二つだけじゃなく、二桁に及ぶ場所に遠くからでも気付ける程に騒ぎが起きている。

 まったく、落ち着きのない街でウンザリする。

 次の目標は馬車から降りて入り組んだ路地に入って逃げ回っているようだ。屋根の上からでも下の様子が分かりにくい程複雑な路地だったが、死体か浮浪者かを蹴っているのか襲われたから返り討ちにしたのか、人を殴る音と呻き声を頼りに向かうとローブなどで顔を隠した集団を発見する。

 間に廃屋があって誰もいなかったので、その壁を突き破り一直線に目標を襲う。こっちに気付いた時には俺は相手の両肩を掴んでいた。

 そのまま宙で体を前転させ、目標の襟を掴んだまま飛び越えるように回転。地面に両足をつけて思いっきり腕を振ると目標はいくつかの屋根を飛び越えた先に落ちていった。


「よし、次でラスト!」


 保護対象が野球ボールみたいに飛んでいって一瞬唖然とした護衛連中の隙を突いてまとめて蹴り転がし、残る一人を探すためにまた屋根の上の人になる。

 近くの高い建物に登り、街を見下ろす。


「どこ行ったあのジジイ」


 あの場にいた人間の中で一番に雰囲気が強かったのがあの初老の男だ。その隣にいた背広の男もまた不気味だったのでビンゴブックには載ってないがボコして牢屋に放り込もう。

 探して街を走っていると、馬車ではなく馬に乗っている彼らの姿を発見した。

 地面を抉って急ブレーキをかけ、後を追う。俺に気付いたのか頭目らしい老人が馬を走らせながら首だけを動かして振り向く。


「――フッ」


 あの野郎、いきなり鼻で笑いやがった。

 集団は巧みに馬を操って狭い路地を移動する。向かう先には特に怒号と轟音が聞こえる一帯だ。


「紛れる気か」


 誰と誰が喧嘩していようと敵味方関係無しに暴れ回っている混沌とした場所に飛び込むのはリスクが大きいように思えるが、地の利は向こうにある上に具体的な素性は知らないがサゴスの中でも有力者が集まった会合に参加していた人間だ。

 寧ろああいうしっちゃかめっちゃかな場こそ個人としても組織としても本領発揮できるのかもしれない。

 面倒な事になったと思いつつ追跡は諦めない。

 喧騒の最中に飛び込もうとする直前、俺はそこから離れる集団を発見する。

 サゴスは悪党どもの集まりだが、街が犯罪都市になる以前から住んでたのか先祖代々暮らしていたからか、何にしてもまだ真っ当な住人は少数ながらいる。

 真っ当な部分の線引きはともかく、他所の街に移住しても平和に暮らしていけるような人達だ。彼らは弱いなりに強かで、危険を察知すれば野次馬根性など荷物と一緒に放り捨てて直ぐに逃げ出す。

 今もそうで、隠れながら狂乱の場から素早く逃げていた。この様子だと不参加者は全員逃げているだろう。


「…………」


 俺はちょっと考え、直ぐに実行に移す。

 建物とか人とか気にせず突貫した。


「◯▽ッ!? ギャアアアアアアッ!!」

「ヒィイイイイイッ!?」


 翻訳する必要のない屑どもの悲鳴が響く。壁をタックルで突き破り、物漁りや器物破損に勤しむ馬鹿達を跳ね飛ばしながら頭目の後を追う。

 距離は離されたがまだ追いつける距離だ。奴の仲間か辻斬りか俺に攻撃を仕掛けてくる奴はいるが近くにあった物や人を投げつけてあしらい、頭目に狙いを定める。

 偶々手に取った荷車を投げる。だが、寸前で急カーブして横の道へと逃げた。

 俺は建物の壁を破壊して頭目が逃げた道に向かって直進する。あと一枚の壁の向こうにいる、というところで覚えのある感覚を味わう。

 オーガの巣窟、イベルトの闘技場、巨大モンスターの体内。つまりダンジョンの空気と似ていた。違いはより濃く別の場所だと明確に感じさせるところだ。

 その感覚も一瞬だけで、気付けば壁を破壊せずに向こう側の通りへと俺は通過しているのに加え、本来出てくる場所よりも十数メートルは離れていた。

 そして目の前には何故か拳を繰り出している三人の男の姿があった。


「おおっ!?」


 咄嗟に三人分の拳を叩いて受け流し、脊髄反射で拳と蹴りを放ち三人の男を弾き飛ばす。


「――っ」


 だが吹っ飛んだのは二人だけで、一人は攻撃を受けながらも堪えて鋭い蹴りを放ってきた。ローキックを後ろに跳ぶことで避けて距離を取り、改めて三人を見る。

 最初にぶっ飛ばした二人は苦しそうにしているが自力で立ち上がり、拳を構える。

 強いな。それに一番耐えた三人目を殴った時に手からは何か硬い物の感触がした。中に防具でも仕込んでいるかと思ったが、関節の動きを阻害していないので違うだろう。

 よく見てみれば、三人目の襟の隙間から見える首の肌が鱗だった。

 相手が動き出す。三人目とは別の二人の男の体からそれぞれ蝙蝠の羽と蛇の尾が伸びた。

 ああ、なんかそういう種族の人ら。じゃあ、もうちょっと強く殴っておくかと飛び掛かる――フリをして逃げた頭目を追うために三人を無視する。

 当たり前だが三人が追いかけて来る。やっぱり空飛べる奴は速いらしくすぐに一人が俺の前に空中から移動して先回りしてきた。

 俺は走る勢いのまま蹴りを放つが、羽を盾のようにして防がれる。加えて表面の丸みで受け流されバランスを崩される。

 だが俺は支えにしていた片足の踵だけの動きで跳んで空中で回転し回し蹴りを羽の男に食らわせる。よろめく男に追撃する余裕はなく、直ぐに次が来る。今度は尻尾男で上段への蹴りをしてきた。

 上体を反らしてハイキックを良ければ、男はそのまま回転。蛇の尾が鞭のように襲いかかってくる。それを叩いて防ぐが、それこそ鞭で打たれたような音だった。更に続いて回し蹴りが来るが、俺の方から身を前に乗り出し膝で受け止めつつ蹴りを押し返す。

 相手のバランスを崩したところで尻尾を掴んで振り回し、羽の男へと投げつけた。

 鱗の方が入れ替わるように殴りかかって来る。頑丈さが売りみたいな鱗の癖に俺の攻撃を捌いて躱そうとしていて邪魔くさい。

 付き合いきれないと、俺は鱗男の顔を掴んで地面に叩きつけると即座にその場から離れる。

 頭目の姿を探すために屋根の上に登り、周囲を見回す。

 頭目の姿は見当たらない。代わりに角をもった男が二人ほど別の建物の屋根にいた。

 ブリジットのような小さな角ではなく、大きく鋭い。真っ直ぐに伸びていたり羊のように曲がりくねっていたりと個性があった。

 その男二人の角が帯電する。


「……えぇ」


 バチバチと帯電する角を持った二人が俺を睨む。さっきの三人組と似た雰囲気を持っているが、まさかお仲間か。

 二人が角の先端を俺に向けると、角の間から雷が槍の如く真っ直ぐに放たれた。


「うおおっ!?」


 魔法とかある世界で色々と攻撃的な魔法を見たり浴びせられたりしたが、ここまで勢い良く殺意の高いのは初めてだった。そもそもどういう原理で電気が真っ直ぐに伸びて来るのか。


「あー、ビックリした」


 反射的に殴って弾いたが、痛いし痺れる。傘の少女の背中から発声した雷も粘着性みたいではあったが、瞬間的な威力だけみればこっちの方が厄介かもしれない。

 手を振って痺れを解しながら角持ち二人を片付けようと思ったが、一度は引き離した三人が追いついてきた。


「あ、くっそ、厄介だな!」


 頭目を追い掛けながら五人を相手するのは非常に厄介だった。時折混ざって来ると言うか通行上にいた巻き添えや奇襲してくるチンピラは簡単に一蹴できるが、こいつら一人一人強い上に連携も取れている。

 それとどうでもいいが、走ったり跳ねたりしているので分かりにくいが、こいつらの動きって……。

 五人組に手こずっていると、不意に鱗男が凄まじい勢いで地面に沈んだ。男の背中にはこんな夜の時間には不釣り合いな少女が立っていた。

 モコモコに預けた筈の傘の少女だった。幼い子供の登場に男達は躊躇いを見せた。だからって子供側が容赦する理由にはなっておらず、少女が手を振ると左右にいた角と尻尾の男二人が発生した風の塊に跳ね飛ばされて家屋の壁に身を沈ませる。


「お前なあ……チッ」


 もう一人の角の男が電気を纏った角で頭突きをしてきたので、それを掴んで受け止める。

 その間に少女に足蹴にされた鱗の男が押し退けて立ち上がり、バランスを崩した少女に向け鋭い突きを放った。

 傘の少女は重さを感じさせないまるで羽毛のような動きを空中でしてみせて突きを避け、それどころか拳を蹴って大きく後ろに跳躍し綺麗に着地する。挑発的な笑みを浮かべた上でだ。

 地下で命令を聞いていた時の名残が出ているのかそれとも元からそういう性格だったのか、何にしても芝居掛かった動きだ。

 俺は角の男を持ち上げて鱗の男に投げつけ少女の元に向かおうとする。その瞬間、肩に痛みがはしる。

 顎が鱗に覆われて強靭な歯が並んでいる男に後ろから噛み付かれていた。格好から六人目だ。炎まで吐き出しながらガッチリと噛み付いている顎の男を引き剥がそうとすると、傍の建物の壁が弾けた。

 七人目の登場だ。構えた両手が鱗に覆われている男は瓦礫が地面に落ちるよりも速く俺の懐まで一足で接近し、正拳突きを放つ。


「ぐぉっ……」


 腹に重い一撃を受けてしまう。更にその一発だけでなく続けざまに蹴りや殴打が加えられる。


「オラァッ!」


 良いようにやられてばかりじゃない。首を狙った手刀を腕で防ぎながら逆に相手の懐に足を踏み出し、斜めに回転する。

 いつまでも人の肩に噛み付いている顎の男を鱗手の男にぶつけて肩から離させる。二人とも地面に倒れ立ち上がるよりも速く二人を蹴り飛ばして壁にぶつける。

 邪魔な二人を一旦を端にやったので傘の少女に振り向く。

 やはりあれだけで男達は倒れず、乱入者に対し見た目で判断せずに包囲していた。俺が駆け寄るよりも早く少女が先に動く。

 自分が立つ中心を除いて周りから同心円状に空間を震わせた。どういう原理か空間ごと細かく揺さぶる範囲攻撃に男達はボールみたいに跳ね飛ばされる。尻尾と鱗の二人以外はだが。

 人の事言えないのは自覚しているがタフ過ぎる。他の連中も負傷しているが体を即座に起こしてまだまだ戦意がある。

 幸いなのは弾き飛ばされなくとも振動を受け続けて前進できていないところか。俺なら耐えられるし、近づけば力を解除するだろうから少女の所に突っ込んで離脱してしまおう。

 そう考えた時、近くの建物が崩壊してチンピラどもの悲鳴が聞こえた。

 少女の振動攻撃の範囲外だし俺ら以外でも戦いの真っ最中だ。だから火の手も悲鳴もどこからでも聞こえるし見かけるのだが、崩れ落ちる建物の中から一人の男が現れ自然と意識が向いた。

 角や鱗の男達と似た雰囲気を持っているが鱗も無ければ羽も尻尾もない。ただ一目見てヤバいと思った。手袋をはめた手には血だらけのチンピラの顔を掴んで、もう片方には黒と青のまだら模様な血を流す化け物の尻尾を掴んで引き摺っている。もうこの時点でヤバい奴だなと判断できた。

 黒髪に顎鬚を生やし白い肌と赤い目を持つ男はチンピラとバケモノから手を離すと俺達を眺め回す。男の視線が振動波発生させている少女に止まる。

 瞬間、男の姿が消える。


「――っぶねェ!」

「…………」


 一瞬で男は震える空間を突き破りながら少女に近づき拳を放っていた。それを俺もまた振動の中を突き進み顎鬚の男の手首を掴んで拳を止める。

 猛スピードで動いていたものを無理矢理止めたせいで行き場を失った力が空気を押し出し突風となって周囲の物を吹き飛ばす。

 脆くなった建物の壁が崩れドアや窓が外れ、地面に散乱していた物が軒並み吹っ飛んでいく。その勢いは人が踏ん張っても耐え切れるものではなく、体重の軽い少女が風に飛ばされる。


「ケキューッ!」


 だが聞き覚えのある鳴き声とともにモコモコ達が大きな植物の葉っぱを広げて少女を受け止めると、そのまま葉で少女を巻いて立ち去っていく。

 それを一瞥した瞬間、顎鬚の男が掴まれている手を引きながら俺のバランスを崩して反対の手で顔を狙って拳を放つ。

 それを叩いて逸らし、男の手首から手を離して後ろへと下がって距離をとる。

 追撃して来るかと思いきや、男は拳を戻すとその場で構えた。

 鱗や角の男達が俺達に一度視線を向けて最後に顎鬚の男の顔を見ると、何処かへと散っていった。


「なるほどな。少なくともあの中じゃアンタが一番強いのか」


 男と戦う為に俺もまた拳を握って構えた。

 直後、互いに同時に仕掛け拳と拳が正面からぶつかった。


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