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第三十二話


 松明を両手に走り回っている馬鹿がいたので殴り倒した上で火を消しておく。

 目の前で店のドアを蹴り壊して商品など金品を盗む連中がいて、俺が見ているのに気付くとガン付けに来た挙句に躊躇いもなく剣を振り下ろしてきたので全員地面にめり込ませた。

 路上で嫌がる女を押さえつけていた男がいたので股間から蹴り上げて壁にシュートしておく。その後で襲われていた女が短剣で後ろから刺そうとしてきたので家の奥に放り投げておく。


「なんだこの街?」


 どいつもこいつもイカれている。まともそうなのでも身を守るためなら殺意満々だし、それ以外なると単なる被害者だ。警察のような治安組織が来る様子も一切ない。

 フィクションで警察が賄賂貰いまくりで景観という立場を利用する、なんて設定はあるが形だけでも出てこないのを見るとガチで存在してないようだ。


「これで街として機能してるのかよ」


 目についた悪行を物理で潰しながら防壁に沿って歩く。モンスターの騒ぎは収まったのか魔法の大砲の音も聞こえなくなり、火事場泥棒も火事場レイパーもなりを潜めてきた。

 もう夜だが、それでも早々にこの街を出て行くべきだ。まだモンスターが残っていても、散っていれば無理やり押し通る事もできる。

 今向かっているのはベニオ達が入った門の場所だ。時間はかかってしまったのでいない可能性もあるが確認だけはしておこう。

 と思って門近くまで行った訳だが、物陰に隠れて様子を窺う限り何もなく静かだった。むしろ静か過ぎる。

 ヒャッハーと叫ぶどころか危ない薬キメた連中が道中に雑魚モンスター並にエンカウントしていたのが嘘のようだ。

 警察の類はいないと思っていたが門番の姿はある。防壁の上にも鎧姿の兵士がいた。装備も統一されていてここだけ見れば当たり前の街に見える。

 演技なのかそれとも俺が偶々入った場所が頭おかし過ぎただけななのか。

 何にしても馬車が一台も見当たらない以上、ここにいてもしょうがない。何処か目立たない場所で向こうから見つけてくれるのを待つか。目立つ場所にいると目が合った以上のイチャモンで絡まれそうだからな。

 離れようとしたところで耳鳴りがした。蝙蝠が飛んでいる時に発するのと近い音が聞こえたと思えばそれが段々と声になる。


『トモヒコならこの周波数の音が聞こえると思ってメッセージを残すわ』


 ベニオの声だ。メッセージを残すとか軽く言っているが、どうやっているんだろうか。


『貴方のマナに反応して再生するようにしてあるけど一度きりだからよく聞いて。気付いていると思うけど、この街は思った以上に危険よ。

 私達より先に入った筈の人達の姿が消えていて、何処に行ったか分からない。門番の人間に聞いても知らぬ存ぜぬ』


 ベニオと蓮の馬車と先に行っていた連中の距離は開いていたが、会わなかっと言うのもおかしな話だ。モンスターの大群が迫っていたとは言っても壁の向こうに行けば足を止めるぐらいはするだろうに。


『露骨に賄賂を求められたから払うと、拍子抜けするぐらいあっさりと通してくれたわ。でも、監視されている。私達が移動した目印を残そうかと思ったけど門番よりも目敏いと判断して危険を避けるために敢えて残さないようしたわ』


 賄賂か。普通だなと思ってしまったのはこの街の異様さを見たからだな。


『私達は救助した人達と一緒に何処か宿をとって暫く引き篭もることにしたから。何かあれば大きな花火を打ち上げるからそれを目印にしてちょうだい。それが無い間は私達は安全という事よ』


 花火か。ベニオが言うならそれは分かりやすい花火なんだろう。


『以上よ。レンが煩いから一人で勝手に脱出しないようにしてちょうだい。それじゃあね』

「…………あれ? 俺はどうしてれば良いんだ?」


 俺のこれからについて一切言及が無かった事に疑問を口にしても録音が答えてくれる筈もなく、高い音を最後にメッセージは聞こえなくなった。


「…………」


 俺は制服のポケットを弄る。見つけたのは銀貨一枚と大小の銅貨数枚だけで一泊程度ならともかくいつまでいる事になるか分からない状況では心許ない金額だった。


「と言うかこの街の宿に泊まって大丈夫なのか?」


 寝込みとか絶対襲いに来るな。いや、もしかしたら店側は普通なのかもしれない。所持金以上の不安を抱えながら俺は宿を探す為に踵を返――そうとして足を止める。

 足裏から感じる地面に何か違和感を覚え、俺はその場で寝転がって耳を地面につける。


「……何か聞こえる。声か?」


 ベニオの残したメッセージじゃない。地面の下に誰かがいるのだ。

 もっと良く聞き取るために地面を這ったまま移動すると、門のある場所の横辺りの地面からはっきりと聞こえてきた。

 はっきりと聞き取れない上に元から言葉は分からない。それでも何があるのか分かった。


「……+◯」


 当たり前だが地面に這いつくばっているのを門番に見咎められた。見咎められたどころかいきなり槍で突かれた訳だが、それを避けて立ち上がり、槍を突き出した奴の顎を殴る。

 空高く上がった門番を落ちるのを確認せず、俺は素手で地面を払う。

 暗くて分かりにくいが土を後で被せて均した跡があった。その部分を払うと鉄の板が土の下にあった。

 取っ手を探すのも億劫なので指突っ込んで破り、開けた穴を掴んで上の土ごと持つ上げる。鉄板の下はスロープになっていてランタンが一個が壁にぶら下がっている。結構ちゃんとした作りになっていて木の柱で補強してありスロープは通りやすいよう木の板が敷かれている。奥行きもあって、天井の高さや幅から馬車も余裕で通れる。


「◯∀+<、ブチ殺すぞワレェ!」

「八つ裂きにしてやる」


 俺に気付いたらしい他の門番達が走って来る。喋っている内容の大半が、闘技場で覚えた罵詈雑言ばかりだったので意味は通じた。

 なので持ってた鉄板を投げて処理しておく。風車みたいに回転する鉄板が門番二人をぶっ倒した。

 そういや、最初にアッパーでかち上げた奴は何処行った? 落ちて来ないな。上の方が騒がしくなってきたので壁の方に落ちたのかもしれない。

 俺はスロープを急いで駆け下りる。部屋がいくつかに仕切られていたがドアもなくスロープを下りた先で全て見渡すことができた。

 中では見覚えのある馬車があり、馬は馬具を外され一箇所に集められている。肝心の人間はと言うと、護衛は死体になっているか怪我を負わされ倒れており、他の男達は顔を晴らし拘束され、女達は地上にいた門番達と同じ鎧を着た連中に襲われているところだった。

 問答無用で門番達を打ちのめす。


「まったく、期待してないのに思った通りの事なってやがった。ほら、立てる奴は立て! 動けない奴は肩を貸して貰え! 女達は早く着替えろ!」


 言葉は通じないが、俺が逸るように手を叩きながらまくし立てれば大まかな意図は通じるだろう。

 最初は唖然としていたが目の前の脅威が排除されたことで幾分か冷静を取り戻した彼らが動き始める。

 彼らが全員起き上がる間に俺は馬車引っ張って来る。パッと見た限り馬はモンスターの大群に追われた時に酷使したので使いものにならない。

 仕方ないから俺が牽くか。荷物を軽くする為に荷物の大半を捨て、まだ動ける男達にそれを真似させる。ついでに人数が多いので馬車を三台門番が持っていた剣や槍で突き刺して固定しておく。


「はいはい、とっとと乗った! すぐに連中の仲間がやって来るぞ!」


 男に武器を持たせ、可哀想だが家族の死体に縋り付く夫人を馬車に無理矢理放り込む。

 胸糞悪くて仕方がないが、こういう時こそ何も考えずに目の前の事から片付ける。

 俺は彼らを乗せた連結馬車を引っ張りつつ、同時に余った馬車を押してスロープを上がる。馬車が地上に出た瞬間、爆発した。

 俺じゃない。異常を察知した他の門番達が魔法か何かで爆破したようだ。もしかすると門番ではなくただ(?)の通行人かもしれない。この街の人間なら辻爆破をやりかねないと僅か数時間の内に悟った。

 爆発に構わず前進して飛び散る木材を殴って跳ね返す。飛んで行った木材が集まった門番とやっぱりただの通行人(武器所持)に当たる。


「どけよ。いや、だからどけって。あと馬車を狙うな」


 飛びかかって来る連中を一蹴し、倒した奴を投げて火の玉を浮かべて馬車を狙おうとしていた男に投げる。

 そうやって馬車の中の人らを守りながら門の所に移動して、両開きのデカい門を蹴り開ける。外側には上から落とすタイプの鉄格子があったようでそれも一緒にアーチごと壊れて倒れた。


「あっ、これは使えるな」


 一旦馬車から手を離してアーチを形成していた石材を掴み、後ろから追ってきた門番達に投げる。


「『魔法』だ。『魔法』を撃て!」


 『魔法』という単語は覚えていたので門番達を指差しながら馬車の人らに連呼する。意図は伝わったようだが、彼らは困ったように首を振った。

 そうか、魔法は全員が使えるものではないのか。いや、正確には攻撃できるような魔法を持っていないのか。そう考えるとデフォで魔法が使える転移者は便利なんだな。

 魔法の代わりに壁から色々引っこ抜いて投げながら、壊した門を持ち出しサイズが合わないので一部を割って強引に嵌め込んで塞ぐ。

 時間稼ぎの間に鉄格子を半分にねじ切り丸めてボール状にする。それを持ったまま壁に登ると、やはり壁の上に門番達が残っていた。向こう側からはランタンの光が幾つも見えてこっちに向かってきている。


「フンッ」


 ボール状にした元鉄格子をボーリングの玉代わりに下投げで転がす。ボールは防壁の手摺をレールにして門番達を蹴散らしていく。反対側も同じ事をやって急いで馬車に戻る。

 ああ、そういや壁には魔法の大砲もあったんだった。何処で操作しているか分からないし時間も掛けたくない。

 取り敢えず内側から防壁のある方の壁に肩から体当たりする。これで防壁が歪んで魔法陣の機能もおかしくなればいいんだが。

 ついでに詰所の手前に元気な馬が三頭いたので使わせてもらう。この街の馬だから人喰い馬とかどうしようと思ったが、騒がしいのに慣れているだけで普通の馬らしく草食ってた。

 やれる事はやって、さあ脱出だというところで塞いでいた街側の出入り口が粉砕された。

 粉塵の中から現れたのは人間とは思えない半裸の巨人だった。四メートルを超えているかもしれない。腕の太さも相応で人を片手で握り潰せそうだ。


「∀△――」

「『ワタシコトバワカリマセーン』!」


 こっちを見下ろし指差しながら何か言ってきたが、先に攻撃を仕掛ける。まず膝を蹴り砕いてバランスを崩させ、上半身が倒れてきたところをアッパーで横になった側頭部をブン殴る。見るからにタフそうだったので強めに殴ったら天井にまで飛んで頭が埋まった。


「さーて、しっかり掴まってろよ」

「…………」


 馬車の中で待機してた人らは天井の奇怪なオブジェに目を奪われて返事をしなかったが、気にせず発進。確保した馬と一緒に馬車を引っ張る。

 どうやら俺の目論見は成功したようで門近くの壁からはあの魔法陣は浮かび上がらず紫色の光がバチバチなってるだけだった。無事な壁から魔法陣が浮かぶ上がってはいるが、射角が足りないのかギリギリ届いていない。

 こうして俺達はサゴスを脱出する事に成功する。夜の荒野を走り続け、防壁の上から漏れていたサゴスの街の光も見えなくなった頃に俺は足を歩みに変えた。マナアーマーのお陰で馬と並走してきた訳だが、馬達も一息ついたのか大きく息を吐いていた。

 荷台に乗る人達も途中で気が緩んだのか多くが眠っている。


「∪=〒⊥」


 その中でまだ起きている人が俺にどの方向に進むか指示を出す。馬車に残ったほんの僅かな荷物の中に地図とコンパス、あと蝋燭があったらしい。

 現在地は、サゴスがまともな街だったら通っていたであろうルートのようで、休まず進めば朝には人の暮らす街に到着できるようだ。

 成り行きで街の外に出てしまった訳だが、ベニオと蓮達はまだサゴスにいる。合図の花火がいつ上がるか分からないのでなるべく早く戻りたいが、着の身着のまま同然でボロ布を纏って布団代わりにするしかない彼らを放置するのも気が引ける。

 これは徹夜で走って移動するしかないと、うんざりしながらも思っていたら暗闇の荒野の中に炎の光を見つけた。

 一つではなく複数だ。目を細めてよく見ると統一された武具を着込んだ兵達がおり、黒いテントが幾つも設営されている。


「なんだあれ。真っ黒じゃねえか」


 鎧もテントも黒一色。あっても縁取りに赤か金で最大三色。中学生が好みそうな配色だ。一番色が多いのはテントの入口や側に立てられている旗に描かれた紋章だ。

 黄金の杖を持った紅いドラゴンの紋章だ。


「◯◇?」


 馬車も火に気付いたがよく見えないらしい。何か心当たりがあるかもと、一度立ち止まって地面に紋章を書き写す。

 すると、疲れ果てた顔をした男の血色が良くなり喜ばれた。

 仰々しい兵と紋章から上級階級か何かの組織かと思ったが、馬車の中で暗い顔をしていた人らに活力が戻るほど頼りになる相手らしい。

 取り敢えず俺達は焚火が行われているその場所に向かって進んだ。

 途中、向こう側がこっちに気付いたらしく動きがあった。せいぜい蝋燭程度の光でよくもまあこっちに目を向けられるものだ。

 夜にいきなり現れた俺達に慌てる事なく彼らは前に立ちはだかる。警戒はしているようだが明確な拒絶を含んだものは無いように見えた。

 馬車に乗っていた商人の男がこっち側の代表として彼らの前に移動して喋り始める。

 何を話しているのか分からないが、サゴスでの事を話しているのだろう。男の必死な顔と兵士の同情した顔からしてサゴスの悪名高さが知れる。

 成り行きを見守っていると、どうやら保護してくれる流れになったらしい。俺達は陣地の中に入れてもらい、食事と毛布が渡される。寝る場所も、どうやら予備のテントを使い新たに設営してくれるようだった。

 これなら大丈夫そうだ。俺は美味そうに野菜の入ったスープを食べている、俺が馬車を牽いている時にナビをしていた男の肩を叩く。振り返った彼に向けて手を振って別れのジェスチャーをし、俺は来た道を戻る。

 後ろで呼び止めているらしき声は聞こえるが無視して駆け出す。

 思ったよりも早くに安全な場所に預けられたが、ベニオの合図を見逃していないか心配だったのだ。

 街の規模としては大きなあの街で何処にいても分かる合図となれば相当派手な筈で、壁の外からでも見えるだろう。だけどそれでも見逃す可能性は外にいる以上ある。




 そんな逸る気持ちで俺は急いでサゴスに戻った訳だが、この時もう少し紅いドラゴンの旗を掲げる場所にいて責任者の顔さえ覚えていれば、ややこしい事態にならずに済んだかもしれなかった。


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