引きこもり158日目
「ぼくの引きこもりの妹」
【引きこもり158日目】
妹から撮影許可が下りたのは1週間前の事だった。妹の心境に一体どんな変化があったのだろうか?それはよく分からなかったし、今でもよく分からないのだけれど、とにかく妹からこんな内容のLINEが送られてきた。
「モデルしてあげてもいいから今から部屋に来て」
僕はカメラを抱えて妹の部屋にいった。
部屋にいた妹はパジャマ姿でベッドに寝転んでいる。さすがにTシャツはもう寒いようだ。
「お前、パジャマで撮るの?」
「なわけないじゃん。どんな服がいいのかわからないから着替えてないだけ」
なるほど、という事はこちらのリクエストに応えてくれるという事だな。
「そっか、なるほど!服の感じは可愛い感じでよろしく」
「なによ、その可愛い感じって。もう少し具体的に言ってくれない?」
「じゃあさ、どんな服持ってるのか見せてよ。ワンピースとかがいいかも」
妹は一瞬僕を睨んだが、ベッドから降りてクローゼットを物色し始めた。
妹がクローゼットを物色している姿を見て思ったのだけれど、モデルを頼むという事は自分の趣味趣向を相手に伝えないといけない事なのだな。
自分がどんな服を可愛いと思い、どんな表情を可愛いと思い、どんな仕草を可愛いと思っているのかを相手に伝えなければいけない。
それを妹に伝えるのか!
それは、
めちゃくちゃ恥ずかしいではないかー!!
人の写真撮るのがこんなにも恥ずかしい事だったとは。。。
撮られるよりも恥ずかしいんじゃないのか?
そんな事を考えていると妹が何着かのワンピースをベッドの上に並べた。
1つは白のワンピースで割とフリフリな感じ。「ヴァージンスーサイズ 」や「エコール」などの映画の登場人物が着ていそうな可愛いワンピースだ。
1つは黒。個人的にはこの黒のワンピースは一番好きかもしれない。シンプル形のワンピースで、ちょっと大人っぽい。
1つはパステルカラーの花柄が全面に描かれている。てか、妹がこんなラブリーな洋服を持っていたことに驚いた。こんなの着てるところ見たことないぞ。
「で、どれにする?」
妹はなぜかキレ気味で言う。なんで、キレてるんだ?
「せっかくだし、3つとも着るってのはどう?」
「は?」
「いや、まぁしんどかったらいいんだけど」
「やってみなくちゃわかんないな。とりあえず最初に着る服選んでよ。いけそうなら着替えるし」
口調はキレ気味だが、言ってる事はなんか優しい。
「じゃあ黒で」
「じゃあ着替えるから」
妹の目つきが更に悪くなるのを感じつつ妹の部屋を出て行った。
とりあえず自分の部屋で、どんな感じに撮ろうか考えていると妹からの着替え終了のLINEがきたから、再び妹の部屋へ。
黒いワンピースに身を包んだ妹は久しぶりに見るルームウェア以外の姿だった。
色の白い妹に黒いワンピースはとても似合っていた。
「じゃあ、とりあえず始めようか」
そう言うと、カメラを妹に向けた。
ファインダー越しの妹は美しかった。
自分の妹に対してこんな事を言うのは気持ち悪いかもしれないけれど、本当に美しかったのだから仕方がない。
特にポーズは指示していないのに、なんとなくそれっぽいポーズをとってくれている。
顔がはっきりと写っていない写真が撮りたいから、妹にうつむいてもらったり、髪の毛で顔が隠れるようにしてもらったり、妹の部屋にあるレコードで顔を隠したりして撮影した。
3時間ほど撮影し、ある程度自分が撮りたいものを撮り終える。
「今日はこの辺にしとこうか」
「今日はって明日もやるつもり?」
「明日も撮らせてくれるならお願いしたいね。写真撮られるのどうだった?」
そう聞くと妹は「うーん」とか「あぁー」とか言いながら
「割と楽しかったよ」
と、明後日の方向を向いて言った。
「じゃあ、明日は外で撮らない?天気もいいみたいだし」
「外で?寒いじゃん」
「でも、部屋だと限界あるし、外の光の下で撮った方が綺麗だと思うよ」
「なるほど、考えとく」
「考えといて。とりあえず、今撮った写真を見てみようじゃないか」
そう言うと、僕は一旦妹の部屋から出て、自分の部屋にあるノートパソコンを持ってきた。
勉強机の上にパソコンを置くと、妹も近づいてきた。
カメラのSDカードをカメラに差し込んで、さっき撮った写真を見てみる。
3時間で400枚ほど撮っていた。
パソコンの画面で見る妹の写真はなかなか様になってた。自分が撮影したとは思えないし、妹も自分の妹とは思えないくらい美しい。
「やっぱお兄ちゃんセンスいいよね」
パソコンの画面を見ながら、そう呟く妹の言葉がありがたい。
「お前もなかなかのモデルっぷりだなー。凄くカッコイイと思うよ」
「キモ」
画面を見つめたまま、真顔でそう返される。
「さっきの話だけどさ」
しばらく、画面を食い入る様に見ていた妹が、少し照れた様な顔でそう言った。
「さっきの話って?」
「外で撮るってやつ」
「あぁ、外で撮ろうよ」
「うーん、外ってどこよ?」
「そうだなー、とりあえず近所の公園でも行く?」
「近所の公園くらいなら、まぁ、いいよ」
「じゃあ決まりね!明日はしんどいか?」
「しんどくないよ、全然」
「じゃあ明日だな!」
「うん」
こうして、妹は実に158日ぶりに家から出ることになった。
妹の引きこもりをなんとかしたいと思っていたわけではないけれど、妹に勧められた写真で、妹を外に出すことになったのはなんだか不思議だ。
学校にはまだ行く気がないみたいだけど、まぁそれはそれでいいのではないかと思う。
学校だけが世界じゃないし、妹は自由に生きるべきだと思うから。
僕が妹の写真を撮り続け、それが認められたら、妹もモデルとしてやっていけちゃたりして。そうなればいいのに。
そんな妄想をしていると、妹に頭を叩かれた。
「なにニヤニヤしてんの?キモいからやめて」
そう言う妹の目はいつもよりもキラキラしていた。
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