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引きこもり7日目

妹が引きこもってから1週間が経った日、1週間ぶりに妹と再会した。


この1週間、時々LINEで連絡を取ってはいるが、初日にDVDを貸して以来会っていなかった。


食事は部屋でしているようだし、風呂は家族が寝静まった夜中に入っているようだ。


DVDを借りに来るかと思いきや、この1週間は音沙汰がなかった。


妹が言うには引きこもる前に古本屋で大量に本を買ったらしい。用意周到な事だ。


「こんなに時間があることはそうそう無いんだから、普段なかなか読めないような本読まなきゃね」


っといてことで、プルーストの『失われた時を求めて』を読み始めたらしい。


プルーストに手を出すとは、我が妹ながらなかなかやりおる。


僕もいつか読みたいと思いつつも後回しになってる本だ。


この日は妹から


"部屋に来て"


という、至極シンプルなLINEが来たので素直に行ってみた次第である。


ドアをノックすると、部屋の中から割と明るめの声で妹が返事をしてきた。


「入っていいよー」


ガチャっとドアを開けると、 Tシャツと短パンを履いた妹がベッド上であぐらをかいていた。


ちなみに、 TシャツはJoy Divisionだ。


しかし、かかっていたレコードはThe Stone Rosesだ。しかも、2nd!


「2nd聴いてんの?」


「なによ、悪い?」


「いや、悪くないけど。珍しいよな」


「あたしは2ndも好きなの!」


「まぁ、俺も嫌いではないがね。 TシャツはJoy Divisionで今日はマンチェスターな気分かよ?」


勉強机の椅子に座りながら、言う。


「気分は常にマンチェスターよ。ところで、お兄ちゃんって『第七官界彷徨』持ってたよね?」


「持ってるけど、前に貸したことなかったか?」


半年ほど前に貸してやったら随分と喜ばれたのを覚えている。普段あまり妹を喜ばすことがないから印象に残っていた。


「前に借りたんだけど、また読みたいから貸してくんないか?本当は買いたいんだけど、ほら、あたし中学生でお金ないじゃん?引きこもる前に『失われた時を求めて』やら『ダークタワー』やら買って今はますますお金ないのよ」


こいつ、スティーブン・キングの『ダークタワー』も買ってやがったのか!


「なるほどな、そりゃ金も無くなるわな。お前まさか『グイン・サーガ』にも手を出したんじゃないだろうな?」


「それは買ってない。だってあれ完結してないでしょ?」


「らしいな」


まぁ、『グイン・サーガ』は僕も読んだことないからよくはしらないんだが。


「で、貸してくれるの?」


「あぁ、今度持ってきてやるよ」


「いや、今度じゃなくて今から持って来てよ」


こ、こいつ何様だ!?


と、思いつつも。


「あぁ、今からか。わかったよ持ってきてやる」


「だから、お兄ちゃんって好きよ」


と言いながらウインクをしてきやがった。


可愛い妹のためだし、部屋も隣だからそんなに手間はかからんからな。


「じゃあ、ちょっと取ってくるよ」


立ち上がって、部屋を出ようとすると妹に止められる。


「ちょっと、待って」


「なんだよ?」


「なんか、面白い映画のDVDがあったら一緒に持ってきて。あたしの趣味だいたいわかるでしょ?」


「まぁ、わからんでもないが。なにがいいかな?」


妹が好きそうな映画は部屋から勝手に持って行ってだいたい観てる気がするのだが。


頭をかきながら妹の部屋を出て自分の部屋に入る。


DVDが置いてある棚を眺めながら妹が好きそうな映画を考える。


あいつは割と好みが偏ってるから、わかりやすいといえばわかりやすい。


とりあえず、好きそうなのを何本か持っていってやるか。


それから、『第七官界彷徨』だったな。本棚にあるその本を取って再び妹の部屋へ。


妹はベッドの上でカエルのぬいぐるみを抱きながら足をパタパタさせて、なんだかご機嫌だ。


「とりあえず、『第七官界彷徨』はここに置いとくぞ」


と、言って机の上に本を置いた。


「あと、映画なんだけど何本かテキトーに持ってきてやったよ」


と、言ってDVDも机の上に置いた。


「何持ってきてくれたのー?」


「とりあえずお前が好きそうなのを適当に持ってきたよ。もう観てるやつもありそうだけどな」


「そーなんだ。どれどれ」


そういうと、ベッドから起き上がり机の上に置いたDVDを手に取り眺め始めた。


「おぉ、『ミツバチのささやき』に『エコール』『ロストチルドレン』かー。お兄ちゃんってやっぱりロリコンだよね」


言うと思った。


「いや、ロリコンとかじゃないんだよ。女の子がテーマになってる映画が好きなだけだ」


これは説明するのがとても難しい。


恋愛対象ではないけれど、少女は美しいと思う。少女の儚さが美しいのだ。でも、これはあまり言うとやはりロリコンと思われるから普段言わないでいる。


「ふーん。そーいえば、お兄ちゃんって専門学校でデザインの勉強してるんだっけ?」


「あぁ、そうだよ。興味あんのか?」


僕は、今年の春から専門学校でwebやらデザインやらの勉強をしている。


特にwebデザイナーやら、グラフィックデザイナーになりたいってわけでもないんだけれど、インプットばかりしてて、アウトプット出来てない人生だったから、何かしらクリエイティブな事がしたかった。


「いや、興味はないけどさ。なんとなくなんだけど、お兄ちゃんは写真とか向いてる気がするよ」


「写真?なんで?」


「んー、うまく説明できないんだけどさ。お兄ちゃんって選ぶのが上手いじゃん?」


「選ぶ?」


「そうそう、映画や音楽や小説。お兄ちゃんが選ぶものって凄くいいと思うんだよね」


そんなことを言ってくれるなんでなんて優しい妹だ!


「そ、そうかな?」


照れつつ。


「そうだよ。今だって持ってきてくれた映画3本とも凄くセンスいいと思うよ。だから、写真が似合うんじゃないかと思うの」


「そこで写真の話になるんだ?」


「あのね、お兄ちゃん。写真って選ぶのが芸術って言われてるの知ってる?」


「し、知らん」


「写真って0から1を作る芸術じゃないのはわかるよね?」


元々あるのもを写してるんだから、0から1じゃないわな。


「それは、わかるよ」


「何を撮るか?どう撮るか?ってひたすら選んでいく作業なんだって。お兄ちゃんに向いてそうじゃない?」


「なるほどなー」


まさに、目から鱗が落ちた瞬間だ。


写真を撮ろうなんてあまり考えたことなかった。そりゃ、iPhoneのカメラで適当に撮ることはあっても、写真を自分の表現として撮ろうと思ったことは無かったからだ。


「お前、どこでそんな情報を収集してくるの?」


「お兄ちゃん、今はインターネットというとても便利なものがあるの知らない?」


まぁ、ネットからだわな。


「わかった。写真か。面白そうだな。やってみたいと思い始めてるよ」


「わぁ、お兄ちゃんって素直。大人になってもそのまま素直なお兄ちゃんでいてね」


「もう大人だ。そして、子供のお前に言われたくないね」


「楳図かずおの『14歳』って漫画は14歳が大人と子供の境界にある年齢だから14歳にしたらしいよ。だから、私は今まさに大人でも子供でもない境界線にいるんだよ」


なんで、ここで楳図かずおが出てくるんだ?


「そ、そうなんだ。知らなかったよ。じゃあお前も来年からは大人か」


「どーなんだろうね?もう用事済んだから出てっていいよ」


そう言いながら机の上に置いた『第七官界彷徨』を手に取り読み始めた。


「じゃあ、またな」


一つ屋根の下で暮らしているのに週一くらいのペースでしか会えない妹ってなんなんだろうか。


そんな事を考えながら自分の部屋に引き返した。


それにしても、写真か。面白そうだな。


早速、Amazonのアプリを開いてカメラを見てみる。


んー、どのカメラを買えばいいんだ?さっぱりわからん。


とりあえず出せる予算は5万くらいかな?そんな予算じゃたいしたカメラは買えないのはわかってはいるが、初めて買うカメラなんだからそんなに高いの買わなくてもいいかな、って思う。


だって続けるかどーかもわからんのだから。



こうして、引きこもった妹から写真をすすめられて妹の引きこもり生活7目は終了した。


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